失った自然は戻らないから「丁寧に歩く」。吾妻山自然倶楽部

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豊かな自然や文化を有する山岳エリアを認定する日本山岳遺産。それぞれの認定地では美しい山を次世代へつなげる活動が行なわれている。今回は、福島県の吾妻(あづま)山で登山道整備や植生回復の活動を行なう「吾妻山自然倶楽部」を紹介。

取材・文=一ノ瀬伸、写提提供=吾妻山自然倶楽部

■日本山岳遺産候補地を募集中!

吾妻山自然倶楽部(2014年度認定)

Area:吾妻山
Main activity:登山道整備
Group profile:
2003年に吾妻山を愛する5名で設立。ボランティアを募って傷んだ登山道修復、刈り払い、植生復元、登山者への啓発などを行なう。清野義美会長は地元小学生の登山ガイドも担当。

「山の自然、そして登山道は一度ダメにしてしまうと、手をつけようがない。だから、丁寧に、大切に山を歩くという方法しかないんだと思うんです」

吾妻山自然倶楽部の清野義美会長は、長年の活動を振り返りながら言う。会は吾妻小舎主人だった故・遠藤守雄さんの声かけで地元山岳会有志が集まり2003年に発足。日本百名山の吾妻山で、登山道整備や植生復元に取り組んできた。

遡れば、山岳観光道路「磐梯(ばんだい)吾妻スカイライン」が開通した1959年以降、大勢の人々が吾妻山へ押し寄せた。「オーバーユースとなり、登山道が傷むスピードが加速した」と清野さん。踏みつけによって浄土平(じょうどだいら)や姥ヶ原(うばがはら)などの湿原周辺は裸地化が進み、東吾妻山の山頂付近のハイマツは荒廃していった。

吾妻山自然倶楽部は、20年以上にわたって登山道整備を行なっている
吾妻山自然倶楽部は、20年以上にわたって登山道整備を行なっている

「みんなが歩きやすいところを選ぶと道がどんどん広がってしまいます。このままだと高山植物はどんどん減り、ハイマツはなくなってしまうと言っても言い過ぎじゃない。そんな兆候がありました」

危機感を募らせた会は、行動に出た。時には大勢のボランティアを集め、行政とも協力しながら、丸太を敷いて登山道を明確化したり、裸地化がひどいエリアには専門家の指導の下で緑化ネットを張り巡らせたりして、植生回復を図ってきた。しかし・・・。

「一部手応えも感じていますが、新しい芽はなかなか出てこない。しっかりと復元させるのであれば、かなり長い期間、継続的にやっていかなければならない」

緑化ネットを張って植生回復を図る
緑化ネットを張って植生回復を図る

会はメンバー5人のうち、清野さんも含めて3人が80代。マンパワーと資金が限られるなか、雪解け後には霜柱に持ち上げられた木道をハンマーで叩き、シーズン中は傷んだ道の修理を繰り返す。

若き日、五色沼に“一目惚れ”し山を登り始めたという清野さんは、無二の自然と水資源の豊かさを誇る吾妻山を「お金持ちの山」と表現する。自慢の山を守るため、今後も会を引っ張り、次世代に自然の尊さを伝えていく覚悟だ。

会のメンバーや活動に参加したボランティア
会のメンバーや活動に参加したボランティア

★日本山岳遺産認定地 詳細:吾妻山 [ 福島県 ]吾妻山自然倶楽部(2014年)

日本山岳遺産候補地を募集中! みなさまの活動を支援します

日本山岳遺産基金では、今年度の日本山岳遺産の候補地と支援団体を募集しています。認定された支援団体には、活動費を助成します。

支援団体の条件

  • 法人格を有する団体。または、同程度に社会的な信頼を得ている任意団体
  • 山岳環境保全などの活動を、特定の山岳エリアで3年以上行なっている団体
  • 支援対象事業の実施状況、予算、決算などの財政状況について、当基金の求めに応じ適正な報告ができる団体

助成対象となる活動費の主な用途

  • 資材・物品の購入など。またはこれらの修繕などの経費
  • 旅費・交通費、宿泊費、食費、通信連絡費、現地事務所の光熱費などの経費
  • 資料の翻訳、印刷、出版などに係る経費

助成金総額 250万円(予定)

詳細は日本山岳遺産基金のウェブサイトをご覧ください。
https://sangakuisan.yamakei.co.jp/isan-kikin/entry.html

『山と溪谷』2024年3月号より転載)

プロフィール

日本山岳遺産基金

日本の山々がもつ豊かな自然・文化を次世代に継承していくために2010年に設立。「山岳環境保全」「次世代育成」「安全啓発登山」を目的とし、日本山岳遺産の認定と活動団体への助成金拠出、上記目的に合致した各種イベントやキャンペーン、山と溪谷社の各種媒体を使った広報活動などを行なう。
https://sangakuisan.yamakei.co.jp/

日本山岳遺産の横顔

日本山岳遺産基金は、豊かな自然や文化を有する山岳エリアを「日本山岳遺産」として認定し、その地域で山岳環境保全や登山道整備などの活動を行なう団体に助成金の拠出および広報による支援を行なっています。ここでは、これまでに日本山岳遺産に認定された山岳エリアと活動団体について紹介していきます!

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