使命感をもって価値ある古道を守る。古道 徳本峠道を守る人々

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

豊かな自然や文化を有する山岳エリアを認定する日本山岳遺産。それぞれの認定地では美しい山を次世代へつなげる活動が行なわれている。今回は、長野・上高地へ至る徳本(とくごう)峠道の登山道整備に取り組んでいる「古道 徳本峠道を守る人々」を紹介する。

写真=古道 徳本峠道を守る人々、取材・文=一ノ瀬伸

■日本山岳遺産候補地を募集中!

徳本峠から見た穂高の風景
徳本峠から見た穂高の風景

古道 徳本峠道を守る人々(2014年度認定)

Area:徳本峠道
Main activity:登山道整備
Group profile:
豪雨被害による徳本峠道の崩壊を受け、2011年に地元有志で結成。毎年数回、草刈り、枝払い、倒木や土砂の撤去などの登山道整備を行なっている。作業は毎回10~20人が参加。

「あれは2006年の7月の半ばでした。局地的集中豪雨があって、雨量は5日間で500ml。土砂災害で道は寸断され、橋は流されて、登山道は全面通行止めになりました。今でも鮮明に覚えていますよ。忘れられないですよ」

長野県松本市の島々と上高地をつなぐクラシックルートが大規模な被害に遭った当時を、「古道 徳本峠道を守る人々」の奥原仁作(にさく)副代表はこう振り返る。

徳本峠道で巨大な倒木の撤去作業をするメンバーたち
>徳本峠道で巨大な倒木の撤去作業をするメンバーたち

徳本峠道は、全長約23㎞の登山道。江戸時代初期より木材の運搬などの林業に利用された。「日本近代登山の父」と呼ばれるイギリス人宣教師で登山家のウォルター・ウェストンもその道に魅了されたひとり。彼の功績を偲ぶ「ウェストン祭」は毎年6月に上高地で行なわれる。

豪雨被害で廃道の危機に直面した登山道の復活に向け、地元有志が立ち上がった。2011年には、若いころから徳本峠道を歩いてきた高山良則さんが代表になり会を結成。倒木や土砂の撤去など登山道整備に乗りだした。奥原さんが説明する。

「大規模な修繕工事は行政のほうでやってくれたんだけど、安全に登山をするためには細かい手作業が必要でした。そこで、この道に愛着のある人たちで集まったというわけ。守らなきゃいけないっていう、何か使命感のようなものがあったね。整備に必要な道具や材料はメンバーで持ち寄って、手弁当で始めました」

毎年6月に行なわれる「ウェストン祭」。たくさんの人でにぎわう
毎年6月に行なわれる「ウェストン祭」。たくさんの人でにぎわう

以降、年に数回、メンバーや行政職員らが山に入って、危険箇所の整備を続ける。近年の大雨によって再び通行止めの状態となっているが、地道に復旧作業を行なっている。

奥原さんは「沢筋の道で崩壊しやすく、非常に手のかかる道なんですよ。でも、歴史的価値が非常に高いルートだから、ちゃんと思いをもってやらないといけない。メンバーが高齢化しているので、後継者不足も大きな課題です」と語る。

最後にこの道の魅力を尋ねると、「癒される道だよ」と奥原さん。シンプルな回答のなかに確かな愛情が感じられた。

★日本山岳遺産認定地 詳細:徳本峠 [ 長野県 ]古道 徳本峠道を守る人々(2014年)

日本山岳遺産候補地を募集中! みなさまの活動を支援します

日本山岳遺産基金では、今年度の日本山岳遺産の候補地と支援団体を募集しています。認定された支援団体には、活動費を助成します。

支援団体の条件

  • 法人格を有する団体。または、同程度に社会的な信頼を得ている任意団体
  • 山岳環境保全などの活動を、特定の山岳エリアで3年以上行っている団体
  • 支援対象事業の実施状況、予算、決算などの財政状況について、当基金の求めに応じ適正な報告ができる団体

助成対象となる活動費の主な用途

  • 資材・物品の購入など。またはこれらの修繕などの経費
  • 旅費・交通費、宿泊費、食費、通信連絡費、現地事務所の光熱費などの経費
  • 資料の翻訳、印刷、出版などに係る経費

助成金総額 250万円(予定)

詳細は日本山岳遺産基金のウェブサイトをご覧ください。
https://sangakuisan.yamakei.co.jp/isan-kikin/entry.html

山と溪谷2023年5月号より転載)

プロフィール

日本山岳遺産基金

日本の山々がもつ豊かな自然・文化を次世代に継承していくために2010年に設立。「山岳環境保全」「次世代育成」「安全啓発登山」を目的とし、日本山岳遺産の認定と活動団体への助成金拠出、上記目的に合致した各種イベントやキャンペーン、山と溪谷社の各種媒体を使った広報活動などを行なう。
https://sangakuisan.yamakei.co.jp/

日本山岳遺産の横顔

日本山岳遺産基金は、豊かな自然や文化を有する山岳エリアを「日本山岳遺産」として認定し、その地域で山岳環境保全や登山道整備などの活動を行なう団体に助成金の拠出および広報による支援を行なっています。ここでは、これまでに日本山岳遺産に認定された山岳エリアと活動団体について紹介していきます!

編集部おすすめ記事