配信第100号記念、山岳通信を支える特別鼎談 島崎三歩の「山岳通信」 第100号

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長野県が県内で起きた山岳遭難事例について配信している「島崎三歩の山岳通信」。2018年1月23日に配信された第100号では、年末年始の遭難事例に加え、100号記念として新旧の編集長と長野県警察山岳遭難救助隊の特別鼎談を掲載するスペシャルバージョンをお届けする。

 

2018年1月23日に配信された『島崎三歩の「山岳通信」』第100号では、2017年12月22日~1月1日までに起きた6件の山岳遭難事例について説明。以下に抜粋・掲載する。

 

  • 12月22日、長野県根子岳で、56歳の男性が四阿山から根子岳へ縦走中に、鞍部付近で積雪と疲労のため行動不能となる山岳遭難が発生。県警ヘリで救助された。

根子岳山頂付近の状況(長野県警察本部 ホームページ 山岳遭難発生状況(週報)12月28日付)

 

  • 12月23日、北アルプス西穂高岳で、59歳の女性が独標付近を下山中に上高地側に滑落、腰椎骨折等の重傷を負う山岳遭難が発生。県警ヘリで救助された。

西穂高岳における遭難現場の状況(長野県警察本部 ホームページ 山岳遭難発生状況(週報)12月28日付)

 

  • 12月27日、八ヶ岳連峰天狗岳で、48歳の男性と48歳の女性が東天狗岳付近を登山中に強風と降雪に遭い行動不能となる山岳遭難が発生。28日に根石岳付近で発見され県警ヘリで救助されたものの、2名とも死亡が確認された。

  • 12月31日、北アルプス白馬乗鞍岳で、バックカントリースキーなどのために入山した3名(42歳男性、36歳男性、34歳女性)が、滑走中に道に迷い行動不能となる山岳遭難が発生。年が明けた翌2018年1月1日に、県警ヘリで救助された(下記動画参照)。

  • 12月31日、北アルプス燕岳で、35歳の男性が蝶ヶ岳から燕岳に向け稜線を縦走中に吹雪と疲労(凍傷)のために燕岳の蛙岩付近で行動不能となる山岳遭難が発生。遭対協隊員により山小屋へ収容されたのちに、2018年1月2日に県警ヘリで救助された。

  • 1月1日、八ヶ岳連峰横岳で、67歳の男性と68歳の女性が石尊稜周辺を登攀中に、疲労のため行動が遅れたことから仲間が救助要請。翌2日に茅野署員及び諏訪地区遭対協隊員が2名を発見して、付近の山小屋に収容した。

 

山岳安全対策課からのワンポイントアドバイス

12月4週は2件の遭難が発生しました。根子岳の事案は夏山と同じ感覚で入山したものの、予想以上の積雪に体力を奪われ、疲労により行動不能となったものです。

積雪量などの状況にもよりますが、一般的に冬山登山は夏山の3倍程度の行動時間がかかると言われています。当然、ルートが雪で覆われていれば、雪をかき分けて進むだけの体力が必要になります。年末年始休暇を山で過ごそうと計画している皆さんは、日程、食料計画、装備や緊急時の対応等、計画に不備はないか今一度確認をお願いします。

 

県警からのお知らせ

県警としては、一般の登山者の皆さんにも遭難現場の実態を知っていただきたいと考えています。そこでこの1月から、本当の救助活動の様子を動画にして、YouTube で配信します。実際の救助の様子、そして遭難が発生すれば隊員も危険を冒して活動していること、見てもらえればきっとわかると思います。


「島崎三歩の山岳通信」~これまでの一歩、これからの百歩~

お客様と接する登山用品店舗スタッフの方やインターネットの登山情報サイトを利用される登山者の皆様などに向けて配信しております「島崎三歩の山岳通信」が、このたび第100 号の配信となりました!
ひとえに、配信にご協力いただいている登山用品店や登山情報サイト等の運営の皆様、そして毎週お読みいただき、ご活用いただいている皆様のおかげです。本当にありがとうございます。
今回は第100 号を記念して、新旧編集長、そして山岳救助隊から、山岳通信を始めた裏話、山岳通信への想い、そして皆様にお伝えしたいことをコラムにしました。ご一読いただければ嬉しく思います。

 

【鼎談参加者】

元編集長: 原一樹(一般社団法人長野県観光機構 常務理事 山岳通信の創刊者)
現編集長: 野口昌克(長野県山岳遭難防止対策協会 事務局)
長野県警察山岳遭難救助隊: 隊長 櫛引知弘/副隊長 岡田嘉彦

 

――「島崎三歩の山岳通信」を配信することになったきっかけは?

原: そもそも、平成21 年頃からの山ブームに相まって、長野県内の山岳遭難が急増してきたことが背景にありました。平成24 年に、タイトルになっている島崎三歩が登場する漫画「岳」の存在を知り、山岳遭難の啓発の目玉として活躍してもらおうと思い「岳」の作者と編集者さんにお願いしたところ、すぐにご快諾いただいた。

岡田: 平成23年には映画にもなりましたよね。

原: そう。だから「岳」は登山者に対してすごく発信力があると思った。もう一方で、登山者の行動を考えれば、まず「山に登りたい」と思ったら雑誌を見るとかするけど、絶対に「登山用品店」に行って道具を買う。その時に、店員さんに安全登山のための的確なアドバイスをしてもらえれば、登山者の遭難は減ると考えた。

野口: 登山用品店への発信と、岳のイラストと名前を使った「山岳通信」は、本当にうまい仕組みですよね。イベントなどに出かけてブースなどで啓発していると、一般の方から「毎週楽しみに見ています!」というお声をいただきます。本当に嬉しいですね。

原: 登山は楽しいものだけど、その一方で文字通り一瞬が命取りにもなる。どうしたら、山岳遭難の現場で起こっていることを生々しく、リスクをリアルに伝えられるのか。それを考え抜いた先に、「岳」や登山用品店の皆さんの本当にありがたい協力をいただけたので、この仕組みが成り立ったんです。

 

―― 山岳通信を始めて、山岳遭難や登山者の反応に変化はありましたか?

岡田: 残念ながら件数そのものとしてはなかなか減っていません。しかし、昨年長野県で発生した遭難は「滑落」で死亡する人は減りました。遭難防止対策には即効性はありませんが、山岳通信でも繰り返し「ヘルメット」の重要性を言ってきたことが、北アルプスでヘルメット着用が定着してきた要因の一つではないかと思います。

櫛引: これまで現場でも「もしヘルメットを被っていれば・・・」という遭難もありました。様々な手段で啓発していますが、登山用品店や登山情報サイトを介して、登山者の皆さんに具体的にリスクと対策を周知していることは、意味があると思いますね。

山岳通信第1号(創刊号)。3件の遭難事例を掲載。

 

野口: 登山情報サイトなどからは、メルマガやフェイスブックなどのSNS にも転載してもらっています。中にはなんと1000近くの「いいね!」がつく配信もあったりします。我々単体のウェブよりもたくさん波及的な効果があると思います。

岡田: これからも、実際の登山者の役に立つ安全情報を、三歩の山岳通信でもっともっと広く発信してもらいたいです。そのために、(山岳通信のもとになっている)県警で発表している週報も、現場写真をたくさん載せることにより、わかりやすいように工夫を重ねています。

原: 30号くらいまでは週報をもとに自分で文章を考えていたんだよね。その作業も実は辛かった。いまはいくつかの情報を組み合わせて、山岳通信を作るワザを開発したけどね。

 

―― 山岳通信が100 号となりましたが、さらに今後に向けた取組や皆様にお伝えしたいことは?

櫛引: 県警としては、一般の登山者の皆さんにも遭難現場の実態を知っていただきたいと考えています。そこでこの1月から、本当の救助活動の様子を動画にして、YouTube で配信します。実際の救助の様子、そして遭難が発生すれば隊員も危険を冒して活動していること、見てもらえればきっとわかると思います。

野口: 私は山岳通信にもそのような情報を載せて、もっと発信していきますね。

原: 私が最初に上高地・横尾で情報提供活動をしている際に、遭難箇所を大きな地図看板に貼り出してみました。それを見た多くの登山者が言った一言が「やべっ!」。私は「登山にはやばいことがある、ということを知らないキミたちが一番やばい」と思ったのが、これを始めた最初の気持ち。山は素晴らしい、けれどその半面で「やばい」こともあるんだよということを、山岳通信など身近なものから知ってほしいと思います。

山岳通信を支えるメンバー

櫛引: 山岳遭難のリアルな状況をわかってもらうのが、この「山岳通信」の一つの目的です。山の魅力、楽しさに加えて「どんな遭難が起きているのか、どんなリスクがあるのか」という視点で活用してほしいですね。リスクを全く知らないのと、頭の片隅にあるのとでは全然違います。もっともっと活用してくれることをおすすめしたいですね。

岡田: 全国ではまだまだ多くの山岳遭難が発生しています。いつか、遭難で悲しむ人が減っていくように、山岳県である長野県が遭難防止対策における全国のリーディングケースとして引っ張っていきたいですね。

野口: これからもより伝わる、役に立つ山岳通信を配信していきます。ご期待ください!

 

プロフィール

島崎三歩の「山岳通信」

信州の山岳遭難現場と全国の登山者をつなぐために発行。「登山用品店舗スタッフ」「登山情報サイトを利用する登山者」「長野県内の各地区山岳遭難防止対策協会」などに対して、長野県の山岳地域で発生した遭難事例を原則・1週間ごとに、「安全登山」のための情報提供をしている。

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島崎三歩の「山岳通信」

長野県では、県内の山岳地域で発生した遭難事例をお伝えする「島崎三歩の山岳通信」を週刊で配信。その内容をダイジェストで紹介する。

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