裏銀座の魅力を伝えたい。編集者・小野泰子さんインタビュー

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北アルプスの麓に暮らしながら、山岳雑誌でフリーの編集・ライターとして、さらにエリアマガジン『URAGIN magazine』の編集として活動する小野泰子さんに、お話をうかがいました。

文=山と溪谷オンライン、写真=河谷俊輔

岡山県で旅行誌などの編集者として働いたのち、上京後は登山に関するフリーの編集・ライターとして『山と溪谷』などの山岳雑誌で活躍してきた小野さん。しかし、2020年に新型コロナウイルスの流行と、それに伴う外出自粛のなかで、長野県への移住を決意したという。

「外出自粛で打ち合せもオンラインになってしまって、東京じゃなくてもいいのかなと思うようになりました。それなら、現地の近く、特に北アルプスがある長野県に移住しようと」

そして2021年夏に安曇野市に移住。現在は、お隣の大町市で暮らしている。

移住後は、山に関わる人、例えば登山ガイドなどと知り合う機会が増えたそうだ。時間をかけて話していくなかで、深い話を聞くこともできる。

「やっぱり、直接会うと、情報の量というか質が違いますね。お話のなかで『わざわざ書くようなことじゃないけど・・・』と言われても、いやいや、それすごくおもしろいですよ!って(笑)」

2022年には『URAGIN magazine』を創刊した。「URAGIN」、つまり裏銀座の魅力を伝えるエリアマガジンだ。

『URAGIN magazine』創刊号表紙
『URAGIN magazine』創刊号表紙

裏銀座について簡単に説明をすると、裏銀座とは、北アルプスの烏帽子岳から鷲羽岳、三俣蓮華岳、双六岳、西鎌尾根を経由して槍ヶ岳に至る縦走路。表銀座と呼ばれる燕岳から東鎌尾根を経由したルートに対する名称だ。少なくとも3泊4日の行程が必要で、その場合は1日のコースタイムが約10時間になる日もある。槍ヶ岳をめざす主要コースのなかでは最も長距離になる縦走路だ。

小野さんが裏銀座を初めて通しで歩いたのは2019年。『山と溪谷』2020年8月号の取材だった。

「静けさがすごくいいな、好きだな、と思いました。静けさの中で、3000mの稜線を繋いで、深い谷と、めざす槍ヶ岳を見ながら歩く・・・いいルートだなぁと」

朝の光の中、鷲羽岳へと向かう
朝の光の中、鷲羽岳へと向かう

しかし、表銀座に比べると、アプローチのしにくさや日数の長さもあり、歩く人は少ない。

「裏銀座の良さをもっと知ってもらいたい、と思いました。やっぱり、編集者やライターって、自分が知った情報や感動したことを人に伝えたいと思う生き物なんですよね(笑)」

企画当初は、ZINE(小冊子)として個人製作での手売りも検討していたというが、『URAGIN magazine』は、一般社団法人ネオアルプスからの刊行となった。そのきっかけは現地でのつながりからだ。

「2021年の年末に、オープン前の三俣山荘図書室のリノベーションを、知人の誘いで手伝いました。その時に、オーナーの伊藤圭さんと話す機会がありました。裏銀座を盛り上げて行きたいね、と」

伊藤圭さんは三俣山荘、水晶小屋、そして三俣山荘図書室のオーナーであり、一般社団法人ネオアルプスの代表でもある。ネオアルプスは、北アルプス大町エリアの登山、山岳観光の魅力発信や環境保全、そして登山文化の次世代継承を目的にした非営利法人だ。

裏銀座エリアを盛り上げたい、という共通の思いから、伊藤さんがネオアルプスを立ち上げた2022年に、ネオアルプスの事業の一つとして、『URAGIN magazine』が創刊することになったのだ。

創刊号では、ずばり「裏銀座大縦走」を特集。第2号では、今シーズン本格開通する伊藤新道を特集し、2023年9月下旬刊行予定だ。

『URAGIN magazine』の編集・制作以外にも、ライフワークのZINE作りではワークショップを行なったり、山小屋主人によるトークイベントを企画・開催したりと、現場に出て精力的に活動している小野さん。

URAGIN magazine主催で、裏銀座エリアの山小屋オーナーによるトークイベントを開催

山に仕事に邁進中のようだが、意外にも「軌道修正」を模索中だという。

「プライベートで山に登るときもつい仕事モードになってしまって・・・。これ写真映えするなとか、こういう展開で、とか考えちゃうんですよね。山を楽しむことが本来なのに・・・」

そんなときに知ったのが、“中今(なかいま)”という言葉。

「今この瞬間に集中する、自分が今やっていることに集中するということです。登山では、景色を見て喜ぶとか、お花を見て感動する、急登でしんどいとか、そういうことに集中しようと思いました。登山が仕事じゃなくて趣味だったころの純粋な気持ちで登っていきたいなと。ネタ探しがわるいわけじゃないんですけどね」

小野さんの文章は、山に対して丁寧で真摯な印象だったが、その理由がわかったような気がする。ついに本格開通する伊藤新道も、小野さんの目にはどんな風に映るのか。『URAGIN magazine』第2号の発売が待ち遠しい。

関連リンク

URAGIN magazine

プロフィール

小野泰子(フリーランス編集者)

長野県大町市在住。登山、トレッキング、散歩といった歩くこと全般をテーマに、山岳系の雑誌、書籍、ウェブに携わる。プライベートでも四季を通じて山に入り、縦走、アルパインクライミング、雪山登山にいそしんでいる。ZINE作りのワークショップを随時開催。山のみならず、街で出合った“山の片りん”をインスタグラム(@ono_b_yasuko)に投稿中。

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