先人から受け継いだ「水場」を守り、つなぐ。五箇山自然文化研究会

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豊かな自然や文化を有する山岳エリアを認定する日本山岳遺産。それぞれの認定地では美しい山を次世代へつなげる活動が行なわれている。今回は、富山・石川県境の大笠山で登山道整備などに取り組んでいる「五箇山自然文化研究会」を紹介する。

取材・文=一ノ瀬伸、写真=五箇山自然文化研究会

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大笠山
大笠山はなだらかに見えるが、登山道は急峻だ

五箇山自然文化研究会(2019年度認定)

Area:大笠山
Main activity:水場の管理
Group profile:
1993年に設立。旧上平村の「自然文化解説員養成講座」の受講者らで結成。メンバーは現在67人。五箇山の文化や自然を継承する活動を行なう。山部会は大笠山の水場維持管理などを担う。
https://www.facebook.com/gokayamashizenbunka/

富山県南西部に位置する五箇山(ごかやま)地域。40の小さい集落からなり、そのうち相倉(あいのくら)と菅沼の2集落は、岐阜県の白川郷とともに伝統的な合掌造り家屋が評価され、世界文化遺産に登録されている。

その五箇山で、先人たちから受け継がれてきた暮らしの知恵や豊かな自然を次世代に伝える活動を行なっているのが、五箇山自然文化研究会だ。29年前に設立し、メンバーは合掌造りの維持管理や観光客への解説、暮らしや食文化の調査など幅広く活動している。

五箇山合掌造り集落
1995年に世界文化遺産に登録された五箇山合掌造り集落

その取り組みの一つとして、日本三百名山に選ばれている、地元の大笠山(おおがさやま)での登山道整備がある。メインは九合目付近に湧く水場の維持。古くから管理を担ってきた地域住民の高齢化を受け、会が2007年に引き継いだ。もともと水場近くにあった避難小屋は雪崩で壊れたため、2013年に山頂近くに移設。その建て替えにも尽力した。

2020年には、登山者の安全や利便性を考慮し、登山道から水場までの約200mの歩道を整備。その後は毎年、歩道の草刈りを実施している。山部会担当の酒井省吾さんは水場の重要性を説明する。

「大笠山は急で険しい登山道を登っていきますし、笈ヶ岳(おいずるがたけ)や大門山(だいもんやま)へ縦走する人もいるので、水がけっこう必要になります。たくさんの水を持って上がるのは大変なので、現地調達できるのはありがたい。僕自身も登っていて、実際にそう感じています」

五箇山自然文化研究会の活動
登山道から水場への歩道を整備するメンバー

急峻な道のりを経てたどり着いた山頂からは、美しい景色が広がる。「登りきると白山がドーンと見えて、日本海や金沢平野も見渡せます。展望のよさが魅力です」と酒井さん。

会では毎年、参加者を募って登山や川歩きなどのイベントを開いている。地域の自然を楽しみながら、未来へとつないでいるようだ。

「水場の管理もそうですし、地元の人たちが昔から続けてきた恒例行事を守りたい、という思いはありますね」

★日本山岳遺産認定地 詳細: 大笠山[ 富山県 ]五箇山自然文化研究会 (2019年)

日本山岳遺産候補地を募集中! みなさまの活動を支援します

日本山岳遺産基金では、今年度の日本山岳遺産の候補地と支援団体を募集しています。認定された支援団体には、活動費を助成します。

支援団体の条件

  • 法人格を有する団体。または、同程度に社会的な信頼を得ている任意団体
  • 山岳環境保全などの活動を、特定の山岳エリアで3年以上行っている団体
  • 支援対象事業の実施状況、予算、決算などの財政状況について、当基金の求めに応じ適正な報告ができる団体

助成対象となる活動費の主な用途

  • 資材・物品の購入など。またはこれらの修繕などの経費
  • 旅費・交通費、宿泊費、食費、通信連絡費、現地事務所の光熱費などの経費
  • 資料の翻訳、印刷、出版などに係る経費

助成金総額 250万円(予定)

詳細は日本山岳遺産基金のウェブサイトをご覧ください。
https://sangakuisan.yamakei.co.jp/isan-kikin/entry.html

山と溪谷2022年11月号より転載)

プロフィール

日本山岳遺産基金

日本の山々がもつ豊かな自然・文化を次世代に継承していくために2010年に設立。「山岳環境保全」「次世代育成」「安全啓発登山」を目的とし、日本山岳遺産の認定と活動団体への助成金拠出、上記目的に合致した各種イベントやキャンペーン、山と溪谷社の各種媒体を使った広報活動などを行なう。
https://sangakuisan.yamakei.co.jp/

日本山岳遺産の横顔

日本山岳遺産基金は、豊かな自然や文化を有する山岳エリアを「日本山岳遺産」として認定し、その地域で山岳環境保全や登山道整備などの活動を行なう団体に助成金の拠出および広報による支援を行なっています。ここでは、これまでに日本山岳遺産に認定された山岳エリアと活動団体について紹介していきます!

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