登山者だけが「歩かず」「待たず」味わえる至高のグルメ。魅力あふれる60軒の下山メシガイド

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

日帰りで近郊の山を目指すときの楽しみの一つが「下山後のご飯(または一杯)」という人は多いのではないだろうか? 筆者も下山後にビールを飲むのが楽しみで、時間がとれるときは駅近のお店に立ち寄る。

けれども、お店選びにはいつも頭を悩ます。山の最寄り駅に近いお店は、概ね登山者は歓迎される。しかし時には、利用するのは地元の常連客ばかりというお店もあって、居心地の悪い思いをすることもあるのだ。

特に筆者は、近頃はプライベートで登るときはほぼ一人だ。気になるお店があっても、一人では入る勇気がなくて、コンビニで缶ビールとおつまみを買って済ませてしまうことも多い。また、ガイド登山の下山後には、2~3人のお客様と一緒に食事でもしていこうということもある。そんな時も入ったことのないお店では、本当にここで良いのだろうかと、考え込んでしまうことが少なくない。

とは言え、筆者に限らず多くの人が、初めてのお店に入るのをためらってしまうというのは、よくあることではないだろうか?

ここで紹介するヤマケイ新書の最新刊『関東周辺 美味し愛しの下山メシ』は、登山者のそんな悩みの解決に役立つに違いない一冊だ。

『関東周辺 美味し愛しの下山メシ』

登山後の楽しみの一つが山麓にある美味しい料理、すなわち下山メシ。 歩かず、待たず、食べられる! 下山後に居心地のいい店60軒


著:西野 淑子
価格:1100円(税込)​

amazonで購入

 

紹介されているお店は、全部で60軒。エリアは奥多摩にはじまり、高尾・富士五湖周辺・中央線沿線、秩父・奥武蔵、丹沢・箱根・三浦半島、茨城・千葉・群馬・栃木と、関東周辺の主要エリアを網羅。著者の西野淑子さんは、「ゆる登山」を提唱し、東京近郊の日帰りで登れる山々の魅力を伝え続けてきた、登山ガイドでもあるフリーライター。その活動の中で、丁寧な取材を積み重ねてきたからこそまとめることができた、下山後に楽しめるグルメのガイドブックだ。

表紙に記されている、この本のお店選びのポイントは「歩かず」「待たず」の2つとのこと。それは、筆者が飲み食いするお店を選ぶときに重視するポイントとも完全に一致している。お店は駅、またはバス停からできるだけ近いほうがいい。山を歩くのは苦ではないが、お酒を飲んでから何100mも歩くのはかったるいのだ。

そして待たずにすぐ入れることも大切だ。下山したとはいえ、帰宅するまでにまだ1~2時間はかかるのだ。電車やバスの便が限られていて、あまり時間に余裕がない場合もある。並んだりせずに入れるお店がいい。

さて、取り上げられた60軒の中には、筆者も利用したお店もある。特に飯能駅前の「おらく」や、渋沢駅前の「いろは食堂」は大好きなお店で、紹介されていて嬉しい。

筆者も大好きな、渋沢駅前の「いろは食堂」のきのこ鍋


そのいっぽうで、御嶽駅前の「東峯園」や、新松田駅前の「喫茶モンタナ」のように、これまでに前を通って気になってはいたけれども、入ったことのないお店もたくさん紹介されている。そのような、ちょっと個性的な店構えのお店にも躊躇なく入っていける西野さんに感心すると同時に、お店の様子を知ることができてとても興味深い。

また、取り上げられているのは小さな食堂ばかりではない。日帰り入浴施設に併設された、大人数でも利用できる食事コーナーなども含まれていて、バラエティ豊かで実用的だ。

そしてそれぞれのお店の紹介文は、飾り気のない軽快な文章で記されていて、とても読みやすい。西野さんがそのお店を見つけて、中に入り、料理を注文して、食べるまでの一連の流れが綴られているのだが、お店の雰囲気や店主の人柄などに対して、親しみを感じる気持ちがよく伝わってくる。そして実際に料理やお酒を口にしたときの、美味しさや爽快感が見事に表現されていて、読んでいてとても愉快な気分にさせられる。

ちなみに紹介されている60軒のうち、筆者がこれまでに訪れたことがあるお店は、わずか14軒。あちこちのお店で食事をしてきたつもりだが、意外に少ないことが驚きだ。しかし未訪のないお店がまだたくさんあるというのは、それだけ楽しみも多く残されていることでもある。これをきっかけに、今まで敬遠していたお店にも足を運んでみたい。

皆さんもぜひこの本を参考にして、魅力あふれる下山メシを味わってみよう。

プロフィール

木元康晴

1966年、秋田県出身。東京都山岳連盟・海外委員長。日本山岳ガイド協会認定登山ガイド(ステージⅢ)。『山と溪谷』『岳人』などで数多くの記事を執筆。
ヤマケイ登山学校『山のリスクマネジメント』では監修を担当。著書に『IT時代の山岳遭難』、『山のABC 山の安全管理術』、『関東百名山』(共著)など。編書に『山岳ドクターがアドバイス 登山のダメージ&体のトラブル解決法』がある。

 ⇒ホームページ

登る前にも後にも読みたい「山の本」

山に関する新刊の書評を中心に、山好きに聞いたとっておきもご紹介。

編集部おすすめ記事