山で食べるものは格別の味がする。キャベツもしかり!?『山のごはん』【書評】

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

評者=小野泰子

山のごはん

著:沢野ひとし
発行:角川文庫
価格:770円(税込)

 

半世紀以上の登山歴をもつイラストレーターの沢野ひとしさん。本書は沢野さんが過去に発表した、山ごはんにスポットを当てたイラスト&エッセイのなかから、18タイトルをまとめたもの。関東や北アルプスの山々を中心に繰り広げられる山行は、ゆったりとした低山ハイクあり、ハードな登攀ありで、キャンプめしに山小屋ごはん、行動食が次々に登場する。状況描写が細やかで、どの山行記も沢野さんのパーティに自分も加わっているような気になり、なんだかおなかが減ってくる。

くすりと笑ったのは、沢野さんが“わがままを言って”酒の肴にキャベツを買うくだりだ。「前夜のフリーズドライ宴会〈北鎌尾根〉」では信濃大町の駅前で、「ホテル並みの朝食〈飯豊連峰〉」では会津若松の駅前で。まるまる1個はかさばる上に重い。それを優しいメンバーに持ってもらい、山へ運ぶ。そのおいしさはいかほどなのか。気になって仕方がない。

最後に、共感を覚えた一節を記しておく。「彼ら(山仲間)はいつの間にやら四十代に入り、私もすでに五十歳を超え、山の日程も天候より仕事の段取りによって決まってしまう。それだけに山に向かうときは、いくらか真摯な気持ちになる」。食も含めた山の時間をていねいに楽しみたいと思った。

 

評者=小野泰子

おの・やすこ/編集者・山ZINE作家。北アルプス山麓を拠点に、紙とウェブ媒体で山関連の編集、執筆を行なう。​​​​

山と溪谷2022年10月号より転載)

登る前にも後にも読みたい「山の本」

山に関する新刊の書評を中心に、山好きに聞いたとっておきもご紹介。

編集部おすすめ記事