クライマーたちの挑戦、復興、そして保全へ。ファースト アッセント ジャパン

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豊かな自然や文化を有する山岳エリアを認定する日本山岳遺産。それぞれの認定地では美しい山を次世代へつなげる活動が行なわれている。今回は、宮城県の金華(きんか)山で震災復興支援などを行なう「ファースト アッセント ジャパン」を紹介。

■日本山岳遺産候補地を募集中!

牡鹿半島の沖合約1㎞にある金華山は東日本大震災で被災
牡鹿半島の沖合約1㎞にある金華山は東日本大震災で被災

ファースト アッセント ジャパン(2013年度認定)

Area:金華山
Main activity:震災復興支援
Group profile:
金華山にクライミングに通っていたメンバーらで2013年に設立。震災復興支援として登山道整備、ボルダリングイベントを実施。生物多様性保全に向けた調査やシンポジウムも開催。
http://first-ascent.org/

宮城・牡鹿(おしか)半島の海に浮かぶ金華山。島全体が聖域とされ、青森・恐(おそれ)山、山形・出羽(でわ)三山と「東奥三大霊場」に数えられる。また島内の黄金山(こがね)神社は「3年続けてお参りすれば一生お金に不自由しない」と伝わり、多くの参拝者を集めた。

だが2011年春、東日本大震災が発生。震源地から最も近い金華山は、激しい揺れと大津波によって建物は破壊され、道路、そして山も荒れ果てた。船は運休し、来島者は激減。立地の上、島の復興はなかなか進まなかった。

そんな状況にもどかしい思いを抱えていたのが、震災前から金華山の「岩」の魅力に惹かれクライミングに通っていたむらかみみちこさんだ。宮城で生まれ育ったむらかみさんは、震災後に元の仕事をやめ、復興支援に従事していた。

「金華山のために何ができるだろうって考えて、私は山やクライミングが大好きだから、自分の得意なことで復興を長く続けていこう、と」

むらかみみちこさんは宮城県山岳連盟会長も務める
むらかみみちこさんは宮城県山岳連盟会長も務める

2013年にクライマー仲間らとNPO法人「ファースト アッセント ジャパン」を設立。参加者を募って登山道整備やボルダリングツアーを企画し、島へ人を呼び込んだ。「宝島プロジェクト」と銘打った復興支援は口コミで広がっていき、定員70人のチャーター船は満員状態になることも。トップクライマーの平山ユージやジェームズ・ピアソン(イギリス)、キャロライン・シャバルディーニ(フランス)らも訪れ、その魅力は世界へ発信された。

しかし島の自然を脅かすのは震災だけではなかった。度重なる大雨、シカの食害、ナラ枯れ・・・。対応に追われながら会は近年、「復興」から「保全」に舵を切る。たとえば、一杯の水から周辺にすむ生物の種類を調べられる「環境DNA」調査を生物多様性の保全に活かす試みを開始。メンバーが山で採水し、連携する研究者が分析をしている。

「山ヤ、沢ヤの行動力を活かして、新しい環境保全の形をつくれたら」と立ちはだかる壁の向こうを見据える。

登山道整備を行なうメンバー
登山道整備を行なうメンバー

★日本山岳遺産認定地 詳細:金華山 [ 宮城県 ]ファースト アッセント ジャパン(2013年)

日本山岳遺産候補地を募集中! みなさまの活動を支援します

日本山岳遺産基金では、今年度の日本山岳遺産の候補地と支援団体を募集しています。認定された支援団体には、活動費を助成します。

支援団体の条件

  • 法人格を有する団体。または、同程度に社会的な信頼を得ている任意団体
  • 山岳環境保全などの活動を、特定の山岳エリアで3年以上行なっている団体
  • 支援対象事業の実施状況、予算、決算などの財政状況について、当基金の求めに応じ適正な報告ができる団体

助成対象となる活動費の主な用途

  • 資材・物品の購入など。またはこれらの修繕などの経費
  • 旅費・交通費、宿泊費、食費、通信連絡費、現地事務所の光熱費などの経費
  • 資料の翻訳、印刷、出版などに係る経費

助成金総額 250万円(予定)

詳細は日本山岳遺産基金のウェブサイトをご覧ください。
https://sangakuisan.yamakei.co.jp/isan-kikin/entry.html

『山と溪谷』2024年2月号より転載)

プロフィール

日本山岳遺産基金

日本の山々がもつ豊かな自然・文化を次世代に継承していくために2010年に設立。「山岳環境保全」「次世代育成」「安全啓発登山」を目的とし、日本山岳遺産の認定と活動団体への助成金拠出、上記目的に合致した各種イベントやキャンペーン、山と溪谷社の各種媒体を使った広報活動などを行なう。
https://sangakuisan.yamakei.co.jp/

日本山岳遺産の横顔

日本山岳遺産基金は、豊かな自然や文化を有する山岳エリアを「日本山岳遺産」として認定し、その地域で山岳環境保全や登山道整備などの活動を行なう団体に助成金の拠出および広報による支援を行なっています。ここでは、これまでに日本山岳遺産に認定された山岳エリアと活動団体について紹介していきます!

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