わずか13g!ミニマルを極めた超軽量なアルコールストーブ エバニュー/ブルーノートストーブ|高橋庄太郎の山MONO語りVol.99

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高橋庄太郎の山MONO語り

山岳・アウトドアライター、高橋庄太郎さんが、最新山道具を使ってレポートする連載。さまざまな角度からアウトドアグッズを確認し、その使用感と特徴を余すことなくレポート! 今回のアイテムは、エバニューの「ブルーノートストーブ」です。

文・写真=高橋庄太郎

 

ブルーノートストーブ

現代の登山装備の火器(ストーブ/バーナー)の主流は、やはりガスタイプだ。バーナーヘッド(本体)にガスカートリッジを取り付けるだけで、安全かつ簡単に強い火を使えるのだから、それも道理である。だが一方で、アルコールストーブも根強い人気を持っている。火力はガスにはかなわないとはいえ、燃料用のアルコールは全国の小さな薬局やドラッグストアで売っており、入手のしやすさはガスタイプを圧倒的に勝る。また、燃料が金属の缶に封入されているガスタイプは重量がかさみがちだが、アルコールは必要な分だけ小さなボトルで持っていくことができ、荷物の軽量化やコンパクト化にも直結する。ただし、誰にでも簡単に使いこなせるとはいいがたく、使用するのには多少のコツが必要だ。

そんなアルコールバーナーのなかで、昨年に発売されてすぐ大きな話題になった製品がある。それがエバニューの「ブルーノートストーブ」だ。

ブルーノートストーブ

写真で見ればわかるように、シンプルなカップ状で、ミニマルを極めたデザインになっている。

 

構造をチェック

最大の特徴は、なんといってもその重さと大きさである。素材はアルミニウムで、サイズは外径50㎜&高さ32㎜、重量はなんと13g! ガスストーブのバーナーヘッドのなかで超小型を探してきても、おそらく重量は1/5くらいで、サイズは2/3ほどではないだろうか。しかもガスカートリッジ抜きでの比較である。すさまじいほどの軽量コンパクト性だ。

ブルーノートストーブは単体でも使えるが、点火のしやすさを向上させるための「プレヒーティングプレート」も別売りされている。

ブルーノートストーブ

ブルーノートストーブと同じアルミニウムで作られており、直径62㎜&高さ7㎜、重量7g。平たい皿型で、こちらも超軽量だ。

そして、この「ブルーノートストーブ」と「プレヒーティングプレート」を組み合わせて販売しているのが、今回ピックアップしている「ブルーノートストーブセット」というわけである。

ブルーノートストーブ

使用時は、このようにプレヒーティングプレートの上にブルーノートストーブをおいて点火する。

繰り返すが、セットとして使うにせよ、この小ささは驚くべきものだ。

ブルーノートストーブ

掌の上に3~4つは置けそうなサイズ感なのである。

だから、携行性もすばらしい。今回は組み合わせて使用するクッカーには同社の「Ti Mug pot500」を選んだが、容量500mlのクッカー内部に、アルコールを入れる燃料ボトル(60ml)、チタン製の風防、そしてライターを入れても隙間だらけだ。

ブルーノートストーブ

これらの重量は、アルコール抜きで123g。クッカーをより小型のものにすれば、100gを切る調理用具のセットが作れるのである。

さて、改めてブルーノートストーブを見てみよう。シンプルながら、繊細な設計・デザインがなされているのがわかる。

ブルーノートストーブ

このストーブは二重構造。ダブルウォールタイプのカップを想像してもらえばわかりやすいが、内側底面には円形にスリットのような溝が付けられており、アルコールをこの部分に入れると外側と内側のウォール(壁)の隙間にアルコールが浸透していく。

その後に点火すると、炎が噴き出すのはサイドに10つ並んだ小孔である。

ブルーノートストーブ

アルコールバーナーにはいくつかの種類があるが、これはいわゆる「サイドバーナー」式。上から炎が出ていなくてもサイドからクッカーへ炎をあてることができ、そのためにストーブの上に直接クッカーを載せて使うことができる。言い換えれば、ゴトクを組み合わせて使う必要がないということで、そのことも一般的なアルコールストーブよりも荷物を軽量化することにつながる。

 

点火の作業と炎の様子は…

実際に火をつけてみよう。以下はプレヒーティングプレートを使わず、ブルーノートストーブに直接点火したときの様子だ。

ブルーノートストーブ

アルコールの炎は青みがかっており、とくに日中の明るい時間帯は点火状態が非常にわかりにくい。だが、このように暗い状態ならば“点火できた”ことがすぐにわかる。

ブルーノートストーブへ直接点火する作業は少々難しい。点火すべきアルコールは小さなカップ状の底面に溜まっており、小さなライターでは火が届かず、むしろ自分の手に炎が触れそうになるほどだ。だからといってブルーノートストーブを傾けて点火しようとすると、アルコールが流れ出して炎が周囲にまで広がりかねない。

しかし、ブルーノートストーブの場合、以下の写真(ピンボケで失礼)のようにプレヒーティングプレートへ少量のアルコールを垂らし、そこに点火する方法もとることができる。

ブルーノートストーブ

すると、プレヒーティングプレートの炎は、余熱されたブルーノートストーブ内のアルコールへ時間とともに移り、ブルーノートストーブ本体へ点火する必要はなくなる。

ブルーノートストーブ

それゆえに、ブルーノートストーブへ直接点火するよりも安全かつ簡単に使えるのだ(この画像は、分かりやすくするためにアルコールを少し余分に使用した)。

では、実際に“使用可能”な状態になると、どのような炎が立ち上がるのだろうか。

写真ではクッカーを置いていないために上からも炎が出ているが、アルコールストーブらしい青みがかった炎が生まれ、ほとんど音も出ず、きれいに燃えている。この柔らかな雰囲気が好きで、アルコールストーブを愛用している人が多いのも納得だ。

ただ、何が悪いのか、上の写真のようにいつもきれいに炎が出るわけではない。テスト時は小孔のなかで一カ所だけ火が出ていなかったり、ときには半分くらいしか炎が出ていなかったりすることもあった。また、燃やし続けることで次第に安定していくこともあるのだが、そのまま最後まで火が出てこない小孔が残ることもままあった。

ブルーノートストーブ

この不安定さの原因がどこにあるのか僕にはわからなかった。日中の明るいときならば不完全な燃え方でも気づきはせず、そのまま使った結果、沸騰までの時間が余分にかかるなどという可能性もあるだろう。その点は少々心配である。

 

お湯を沸かしてみる

次に、実際にクッカーを使ってお湯を沸かしてみる。ブルーノートストーブのカタログ的なスペックでは、最大使用量である15mlのアルコールを使い、330mlの水を5分未満でわかすことができるという。

ブルーノートストーブ

そんなわけで、気温18.2℃の室内で、カタログ通りに330mlの水を沸かしてみた。

プレヒーティングプレートに点火し、ブルーノートストーブ本体の炎が安定したと思われる瞬間にクッカーを乗せる。そして、それから火が消えるまでの時間と、消えたときの温度を計っていった。

ブルーノートストーブ

1回目のテストでは、4分45秒で12.3℃の水が83.5℃まで上昇。2回目のテストでは、5分56秒で94.8℃に、3回目のテストでは5分20秒で91.8℃になった。3回ともクッカーの底に水泡は生まれたものの、沸騰までは行かなかった。とくに1回目の83.5℃ではカップラーメンを食べるお湯として使う場合でも物足りない温度だ。だが、2回目、3回目の温度であれば、たとえ沸騰まではしなくてもカップラーメンには十分。ほぼお湯を沸かせたといってもいいのではないだろうか。ただし、これは“無風の室内”という好条件下のテストである。

なお、何度もテストをしていて感じたのは、ブルーノートストーブを扱うには、プライヤー付きのマルチツールのようなものが不可欠だということ。

ブルーノートストーブ

後述するが、初回の燃料だけではお湯を沸かしきれない場合、追加で燃料を補給しなければならないことがあり、そのときに素早く作業をするには素手では怖いのだ。また、点火後にブルーノートストーブやプレヒーティングプレートを置いた位置を微調整したい場合にも重宝するはずである。

 

山中でテスト! 使い心地は?

室内でのテストのあとは、山中でのテストを試みた。テスト時の気温は2℃で、木々の枝がわずかにそよぐほどの弱風だった。風の影響が生まれ、気温も低い山では、どんな使い心地なのだろうか?  

まずは、アルコールをプレヒーティングプレートに垂らし……

ブルーノートストーブ

ライターで点火し、炎が安定するまで様子を細かく観察しようとした。だが、残念ながら明るい光の下ではほとんど炎の色がわからず、写真に撮ることもできなかった……。

ブルーノートストーブ

しかし手をかざすとほんのり暖かく、無事に点火できていることは確認できた。

ところで、このようにテストする場所を作り出すまでにはなかなか時間がかかった。それはブルーノートストーブを置く位置は“水平に近づける”ことが重要だったからである。

ブルーノートストーブはその構造上、相当に高いレベルで水平に近い状態で使わねば、クッカーが滑り落ちたり、ひっくり返ってしまったりするのである。台として使った岩の下に別の岩を挟んで微調整し、何度も挟み直して可能な限り水平に近づけるが、さらにガタつかないようにするのには手間取った。

見ての通り、ブルーノートストーブの底面は磨かれていてツルツルだ。プレヒーティングプレートの裏も同様で、これはつまり、置いた場所との摩擦が少なく、滑りやすいことを意味している。置き場所が岩のようにザラ付いた場所であっても、少し傾いているだけで、クッカーをしっかりと置くことができず、ブルーノートストーブ自体が転がり落ちてしまうのだ。同様に、クッカーとの接点になるブルーノートストーブ上部の縁も、ツルツルである。だから少しでも傾いていると、クッカーを上に置いて重心が高くなった途端、クッカーが滑ってひっくり返る。

このとき同時にブルーノートストーブも倒れてしまうと、ブルーノートストーブ内にアルコールが大量に残っている場合は周囲に火が広がりかねない。じつはこのテストのとき、僕は2度もクッカーをひっくり返すという失敗を犯し、火傷はしなかったものの、沸かしかけのお湯を無駄にしてしまった。不安定だとわかっていたのに、なんとも悔しい……。この点には非常に注意してほしい。

ともあれ、点火後はお湯が沸くのを待つだけだ。

近くの沢からとった水の温度は、わずか4℃。沢の周りは氷結していたほどである。

アウトドアのフィールドでの調理時は、水温だけではなく、風の影響も大きくなる。

ブルーノートストーブ

そこでチタンの風防も併用する。これも同社の「Ti9Gウインドシールド」という製品で、1枚9gと超軽量である。

しかし僕はもう少し風防の使い方を考えればよかったかもしれない。軽すぎる風防は、風を受けると簡単に左右に移動してしまい、クッカーに触れてしまう。こうなると風圧がクッカーにかかってしまい、ふいに強めの風が吹くと、クッカーがひっくり返りかねないのだ。

ブルーノートストーブ

風防自体を石や岩で固定し、クッカーには触れないように使用したほうがよいだろう。

この寒冷な条件では、15mlのアルコールはお湯が沸かすには不十分だった。

はじめに使った15mlだけではお湯が沸く前に火が消えてしまい、消火を確認してからもう一度15mlを入れ直し、再度点火して加熱する必要が出てきたのだ。

ブルーノートストーブ

合計30mlのアルコールを使い、お湯ができるまでにかかった時間は8分42秒。最高温度は約92.0℃であった。

気温18.2℃の無風の室内でテストした際は、水330mlの水が水温12℃程度から90℃程度になるまでに、5分ほどかかった。理想的な環境でも5分程度なのだから、低温で風がある山中ではもっと時間がかかるのは当たり前である。しかしこれは山中で使う場合、カタログ通りに燃料1回分の15mlで330mlを沸騰させるのは、じつはかなり難しいということでもある。

ブルーノートストーブ

ちなみに、定番カップヌードルの普通サイズに必要なお湯の量は、300~330mlの範囲(“味”によって多少異なる)。気温が高い無風時などという好条件ではなく、寒冷期や風があるとき、そして炎がきれいに出ていないときなどは、もっと多くの燃料が必要になる。沸騰前に消火したら、途中で燃料をプラスして再点火することも考え、余裕ある分量の燃料を持つと安心だ。

もちろん、いつも330mlのお湯が必要なわけではない。

ブルーノートストーブ

テスト時はカップラーメン以外にもお湯で戻したフリーズドライのリゾットも作ってみたが、こちらに必要なお湯の量は180ml。15mlのアルコール1回分で加熱する水の量としては、ちょうどよかった。一人分のコーヒーを淹れるのにも十分であろう。

「超軽量コンパクト」こそが最大の特徴であるブルーノートストーブは一度に使える燃料の量が少なく、燃焼時間が短いのは事実だ。軽コンパクトさと長時間燃焼は両立せず、燃料を追加して2回に分けてお湯を沸かすくらいのことは仕方がない。そこは割り切って考えるべきで、無理に改良すべき点ではないと考える。

一方、改良してもらいたいのは、ブルーノートストーブ上部の縁と、底面の滑りやすさだ。上部の縁は一般的なストーブであればゴトクに当たるが、これらの部分にミゾを加えたり、凹凸をつける加工をプラスしたりすれば、滑り止めの効果が発揮され、クッカーがひっくり返りにくくなるに違いない。この改良はそれほど難しくはないはずで、購入後に自分でやすりをかけ、軽くザラつかせてもよさそうである。

 

まとめ:クセはあるが、使いこなして手元に置いておきたくなる

普段ガスタイプのストーブを使い慣れている人には、少々手間がかかるアルコールストーブは面倒に思うかもしれない。とくに“超軽量”をうたうブルーノートストーブにはかなりクセがあり、たしかに簡単には使いこなせないだろう。自分の登山装備に取り入れるのならば、まずはもっと一般的なアルコールストーブに慣れ、それからブルーノートストーブに移行したほうがいい。“初めてのアルコールストーブ”にはお勧めしにくいが、“二台目以降”ならば、その重量とコンパクトさに加え、見た目のかわいらしさまで楽しめそうだ。

ブルーノートストーブ

僕自身、普段の火器はガスタイプがメインで、アルコールストーブを使う機会はそれほど多くはない。だからこそ、今回のテストも冬だけではなく、夏などの季節でも行い、強風時や降雨時など、もっとさまざまなシチュエーションで試してみたかった。そうすれば、ブルーノートストーブをよりうまく使いこなす“コツ”がもっと見つかったかもしれない。

それにしても、この超軽量、超コンパクトさには本当に恐れ入る。どんな場所、どんな人にも合うとはいいがたいが、ひとつは手元に置いておきたくなるストーブなのであった。

 

今回のPICK UP

エバニュー/ブルーノートストーブ セット

重量:20g  ※ストーブ単体13g

価格:6930円(税込)

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プロフィール

高橋 庄太郎

宮城県仙台市出身。山岳・アウトドアライター。 山、海、川を旅し、山岳・アウトドア専門誌で執筆。特に好きなのは、ソロで行う長距離&長期間の山の縦走、海や川のカヤック・ツーリングなど。こだわりは「できるだけ日帰りではなく、一泊だけでもテントで眠る」。『テント泊登山の基本テクニック』(山と溪谷社)、『トレッキング実践学』(peacs)ほか著書多数。
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