山は花の季節。登山者に聞く、花の名山に登る喜び
田中澄江が選んだ花の百名山は、季節ごとの花を楽しみに山に向かう登山者にとって、バイブルともいえる存在になっている。この春、当サイトで実施した花の百名山アンケートの回答者のなかから、精力的に花の百名山に登っている3人に、花の山を訪ねる楽しみについて聞いた。
山に登る楽しみはさまざまだが、季節の花との出合いを求めて各地の山に登る人は多い。春の訪れを告げるスプリングエフェメラル、新緑の森に輝く初夏の花、夏山の高山植物、草紅葉にひっそりと咲く秋の花・・・。その山の魅力をぐっと凝縮し、その豊かさを象徴するように咲く花には、園芸種とはまったく異なる魅力がある。今回、当サイトで2023年4月11日〜4月25日に実施した「山に咲く花、『花の百名山』に関するアンケート」には約200人から回答が寄せられた。そのなかから、山の花を愛してやまない3人に、花の山に登る楽しみについて聞いてみた。
インタビュー1
さかちゃんさん(長野県)
登山歴:10年以上
登山頻度:ほぼ毎週
好きな山の花:ツクモグサ、ハクサンイチゲ、ヒナウスユキソウ
登った花の百名山:89座

―― 花を求めて山に行くようになったきっかけはなんですか?
登り始めた頃から好きでよく花の写真を撮っていました。2016年に百名山踏破したので、次は花の百名山を、その山を代表する花が見られるタイミングで登ることにしました。開花の時期に合わせて、時間をかけてゆっくり登る予定です。
―― 印象に残っている花の百名山はどこですか?
白馬岳です。何度も登っているが初夏から晩秋まで花がたくさん咲いています。同じ花でも、残雪の状況次第で違う時期に見られたりするんです。たくさん花の百名山を歩いたけれど、こんなに花にあふれた山はありません。展望もすばらしいし、登りやすい。白山や朝日岳もすばらしいけれど、展望でひとつ抜きん出ていると思います。

―― 花に関する山行のエピソード、思い出を教えてください
百名山踏破のために幌尻岳に行ったとき、チロロ林道のコースを歩きましたが、あまり多くの人が歩かないルートで、登山道の幅は1人分しかないんです。その両側にたくさんの花が咲き乱れていて、お花畑を歩いているようでした。事前の下調べでは、そこまで多くの花が咲いていると知らなかったので、感動しました。また行きたいけど、遠いしハードコースで・・・。そういえば、テント場で見つけたエゾルリソウが、同じ花の百名山の富良野岳で見たものより大きく美しかったのも印象的です。

―― 花の山を楽しむための工夫を教えてください
事前に開花状況を調べます。年間を通して、いつごろどの花がどこの山で見られるかを知っておくようにしています。コースのどのあたりに咲いているのか、わかる範囲でおおむね把握するようにしていますが、探す楽しみもあるので、場所は詳しく調べすぎないのもポイントです。カメラはもちろん持参。登山計画を立てるときは、花を楽しむための時間も長めに取るようにしています。
―― いつかは登りたい花の名山について、山名と見たい花の名前を教えてください
大船山のミヤマキリシマ、仰烏帽子山のヤマシャクヤクです。
―― 山の花に関して、気になっていることはありますか?
花の百名山登山ガイドを見て登っていますが、「新」花の百名山があったり、どれが本当の花の百名山なのかと戸惑うことも多いです。戸隠山のトガクシショウマや鉢伏山のマツムシソウなど、今は咲いていない花もあるから、現状に即して変わっていっていいのかも。花の百名山じゃなくても、すばらしい花の山もたくさんあるので知りたいと思います。一方で、紹介されることで踏み荒らされたり盗掘されたりといった問題もあるのが心配ですね。
インタビュー2
シュンさん(神奈川県)
登山歴:10年以上
登山頻度:月に1回ほど
好きな山の花:リンネソウ、ヒナザクラ、エゾコザクラ
登った花の百名山:70座余り

―― 花を求めて山に行くようになったきっかけはなんですか?
学生時代はワンダーフォーゲル部で山に登っていましたが、そのころは花に興味はありませんでした。定年後、時間ができたので東北の山を登りに行ったのですが、そこで花の美しさに気づきました。過去14年ほどは毎年花を求めて北海道の山に通っています。
―― 印象に残っている花の百名山はどこですか?
富良野岳は花の種類も量も多くて私の大好きな山です。山頂で地元の登山者とお会いして、十勝岳方面を眺めながら、北海道の山の話や花の話でしばらくのあいだ大変楽しい時間を過ごしました。

―― 花に関する山行のエピソード、思い出を教えてください
昨年雨の中大雪山の赤岳へ登り、ガスの中に黄色いかたまりがうっすらと見えたので、近づいてみると、キバナシオガマが2株満開でした。久しぶりで出会った豪華な花に、雨を忘れてしばらく見つめていました。

―― 花の山を楽しむための工夫を教えてください
年間の花カレンダーをつくり、いつ何処へ行ったら会えるかを計画しています。一回で多くの花に出会えるように、ルートを詳細に練ります。常に花の場所や時期の情報を多方面から得るよう心がけています。写真はマクロ主体で多角度から撮影し、もちろん図鑑は必須。帰ってからの写真の整理、編集も楽しみのひとつです。写真や山行記録は自分のウェブサイトで知人に見てもらっています。
―― いつかは登りたい花の名山について、山名と見たい花の名前を教えてください
早池峰山のトチナイソウ、戸隠山のトガクシショウマ、ピセナイ山のソラチコザクラです。
―― 花の山に登っていて感じること、考えることは?
北海道や東北では、百名山踏破中の人に会うことがとても多いです。雌阿寒岳に登ったときに会った人は、頂上を踏んであっという間に下りてきた。この山は頂上の向こうにもすばらしい場所があるし、花もいい。もっと楽しめるのに、と言ったんですが、「頂上を踏めばいいんです」と。じつにもったいない話ですね。日本百名山や花の百名山に選ばれていないけれど、いい山はたくさんあります。私は名山踏破よりも、そういういい山をじっくり楽しみたいです。
インタビュー3
けいけいさん(東京都)
登山歴:10年以上
登山頻度:1〜2カ月に1回ほど
好きな山の花:チングルマ、シナノキンバイ、ハクサンコザクラ
登った花の百名山:70座くらい

―― 花を求めて山に行くようになったきっかけはなんですか?
学生時代に登山をしていたのですが、ブランクを経て50代半ばからまた登るようになりました。若いときはさほど花に興味がなかったのですが、登山を再開したときに高山植物の美しさに魅了され、図鑑を買い、花の季節に合わせて登るようになりました。学生時代は山頂からの眺望とか、一日にどれだけ歩けたなどということに関心があったのですが、今は登山の過程を楽しめるようになりました。花はその最たるものですね。
―― 印象に残っている花の百名山はどこですか?
学生時代に初めて白馬岳に登ったとき、大雪渓を登り終えた稜線上で実に多くの種類の山の花が咲いていたのを覚えています。そのころは花にさほど関心がなかったのですが、花のみごとさはよく覚えていました。10年ほど前に再訪したのですが、残念ながら花の季節ではなかったので、また行きたいと思います。

―― 花に関する山行のエピソード、思い出を教えてください
2019年6月に東北の焼石岳に登った際に、頂上付近が花が一杯ですばらしかったです。チングルマやハクサンイチゲの大群落を楽しみにして、花の開花時期に合わせて計画したのですが、期待通りで、ちょうど見頃でした。

―― 花の山を楽しむための工夫を教えてください
目的の花の開花時期に合わせた日程で登山計画を行なうことです。日本アルプスなどは早めに山小屋の予約をする必要があるので、ある程度の見込みで行くしかないですが、日帰りの山なら、直近の花の状況をネットで情報を調べるようにしています。
―― いつかは登りたい花の名山について、山名と見たい花の名前を教えてください
田代山のキンコウカ、アポイ岳のアポイアズマギクなどの固有種、夕張岳のユウバリソウです。
山を歩く、花を楽しむ
全国で人気の花の山、関東周辺「花の百名山」のコースガイドや、花に関するコラムを掲載。
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