アイススラリーってなに?登山の熱中症を防ぐヒント
私たちの体は汗の蒸発や皮下の血流を増加させることで体熱を外に放出し、体温をコントロールして「熱中症」を防いでいます。しかし、暑熱環境では体を物理的に冷やすことも大切。話題の「アイススラリー」をはじめ、登山中の冷却に役立つアイデアやグッズを紹介しましょう。
文・写真=芳須 勲
登山では体温コントロールが重要
恒温動物である私たち人間は、環境の温度が変化しても、ほぼ一定に体温(深部体温:37度前後)をコントロールしながら生きています。
山行中、熱を生み出すのは主に筋肉です。運動すると体が熱くなるのも、寒いときに震えて体温を上げるのも筋肉の働き(熱産生)です。一方、体温を下げる場合は、汗の蒸発や、皮下の血流を増加させることで体熱を外に放出(熱放散)しています。
体温が大きく変化してしまうと、生命の危険もあるため、私たちは暑いときには熱産生を抑えながら熱放散して「熱中症」を防ぎ、寒いときには熱放散を抑えながら熱生産して「低体温症」を防いでいます。
ところが、登山では厳しい暑さや寒さの中で長時間活動することもあるため、熱放散や熱産生による体温コントロールが追い付かなくなることがあります。
冬であれば、そういった状況でカイロを使ったり、温かい飲み物を飲んだりして「物理的に加温する」必要があります。夏には、事前に体を暑さに慣れさせる「暑熱順化(*詳しくはこちら)と、冷却アイテムを使って「物理的に冷却する」ことが重要になります。
冷却アイテムで登山ボディを冷やそう!
物理的に冷却する方法は2種類あります。
①身体の外側から冷やす
額や脇の下などにアイスパック(氷嚢)をあてる方法が一般的に知られていますが、現在、競技スポーツの現場では、冷却剤がポケットに入った「アイスベスト」や、10〜15℃の冷水に手のひらと前腕を浸け、循環する血液を冷却させて体を芯から冷やす「てのひら冷却(手掌前腕冷却)」が使われています。山行中、沢を見つけたら手のひらを水に浸けてみてください。きっとこの効果が実感できるでしょう。
②体の内側から冷やす
冷たいものを飲むことで、カラダを内側から冷やすことができます。なかでも「アイススラリー」(後述)という飲料が、最も効率よく体を冷やせると注目されています。
登山では、水分&ミネラル補給用のドリンクとは別に、保冷効果の高い魔法瓶に氷水を入れておき、こまめに少量ずつ飲んで体温の上昇を防ぐとよいでしょう。
ここまでは山行中に体を冷やすことを中心に考えていましたが、近年では、暑熱環境で活動を行なう時に、前もって体を芯から冷やしておくことで、活動できる限界の体温に到達する時間を延ばす「プレクーリング」という冷却法が、アスリートだけでなく、暑熱環境で働く人たちにも広く使われるようになりました。
例えるなら、いきなりサウナに入るよりも、先に水風呂に浸かって体を冷やしてから入った方が長時間サウナに入っていられるということですね。さすがに登山口まで水風呂を持っていくことはできないので、先ほどの「アイススラリー」を飲むのが現実的ではないかと思います。
アイススラリーを使ってみよう!
アイススラリーは液体と細かい氷がシャーベット状に混ざった氷飲料です。流動性があり体内の熱を効率よく吸収するため、冷たい飲料や氷よりも深部温度を下げるといわれ、競技スポーツの現場では知られていましたが、アイススラリーを作るには専用の機械が必要であるため、これまで一般的にはあまり知られていませんでした。
しかし近年では最近では商品化され、保冷バッグなどに入れておけば、手軽に持ち運べるようになったので、登山でもプレクーリングしやすくなりました。
低山ハイキングの短いコースであれば、登山口でこれを飲んで登れば、頂上までの冷却効果が期待できますし、魔法瓶に入れた氷水をこまめに飲んで体温上昇を防ぎながら登れば、さらに効果が増します。
ただし、アイススラリーはキンキンに冷えた状態のものを口の中で溶かさず一気に飲むため、人によっては、かき氷を食べた時のように頭がキーンと痛くなってしまったり、胃腸に不快感を抱いたりすることもあります。また、飲み過ぎによる胃腸への負担や体の冷やしすぎにも注意が必要です。
市販されているアイススラリーは一般的なゼリー飲料に比べると小さいと感じるかもしれませんが、プレクーリングとして使うには充分な量となっていますし、飲み過ぎることもないのでおすすめです。
これからも暑い日が続きます。熱中症に気を付けて、安全で快適な夏山登山をお楽しみください。
プロフィール
芳須 勲さん(登山ガイド、健康運動指導士)
よしず・いさお/いきいき登山ガイド・ヤッホー!!さん。として活動。管理栄養士の資格も持つ。「登山で健康づくり」をモットーに運動・食事指導・山の安全管理を柱とした登山プログラムを提案している。