日本海を眺め、海浜植物を愛でる小さなハイキング。芭蕉も歩いた鳥海山麓・三崎公園をめぐる
鳥海山の西方、秋田県にかほ市と山形県遊佐町にまたがる県境に、海浜公園・三崎公園があります。海の眺めがすばらしく多様な植物を観察できる、往復2時間足らずの小さなハイキングをご紹介します。
写真・文=斎藤政広
鳥海山からの溶岩が日本海に落ち込んだ場所で、そこに突き出た観音崎、大師崎、不動崎があることから三崎と呼ばれています。芭蕉が奥の細道紀行の途上、象潟へ往復する際に歩いていますが、周辺一帯は溶岩地帯のため旧街道の中でも難所の地でした。また幕末の戊辰戦争では戦いの場にもなり、歴史の中にその名を刻まれている場所でもあります。
自然環境としては、鳥海山沖に流れる対馬暖流の影響を受けて照葉樹林が生育し、みごとなタブノキの原生林が見られ、ヤブツバキも自生しています。
貴重な海浜植物も観察でき、春はキクザキイチゲ、キバナノアマナ、ミチノクエンゴサクなどの花が可憐に咲いています。少ないものの、イソスミレなども見られます。
今回は、山形県側の不動崎付近の駐車場から旧街道をたどり、小さな海岸のあるクツカケ広場まで歩いてみましょう。大きな看板の脇から古道の面影がある道を登ると、まもなく明るく開けた鞍部の休憩地に出ます。歩き始めたばかりですが、海が望めるので小休憩。ぼうっと広がる海を眺め振り返ると、まだ雪をたっぷりとつけた鳥海山の姿が望まれます。
が平行する。今回は右の道へ
タブノキ林の道に入っていくと、みごとなタブの樹冠がお出迎え。樹下のヤブツバキと共生し、美しい自然を構成しています。大師堂に出て、平行に走っている古道と合流します。ここには五輪塔、戊辰の碑、大きなトチノキもみごとです。少し階段を上がったところに羽後三崎灯台があります。
やや進むと三角点の石柱があり、海側の散策道と合流します。ここを右に折れて古道の道に入ります。一里塚を過ぎて車道に出ますが、ここを突っ切ってさらに石畳の古道へ。左手に海を見ながら進めば、国道7号の車道に飛び出します。まもなく今回の到達点であるクツカケ広場に到着です。溶岩がせり出した岩場の両側に小さな海岸があります。
鳥海山からの湧水が出ていて海に流れこんでおり、砂鉄混じりの文様を見ることができる珍しい場所です。溶岩地帯にあって、こんなに海らしさを感じられる場所は、なかなかありません。
クツカケ広場の名前の通り、岩場にクツをかけ置いて、裸足になって海辺を歩きのんびりしたいものです。海を見つめ、砂浜を歩き、湧き水に触れてみたり海辺の生きものとの触れ合うのもよいでしょう。岩の上でゴロンと横になるのもよいと思います。ここに来てよかったと思える、大切なものがたくさん詰まっている場所なので、とにかくのんびりと過ごしていただきたいと思います。
帰路は三崎公園へ。観音崎には展望台があるので、立ち寄っていきましょう。さらに海沿いの遊歩道をたどって、起点の駐車場に戻ります。
MAP
駐車場~大師堂~クツカケ広場~観音崎~駐車場
コースタイム:約1時間30分
プロフィール
斎藤政広(さいとう・まさひろ)
横浜市生まれ、山形県酒田市在住。東北のブナの森や山々をフィールドに歩き、山麓での多彩な自然との出会いを楽しんでいる。おもな著書に『鳥海山・ブナの森の物語』『鳥海山・花と生きものたちの森』『鳥海山・花図鑑』(無明舎出版)、『森のいのち』(メディア・パブリッシング)、『山と高原地図 鳥海山・月山』(昭文社)などがある。
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