北八ヶ岳でコケに親しむ

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雑誌『山と溪谷』2023年9月号の特集は「八ヶ岳 山と山小屋」。北八ヶ岳の樹林帯では、コケが作り出す美しい風景に出合える。静かな森をのんびり歩いて、一面に広がるコケに目を向けてみてはいかがだろうか。

写真・文=藤井久子


針葉樹の原生林の中に草原や池が点在する北八ヶ岳エリア。なかでも標高2100m以上の高地の湖沼としては日本最大規模を誇る「白駒(しらこま)池」周辺の森は、樹齢数百年の針葉樹の足元を厚いマット状のコケが覆い、独特の景観を見せる。そのコケ群落の規模と美しさから、2008年には日本蘚苔類学会の「日本の貴重なコケの森」にも選定された。

いまやコケに覆われて久しいが、ここはもともと火山活動によってできた岩塊が多く転がり、土の少ない、やせた土壌だった。しかし、そういった場所にこそ最初に進出するのがコケ。根を持たず、空気中の湿度とわずかな養分で生きられることから、岩塊に着生して群落を広げた。一帯は白駒池を中心とするすり鉢状の地形で、霧が発生しやすいこともコケの生長に繫がったのだろう。さらにコケのマットを苗床に、コメツガ、トウヒ、シラビソなどの針葉樹林が発達。倒木をまたコケが覆い、長い時間をかけて現在の森が形成された。

現地には地元の有志による「北八ヶ岳苔の会」があり、森の保全活動を行なう。さらに6月~10月にはコケ研究者を招いてコケ観察会も開催し、コケの魅力を伝えている。

おすすめのコース

日本では約1900種のコケが知られているが、八ヶ岳にはその4分の1、およそ500種ものコケが現在までに確認されている。ここでは北八ヶ岳のなかでも、特に亜高山帯と高山帯の代表種に出会える2つのコースを紹介したい。

①白駒池入口~白駒池

白駒池の周囲の森はコケの宝庫
火山噴火の噴出物によってできた池の周囲の森はコケの宝庫だ。池の周囲は1周約40分で歩ける(写真=PIXTA)

国道299号線沿いにある白駒池入口有料駐車場のすぐ目の前に、森の入口がある。中に一歩入ると、幻想的なコケの世界が広がっている。

林床には背が高く小山状の群落をつくるセイタカスギゴケや日本固有種のムツデチョウチンゴケなどが群生するほか、樹幹や岩にもコケが豊富。安定した森の環境を好む亜高山性のコケの宝庫だ。

道はならだかで、しかも白駒池まで木道が渡されているので迷うこともない。ルーペやカメラを携えてじっくりコケを見ながら歩いてみよう。なお、コケは踏みつけに弱い。歩くときは木道から出ないように注意してほしい。

セイタカスギゴケ
セイタカスギゴケ
ムツデチョウチンゴケ
ムツデチョウチンゴケ
アリノオヤリ
アリノオヤリ
ヤマタイムで地図を見る

②麦草ヒュッテ~コケモモの庭

麦草ヒュッテ~コケモモの庭
コケモモの庭。岩の表面や岩と岩の隙間にコケを探してみよう。夏にはコケモモの花も美しい

麦草(むぎくさ)ヒュッテから国道299号線沿いに茅野(ちの)方面へ歩くとオトギリ平へ向かう登山道の分岐がある。その登山道の途中にあるのがコケモモの庭。

白駒池周辺とは景観が一転、斜面を岩塊とハイマツが占拠する。一見するとコケなんていそうにないのだが、ここでは高山性のクロゴケやシモフリゴケなどを見ることができる。厳しい環境でたくましく生きる姿をぜひ観察してほしい。

観察後は麦草ヒュッテで休憩するのもいい。軽食を提供しているほか、コケ関連の展示も充実。さらに周辺では、動物の糞や死骸に生える珍種・マルダイゴケなども見られる(運がよければ!)。

クロゴケ
クロゴケ
マルダイゴケ
マルダイゴケ
シモフリゴケ
シモフリゴケ
ヤマタイムで地図を見る

『山と溪谷』2023年9月号より転載)

プロフィール

藤井久子(ふじい・ひさこ)

フリーライター、編集者。岡山コケの会、日本蘚苔類学会会員。著書に『コケ見っけ!日本全国もふもふコケめぐり』(家の光協会)など。コケ、旅、山が好き。

雑誌『山と溪谷』特集より

1930年創刊の登山雑誌『山と溪谷』の最新号から、秀逸な特集記事を抜粋してお届けします。

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