群生するツツジやアジサイを見に行こう!  6月に登りたい花の山 関東編

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

6月は梅雨の雨を受けて花々がみずみずしく輝く季節。この時期だからこそ登りたい、花の名山を紹介します。

 

花が群れ咲く光景を見に行くチャンス!

地蔵岳山腹にある赤城白樺牧場に群生するレンゲツツジは圧巻

推薦人:石丸哲也
東京に生まれ育つ。オールラウンドな登山を経て、山岳ライター、登山・ツアーの講師など幅広く活動している。山頂に立つことだけを目的とするのでなく、山を旅する感覚で、登るプロセスや自然に触れることを大切にして山を楽しむことを心がけている。国内では北海道の利尻山から屋久島の宮之浦岳まで全国の山を登り、海外ではペルーアンデス、ヨーロッパアルプス、北米のヨセミテ、メキシコ、カムチャツカなどの山に足跡を残す。

関東の低山では、木々が新緑から深緑へと装いを変えていく6月。野生の山野草や低木の花は白く、つつましいものが主となる。野生の花は目立たないが、人の手が加わったアジサイやハナショウブなどは、みごとに群れ咲く様を山懐や麓で楽しめる。一方、中級山岳は新緑の時期で、山野草や低木の花は群生の規模、種類ともに見応えのある山が多い。そうした山々から、先月同様、展望や山麓の楽しみ、アクセスなども考慮して、関東周辺域から5山を選んだ。関東でアジサイを愛でるハイキングといえば、神奈川県の鎌倉が王道だが、今回は花筏(はないかだ)も美しい雨引山を紹介した。

なお、それぞれの花期は例年の標準的なものを記している。

 

アジサイが咲き乱れる古刹へ下山する

雨引山(あまびきさん)

茨城県/409m
JR水戸線岩瀬駅~御嶽(おんたけ)神社~雨引山~岩瀬駅/日帰り 4時間30分

雨引観音境内の池にはアジサイの花菱が浮かぶ


名峰、筑波山から北へ延びる尾根は、加波(かば)山などのピークを連ね、JR水戸線の走る平地に没する。その手前に頭をもたげる里山が雨引山だ。山懐の雨引観音はアジサイの名所としても知られ、梅雨時は花盛りとなる。登山の起点が水戸線岩瀬駅であるため、駅からすぐ山に入り、周回して岩瀬駅へ戻れるアクセスのよさもうれしい。

岩瀬駅を出たら東側の踏切を渡り、南へ進むと、すぐ山に入っていく。登山道、指導標は関東ふれあいの道として整備されている。水行場の不動ノ滝から尾根へ登る。尾根道は採石場を迂回して、いったん谷に下り、登り返してNTT電波塔を過ぎれば雨引山は近い。雨引山山頂は休憩舎がある休憩適地だ。

尾根道を少し東へ進んでから尾根道から西へ下ると車道に出て、雨引観音に着く。道なりに下り、県道に出たら、西側に並行する「つくばりんりんロード」へ。旧筑波鉄道の線路跡を利用した自転車・歩行者専用道をのんびり歩いて岩瀬駅へ戻る。

雨引観音境内の随所にアジサイが植えられている

田園風景が広がるつくばりんりんロードから雨引山方面を振り返る

MAP

 

6月に見られる花

雨引観音境内のアジサイは都内の市街地などよりやや遅く6月中旬〜7月中旬が見頃。同時期には、山道ではオカトラノオ、ヒヨドリバナ、ヤブラン、里道ではヤブカンゾウなどの野草が咲く。

山麓情報

雨引観音は正式には雨引山楽法寺(あまびきさんらくほうじ)と称され、古墳時代の587年に開山。聖武天皇、光明皇后の帰依が厚く、弘法大師が真言宗の道場としたと伝えられる古刹である。板東三十三観音第二十四番札所で安産、子育て、厄除け、延命などのご利益があるという。春の桜、晩秋の紅葉も美しい。

 

湖岸に咲くクリンソウを眺めながらハイキング

高山(たかやま)

栃木県/1668m
竜頭(りゅうず)の滝バス停~高山~熊窪~クリンソウ群生地〜熊窪〜竜頭の滝バス停/日帰り 4時間30分

水辺に広がる千手ヶ浜のクリンソウ自生地


中禅寺湖(ちゅうぜんじこ)の北岸に頭をもたげる高山は奥日光としては標高が低く、展望にも恵まれない地味な山だ。しかし、戦場ヶ原(せんじょうがはら)、中禅寺湖などと組み合わせれば、手ごろな行程で様々に楽しめる。とくに中禅寺湖北西岸の千手ヶ浜(せんじゅがはま)でクリンソウが見頃となる初夏は、湖岸歩きと併せて、変化に富み、楽しい山歩きができる。

竜頭の滝バス停で竜頭滝を眺めたら、東岸に沿って登り、国道を横切って、山道に入っていく。1506m峰の北面を巻いた後、シラビソやダケカンバの尾根道を登りつめると高山山頂に着く。樹林に囲まれた小広場で休憩したら、西側の急な山腹を大きくジグに下る。熊窪・小田代(おだしろ)原分岐の鞍部から南へ下り、ミズナラの大木を見て熊窪に着いたら、西へ、湖岸に沿って歩くと千手ヶ浜に着く。群生地のクリンソウは人の手が加わったもので、紅色の野生種にピンクや白、覆輪などの変種も交じって美しい。帰りは熊窪へ引き返し、湖岸の道をたどって竜頭の滝バス停へ戻る。

竜頭の滝を眺めながらスタートする

千手ヶ浜の対岸には男体山が大きい

MAP

 

6月に見られる花

クリンソウの見ごろは6月中旬〜下旬。同じころ、ヤマツツジなども咲き、新緑が鮮やかだ。クリンソウより少し早く、5月下旬〜6月上旬ごろには高山でシロヤシオ、アズマシャクナゲの花も見られる。

山麓情報

中禅寺湖東岸〜北岸に中禅寺温泉の旅館、ホテルが点在し、そのなかの6軒で日帰り入浴できる。中禅寺温泉バス停から近い旅籠なごみ日光山水が便利で、料金も600〜800円と手ごろ。

 

湿原と牧場でレンゲツツジの花を愛でる

赤城山(あかぎやま)・地蔵岳(じぞうだけ)

群馬県/1674m
赤城公園ビジターセンター~小沼平(こぬまだいら)~地蔵岳~新坂平(しんざかだいら)/日帰り 2時間25分

レンゲツツジが咲く覚満淵を行く


上毛三(じょうもうさん)山最高峰で日本百名山にも選定されている赤城山はいくつものピークがあり、最高峰の黒檜山(くろびさん)に登山者が集中する。しかし、初夏に咲くレンゲツツジの花を満喫したいなら、その南西に頭をもたげる地蔵岳がおすすめだ。登山口ではミニ尾瀬とも呼ばれる覚満淵(かくまんぶち)の水辺に咲く花、下山口では赤城白樺牧場の群生を楽しめるからだ。

赤城山ビジターセンターバス停で下車したら覚満淵へ。池の周りに湿原が発達し、その湿原に沿うようにレンゲツツジが咲く。ひと登りした鳥居峠で覚満淵を見下ろし、小地蔵岳の山腹をトラバースして登ると、こぢんまりとした火口湖の小沼(この)北側に着く。車道を少し歩き、八丁峠からは地蔵岳の急斜面となるが、視界が開け、背後に小沼を見下ろして登れる。電波塔が建つ地蔵岳山頂は小広く、大沼(おの)を隔てた黒檜山と駒ヶ岳、その左に尾瀬や奥日光の山並みを眺められる。西へ、ミズナラなどの樹林を急下降して、新坂平に着けば、車道の反対側に赤城白樺牧場の10万株というレンゲツツジの群生が広がる。

鳥居峠から覚満淵、大沼を見下ろす

地蔵岳の登りから地蔵岳山頂を見上げる

MAP

 

6月に見られる花

レンゲツツジの見頃は6月上旬〜中旬。同じころ、林下や登山道沿いにマイヅルソウ、ツクバネウツギ、サラサドウダン、キンポウゲなども咲く。

山麓情報

赤城山ビジターセンターバス停傍らの赤城公園ビジターセンターでは赤城山の成り立ちや地質、動植物などを解説する展示があり、観光案内やパンフレット配布も行なう。9時〜15時45分、月曜定休(祝日場合、翌日。GW、5月末〜6月中旬は無休)、無料。

 

ハナショウブを観賞して三浦半島最高峰へ

大楠山(おおぐすやま)

神奈川県/241m
大楠登山口バス停~大楠山~前田橋バス停/日帰り 2時間30分

谷戸状の地形に菖蒲田がつくられている横須賀しょうぶ園


三浦半島の内陸に広がる丘陵の最高峰といっても標高241mと低く、夏は蒸し暑いと敬遠されがちだ。しかし、登りは短く、海風が涼しい日もあり、意外に快適だ。北東麓の横須賀しょうぶ園のハナショウブが5月下旬〜6月下旬に見頃となるので、併せて歩こう。

大楠登山口バス停から南へ、入り組んだ住宅地を歩いて、横須賀しょうぶ園へ。ハナショウブを観賞したら、しょうぶ園の外周に沿うように時計回りに歩き、横浜横須賀道路のガードをくぐると山道に入る。沢沿いから急斜面をひと登りし、尾根上に出て、ゴルフ場の傍らを登る。大楠山直下で直登の階段道と車道経由の巻き道が分かれるが、どちらでも大差はない。展望塔が立つ大楠山山頂は広場で休憩によい。2023年5月現在、展望塔は休止中なので、ひと下りした大楠平の展望台で東京湾と相模湾、丹沢や富士山などの眺めを楽しもう。下山は西へ延びる尾根を下り、前田川に出合ったら、前田川遊歩道に入れば、前田橋バス停手前まで涼しい沢沿いを歩ける。

色も形もさまざまなハナショウブの傍らにはアジサイも花を咲かせる

帰りは涼しい前田川遊歩道を下る

MAP

 

6月に見られる花

横須賀しょうぶ園、大楠山〜大楠平などでハナショウブよりやや遅れてアジサイが見ごろとなる。野生の花はヤマユリ、ヤマホタルブクロ、クサギなど。

山麓情報

横須賀しょうぶ園は14万株、412品種というさまざまな色合いや形のハナショウブが咲き乱れてみごと。藤、アジサイ、シャクナゲなども植えられ、季節折々の花も楽しめる。9〜19時(9〜4月は17時まで)、無休(7〜3月は月曜・祝日の翌日休園)、320円(7〜3月は無料)。

 

スズランの香りに包まれて展望の頂へ

入笠山(にゅうかさやま)

長野県/1955m
ゴンドラ山頂駅~入笠湿原~御所平(ごしょだいら)峠〜入笠山〜ゴンドラ山頂駅/日帰り 3時間45分

スズラン群生地のスロープを入笠湿原へ下る


なだらかな山容で目立たない入笠山だが、標高約2000mの花の宝庫だ。なかでも5月下旬〜6月中旬に咲き、120万本と言われるスズランが人気。ゴンドラを利用すれば山頂まで往復2時間弱で手軽に登れるが、テイ沢、大阿原(おおあはら0湿原も周回する、変化に富み、充実したプランを案内しよう。

ゴンドラ山頂駅を出て、林道を少し歩いてから山道に入り、カラマツ林が開けると、スズラン群生地の草原のスロープ上に出る。スズランの花は葉の陰に隠れるように咲き、目立たないが、香りが一帯に漂う。入笠湿原から、すぐ上の林道をたどり、ヒュッテ入笠の前で入笠山への登山道を見送り、放牧地の林道を下る。テイ沢出合から山道に入り、苔むして静かなテイ沢に沿って登れば樹林が開けて大阿原湿原に着く。湿原の東端から車道を北上し、仏平峠からカラマツ林の山道を登りつめると入笠山山頂だ。八ヶ岳、南・中央・北アルプスなどの山岳パノラマを楽しんだら北へ下り、登山道入口から往路を戻る。テイ沢周回には、ゴンドラの最終時間を確認し、余裕をもって行動したい。

スズランの花は葉に隠れるように咲く

大阿原湿原はズミの木が多い

MAP

 

6月に見られる花

スズランが咲くころに、入笠湿原などにサクラソウの仲間で大型のクリンソウも開花する。また、朱紅色の大きな花を咲かせるレンゲツツジ、コナシ(小梨)とも呼ばれるズミ、キンポウゲなどが咲く。

山麓情報

富士見パノラマリゾート駐車場の約1km手前に2軒の立ち寄り湯がある。ゆーとろん水神の湯は源泉かけ流しの8つの露天風呂と内湯、サウナや食事処を備える。11時〜19時30分、水・木曜休館(季節変動あり、祝日は営業)、950円。ふれあいセンターふじみは内湯の大浴場のみ。10〜20時、不定休、600円。

 

山を歩く、花を楽しむ

全国で人気の花の山、関東周辺「花の百名山」のコースガイドや、花に関するコラムを掲載。

編集部おすすめ記事