ルポ・残雪期も人気の会津駒ヶ岳へ【山と溪谷2024年4月号第2特集より】
『山と溪谷』2024年4月号では、第2特集として「日帰り〜1泊2日で行く残雪の山」を掲載。雪山登山、雪山ハイキング、山スキーにおすすめの登山コースを解説している。この企画から残雪登山のルポをご紹介。春の芽吹きを感じながら、残雪の会津駒(あいづこま)ヶ岳へ。この山を起点とした残雪期の縦走ルートはいくつかあるが、今回は雪が多く残る尾瀬御池(おぜみいけ)までのルートを縦走した。
写真=金子雄爾、文=渡辺裕子(山と溪谷編集部)
稜線の雪をつなぐ白い旅
残雪期の山は自由だ。雪深く、気候の厳しい真冬では難しい山も、春になると雪が締まり、気候も穏やかになり、登りやすくなる。雪があることで、自分のルートを思い描くことができる。私にそんな残雪期の楽しみを教えてくれたのは会津駒ヶ岳だった。
会津駒ヶ岳は福島県檜枝岐村にある2133ⅿの山。日本百名山だ。豪雪地の豊富な雪によって、残雪期も登山者が訪れる人気の山で、山スキーのメッカでもある。雪は多いがたおやかな山容で、滑落などの危険箇所が少ない。コンディションがよければ雪山登山初心者でも楽しめる。
雪山登山を始めた頃、何度も会社の先輩に雪の会津駒ヶ岳に連れていってもらい、冬の山の雪深さや厳しさ、春の残雪の山の快適さを知った。印象的だったのは残雪期に三岩(みついわ)岳から会津駒ヶ岳をつないだこと。この縦走路は夏山がなく残雪期限定のルートで、こんな自由に山を旅することができるのかと感動した記憶がある。久しぶりにまたこのルートを歩いてみたいと思い、計画を始めた。
会津駒ヶ岳にある山小屋、駒の小屋はGW 頃から営業を開始している。ご主人の三橋一弘さんに、入山日までに何度か雪の状況を確認させてもらった。このシーズンは特に雪が少なく、私たちが行く頃には三岩岳方面の雪が解けてしまい縦走が難しいということがわかった。会津駒ヶ岳から尾瀬御池までの縦走路はまだ雪があるようで、こちらに予定を変更した。このルートは夏にしか歩いていないので、雪山ではどんな感じになるのだろうとわくわくしながら当日を迎えた。
駒ヶ岳登山口近くの登山者用駐車場に車を止めて舗装された林道を歩く。道中の沢沿いは雪解け水がごうごうと流れる音と、ハルゼミの大合唱でにぎやかだ。滝沢登山口から木製の階段を上ると登山道。序盤からキツい急登だが、明るい新緑に包まれて気分がいい。葉や枝が風に揺られて山が呼吸をしているよう。足元には小さな花、見上げると木に咲く花が見られた。途中、駒の小屋の常連さんとすれ違った。小屋付近の斜面でソリを楽しんだようだ。
夏の水場あたりから雪が出始め、いよいよ雪山登山だ。残雪期の山は、登るにつれて春から冬の様子へと変わっていくのが好きだ。緩やかなアップダウンを繰り返し、視界が開けてくると駒の小屋が見えた。左手には、翌日行く大津岐(おおつまた)山、大杉岳をつなぐ縦走路とその先に燧(ひうち)ヶ岳が裾を広げている。縦走路の雪の状況などを見ながら小屋へ到着した。
三橋さんに迎えてもらい、荷物を置かせてもらって会津駒ヶ岳の山頂へ向かう。山頂からは、中門(ちゅうもん)岳へと延びる稜線と、大戸沢(おおどさわ)岳を経由して三岩岳へと延びる稜線に大きく分かれている。そこから見える三岩岳方面は雪が少なかった。
大戸沢岳直下には湿原があり、雪が解けてちょっとだけ見える。この辺りは尾瀬国立公園に指定されており、湿原を踏み荒らしから守るため、雪解け後は進入禁止となっている。確かに三岩岳への縦走はできないと納得して小屋に戻った。
駒の小屋は素泊まりの小屋のため食材を持参する必要がある。ただ寝具付きなので、シュラフやマットは担ぐ必要がなく、その分、身軽になる。この日の宿泊者は、私とカメラマンのほかにもう一人登山者の方がいた。自炊室で夕飯やおつまみを作りながら、お酒を飲み、ご主人や宿泊者の方と山談義に花を咲かせ、楽しい時間を過ごした。
2日目は大津岐峠、大杉岳をつなぎ御池へ。小屋から下ってすぐの1996mピーク付近は尾根が狭く、岩やハシゴが露出していて、少しヒヤヒヤしながら慎重に通過した。その先は雪がしっかりついた広い尾根になっていて、ホッとする。雪などルートの状況がどうなっているか行ってみないとわからなかったので、縦走できそうだとわかって安心した。
しばらくは燧ヶ岳、平(ひら)ヶ岳、越後三山など周囲の山を眺めながら、ここまで来てよかったと気持ちよく、悠々と歩く。尾根が広いので、時々GPSや地図を見て進行方向を確認しながら進んだ。
快適な道も束の間、大津岐峠から先は、雪が作った細かなアップダウンに徐々に体力が消耗してくる。雪が緩くなってアイゼンが利きにくいなか、トラバースしたり、リッジを通過したりと緊張感のあるシーンが何度か出てきた。夏道が出てきていて、かえって通行が困難な場所もあった。
そう、雪の山は変化する。残雪の山は、ただ快適で易しいわけではなく、気持ちのわるい状況も出てくる。そんなときもこれまでの経験を生かして現場で判断し、処理していくことが大事で、これが達成感につながる。経験って大事だ。ひょいひょいと雪を処理し、仙人のように身軽に登り下りしている、ベテランカメラマンの金子さんを見てそんなことを思った。
遠くにあった燧ヶ岳にどんどん近づいていく。大杉岳付近までやってきた。振り返ると会津駒ヶ岳がすごく遠くにあり。通ってきた稜線は、酸いも甘いもあったが、あの山のうねりをとても愛おしく感じた。じっくり眺めてから御池方面へ向かった。
(取材日=2023年5月10〜11日)
MAP&DATA
雪が豊富に残る会津駒ヶ岳は、残雪期も人気だ。GW頃から駒の小屋が営業を始め、縦走もしやすくなる。ここでは、会津駒ヶ岳から尾瀬御池へ延びる長大な雪稜を縦走する。
会津駒ヶ岳へは駒ヶ岳登山口から入る。登山道入口から登山道を歩き、途中から雪を踏むようになる。ほぼ夏道と同じで、尾根に沿って登るが、進路を確認しながら進もう。駒の小屋を経て会津駒ヶ岳を往復する。
翌朝は尾瀬御池へ。駒の小屋から大津岐峠までを富士見林道、大津岐峠から大杉岳を経て尾瀬御池までを大杉林道といい、夏道と同様に尾根通しに進む。1996mのピーク付近は岩稜帯で尾根も狭い。状況をよく確認して慎重に通過したい。その先は、燧ヶ岳や平ヶ岳などの眺望がすばらしい、広大な雪の稜線歩き。大杉岳からは尾瀬御池への下りに入る。
適期:4月中旬〜5月上旬
参考コースタイム:1日目 5時間40分、2日目 6時間20分
アクセス:
【公共交通機関】[行き]野岩鉄道会津高原尾瀬口駅(バス1時間10分)駒ヶ岳登山口/[帰り]尾瀬御池(バス1時間40分)野岩鉄道会津高原尾瀬口駅
【マイカー】駒ヶ岳登山口近くの村営グラウンドの登山者用駐車場で駐車(無料、100台以上)。尾瀬御池からは会津高原尾瀬口駅行きのバスを利用し、駒ヶ岳登山口で下車、登山者用駐車場へ
アドバイス
雪や天候を見極め、ルート取りも的確な判断が求められる。雪山登山初心者の場合は、駒ヶ岳登山口から会津駒ヶ岳の往復が無難。駒ヶ岳登山口行きのバスは、最も早い便で向かう場合も入山のタイミングが遅れるので、檜枝岐村に前夜泊する。駒の小屋は寝具付きの素泊まり小屋のため、食材など持参を。今シーズンは4月27日から営業を開始。
問合せ先
会津駒ヶ岳駒の小屋 TEL:080-2024-5375(4月1日から宿泊受付開始)
会津バス田島営業所 TEL:0241-62-0134
(『山と溪谷』2024年4月号より転載)
プロフィール
山と溪谷編集部
『山と溪谷』2024年5月号の特集は「上高地」。多くの人々を迎える上高地は、登山者にとっては入下山の通り道。知っているようで知らない上高地を、「泊まる・食べる」「自然を知る・歩く」「歴史・文化を知る」3つのテーマから深掘りします。綴じ込み付録は「上高地散策マップ」。
雑誌『山と溪谷』特集より
1930年創刊の登山雑誌『山と溪谷』の最新号から、秀逸な特集記事を抜粋してお届けします。