登山YouTuber 山下舞弓×登山漫画家 信濃川日出雄 山ごはん対談「私たちの原点はラーメンですから!」

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8月3日に登山系YouTuber山下舞弓さんの初の著書『わたしの山登りアイデア帳』(山と溪谷社)が発売された。本書に収録されている、『山と食欲と私』(新潮社)の著者である信濃川日出雄さんとの対談を特別公開。

イラスト=信濃川日出雄


山下(以下、山):今日はあらためまして。

信濃川(以下、信):あらたまって対談というのは不思議な感じです。

山:そうですね。最初の接点は「山ごはん王」という企画で、先生が発起人であり、審査員。私が出演者。それがご縁で漫画にも登場させていただきました。

信:山下さんは映えある初代山ごはん王ですからね。なにがきっかけで、そんなに山のごはんに凝り始めたんですか?

山:私が山ごはんにハマったきっかけは、じつはラーメンなんです。登山を始めたばかりの頃に、山で友人が作ってくれたカップ麺が抜群に美味しかったので、次に一緒に登った時はラーメンにのせる野菜炒めを私が作りました。その次は、またなにかラーメンにあうおかずを……と繰り返すうちに今に至ります。先生はきっかけになった料理ってありますか?

信:意外なことに、僕もきっかけは一緒。ラーメンなんですよ。20代の頃、週刊連載に追われて疲れ果てていた時に、友達に誘われて高尾山に行きました。僕はコンビニのパンやおにぎりを持って行ったんだけど、仲間の1人がラーメンを作っていた。緑の中で食べるそれが、あまりに美味そうだったんです。

山:なんだか、似たような原体験ですね。

信:そうそう。次は僕も負けじとラーメンを持って行ったら、友達の料理はさらに一歩先に進んでいて……。友達に負けないように山でなにを食べようか考え続けてきたのが、僕の山ごはんの原点です。あの頃は、トンカツ弁当にレトルトカレーを温めてかけたりしたなあ。

山:当時は、まだ山ごはんを漫画の題材にしようとは思っていないですよね。

信:むしろ、漫画から逃げたくて山に行ったので、そのつもりはありませんでした。でも、何度か登っているうちにいつかは山ごはんを漫画にするかも、という予感はあった。連載が始まったのは、それから5年近く後になってからでした。ちなみに、僕は仲間と出かけても、基本的に山ごはんはいつもソロ仕様です。誰が何を作ってくるかは事前に聞きません。お互いに何を作るか張り合うのが楽しい。

山:今日はこんな料理を持ってきたか、みたいな面白さってありますよね。私も普段はソロ仕様ですが、以前、仲間と料理とお酒を持ち寄りでテントに泊まったことがあって。その時に、鯛を丸ごと一匹冷凍して持ってきた友達がアクアパッツァを作ってくれて。その夜は次々にワインが空いて、もう最高でした。

信:グループで一緒に食べるのって、そういうところが楽しそう。偶然隣合わせたテントの人は、きっと羨ましくて仕方なかったでしょうね。

山:先生は新しい山ごはんのレシピって、どうやって思いつくのですか?

信:漫画の主人公の鮎美ちゃんが全国の山に登るので、各地のご当地食材や名物を取り入れた山ごはんを考えることが多いです。山下さんはどうです?

山:私は普段のおうちの料理を山向きにアレンジするって考え方です。山用の特別なレシピというよりは、家庭用の料理本を参考に食材や調理法を工夫します。山でステーキだって焼きますよ。ご当地食材を取り入れるのも好きですけどね。

信:ちなみに、今回紹介している中でも特に得意な料理はありますか。

山:「トマトすき焼き」が最近のお気に入りです。いろいろなところで振る舞っています。

トマトすき焼きは動画でレシピ紹介中!

信:以前、レシピを教えてもらったのでうちでも作りたいんだけど、子供がすき焼きにトマトを入れることを許してくれないので、まだ食べられてないんですよ……。あ、そう考えると、僕が山で作るのは普段子供が一緒で食べられていない辛い料理や香りの強い料理が多いような気がします。

山:普段と違うものを作れる機会になるのも、山ごはんのいいところかも。トマトといえば、漫画に登場したくり抜いたトマトに材料を詰めて行ってご飯と一緒に炊き込む「丸ごとトマトのジャンバラヤ」を作ってみたのですが、すごく見た目が良くて美味しかったです。

信:あれは元々、食材をどうやって持ち運んだら面白いか、という発想から作ったレシピでした。漫画は美味しいレシピだけじゃなくて、面白い調理法や食材のアイディアを思いついた時もストーリーが作りやすい。逆にあまり良いアイディアが思いつかなかった時は、お化けを登場させて誤魔化すこともありますけど。

山:お化けが登場する回の裏には、そういう理由があったのですね……。ちなみに、先生がよく作る得意な山ごはんってなんですか?

信:僕が昔から山でも家でもよく作るのは、漫画でも紹介した「ズボラ丼」。温かい白飯にツナとマヨネーズをかけただけのもので、簡単だけど美味い。一人暮らしの頃から、ずっと作り続けています。

山:初めて漫画で鮎美ちゃんが食べているのを見た時に、男性っぽいごはんだなと思ったんですけど、先生ご自身の得意料理だったとは。納得です。

信:SNS映えする凝った料理ももちろんいいけど、山ごはんが難しいものだと思われないよう、漫画では簡単なレシピも意識的に紹介しています。おにぎりや出来合いのおかずを持って近所の山に登って温かい味噌汁と一緒に食べる、っていうだけでも十分楽しめますからね。

コミック14巻に登場させてもらってます!

山:私はそんな先生の漫画を読んで、私も「もっともっと山ごはんをやりたい!」と思ったので、同じように感じている読者はたくさんいるはずです。

信:描くうえで、「山で初めてバーナーでお湯を沸かしてラーメンを食べた時のときめき」を忘れないようにしようと、いつも心がけています。あのラーメンの美味しさを忘れない!

山:私たちの原点はラーメンですから!

信:あと、僕の将来的な目標としては、漫画を通してもっと山ごはんを登山カルチャーのジャンルの1つとして定着させたい。その活動の一環として、8月5日を勝手に「山ごはんの日」として日本記念日協会に認定してもらいました。

山:山ごはんの日には、みんなで一緒にごはんを作るイベントがあってもいいし、全国各地の食材や郷土料理を使った山ごはんの大会をしてもおもしろいですね。

信:山下さんは一緒に盛り上げてくれる同志の1人。頼りにしてます。

山:同志と言ってもらえて嬉しいです! 今後も一緒に山ごはんの魅了を伝えていきましょう。


信濃川日出雄

しなのがわひでお/漫画家。主人公の日々野鮎美(27歳・会社員)が、山での食事を通して様々な登山者と出会うヒューマンドラマ『山と食欲と私』の作者。取材を通して、日本全国の山々を旅している。札幌在住。

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