涼しい六甲山上で夏の名花を訪ねるのんびりハイキング
阪神間の市街地の背後にたたずむ東西約30kmの山塊、六甲山地。最高峰は標高931m、広い山上エリアにはさまざまな施設があり、市街地と比べると5℃程度気温が低く、手軽な避暑地として親しまれてきた。交通機関も充実しているので、気軽に涼みに行くことができる。
写真・文=根岸真理
六甲山北面の中腹にある有馬温泉と山上を結ぶ六甲有馬ロープウェー、南側から山上へは六甲ケーブル・まやビューライン(摩耶ケーブル、摩耶ロープウェー)、新神戸駅からは神戸布引ロープウェイ、西端の須磨エリアには須磨浦ロープウェイと、ひとつの山域に5つもの路線のロープウェイやケーブルカーが引かれているのは、山岳国日本でも六甲山だけ。
近年の猛暑では、山麓から登るのは体力的にきついものがある。ここは文明の利器を活用し、涼しい山上エリアのみを快適に歩くプランはいかがだろう。今回は、麓よりも過ごしやすい山上で夏の花をゆったりと楽しむ花めぐりのコースを紹介しよう。
六甲ケーブルは、標高730mの山上駅まで標高差約500mを一気に登る。乗車中にも、どんどん涼しい山の空気に変わっていくのが実感できる。山上駅からは、大阪湾を一望する絶景が楽しめる(冒頭写真)。
多くのアジサイを見ることができる
まずはNHKの朝ドラ「らんまん」で注目を集めている、日本の植物学の父・牧野富太郎ゆかりの六甲高山植物園へ。ケーブル山上駅から東へ向かう。六甲全山縦走路に合流してゴルフ場を通り抜け、みよし観音の手前を左へ進むと、高山植物園の東入口。
牧野博士は、六甲高山植物園の開園当時に来園し、交流があったことから、現在企画展『六甲山ボタニカルフェア 牧野の足あと』が開催されている。
アジサイが美しく発色する
北海道南部とほぼ同じ気候である園内はとても涼しく、ブナの巨木や、7月に見ごろを迎えるアジサイも美しい。ニッコウキスゲやカライトソウ、キレンゲショウマなどさまざまな花が見られ、花好きには魅力満載のスポットだ。心地よい緑陰のブナの下では、週末には「ブナカフェ」がオープン、ハンモックに揺られながらコーヒーやハーブティで一服もできる。
多彩な高山植物が植えられている
季節の花々を堪能したら、隣接するROKKO森の音ミュージアム西側からブナの道へ。ボランティア団体が育成している六甲ブナを眺めながら歩ける心地よい散策路だ。ヴォーリズ六甲山荘の前から、記念碑台交差点へ。六甲山の自然に関する展示がある六甲ビジターセンターがあるので、時間があればぜひ見学を。ビジターセンター前には広いあずまやがあって、お弁当休憩にもぴったりだ。
記念碑台駐車場北側からノースロードを西へ進む。緑陰がきれいな涼しい道で、いったんシュラインロードに合流し、5分ほど北上すると再び西へ続くノースロード分岐がある。
道端でかわいらしいタマゴタケを見かけることも
アカヤマドリはおいしいと聞くけれど・・・
北側の眺望が開けたダイヤモンドポイントを経由して、三国池の南側からドライブウェイを渡って自然の家前へ。杣谷峠から北側へ下ると、穂高湖。高原の湖という趣で、対岸にはシェール槍が見える。時間があれば、登ってみてもよいだろう。
ドライブウェイに沿って摩耶山方面へ進むと、アゴニー坂の入口。摩耶山天上寺の裏手まで、標高差60mほどながら、なかなか登りごたえがある。
登り切ったところが花の寺として名高い摩耶山天上寺。境内には季節ごとにいろいろな花が咲くが、この季節に見られるのが沙羅の花。ナツツバキの俗称で、清楚な白いツバキに似た花は、はかない一日花。珠のようなつぼみも愛らしい。
小ぶりな白い花が可憐
天上寺から摩耶山掬星台(きくせいだい)へ向かうと、西側に広がるのが摩耶自然観察園。桜谷の源流にあたるエリアで、たくさんのアジサイが植えられている。モリアオガエルの生息地でもあり、池のまわりでは「コロコロ」と愛らしい声が聞こえることも。
年によってはお盆前後まで見ごろが続くことも
ゴールの摩耶山掬星台は、大阪湾を一望するビュースポットで、六甲ケーブル山上駅からの眺めとは少し角度が異なり、見比べてみるとおもしろい。目の前には神戸空港、はるか沖合には関西国際空港。空気が澄んでいる日なら、紀伊水道に浮かぶ友ヶ島も見える。
芦屋・西宮、大阪湾周辺の街並みが一望
まやビューライン・ロープウェー山頂駅にはカフェが併設されており、夏場なら冷えた生ビールもいただける。名物のチキンカレーや手作りケーキもおいしい。時間が許すなら、トワイライトタイムまで山上でゆっくり過ごせば、山上の涼しさをたっぷりと堪能できる。
※通常は火曜定休で、平日は17:30が最終だが、7月20日から8月いっぱいは夏ダイヤで無休になり、平日でもロープウェイ最終が20:50となる。
乗り物を使えば山上からの夜景が気軽に楽しめる
プロフィール
根岸真理(ねぎし・まり)
六甲山西端の神戸市須磨区生まれ。現在は六甲山東端の宝塚市在住。アウトドア系を得意とするフリーライター。親に連れられ、歩き始めると同時に須磨の山に登っていたため六甲登山歴60年。アルパイン歴は約30年。 神戸新聞「青空主義」欄で月に1回六甲山の情報(六甲山大学)を発信中。主な著書に『六甲山を歩こう!』『六甲山シーズンガイド春夏』『六甲山シーズンガイド秋冬』など。兵庫県立六甲山ガイドハウスで「山の案内人」ボランティア活動中。
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