日帰り登山であっても、万一に備えた装備の準備を 島崎三歩の「山岳通信」 第313号

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

長野県が県内で起きた山岳遭難事例について配信している「島崎三歩の山岳通信」。2023年9月8日に配信された第313号では、とくに四方原山で起きた遭難事故について取り上げ、日帰り登山であっても万一に備えた装備を準備しておくことの大切さを説明している。

9月8日に配信された『島崎三歩の「山岳通信」』第313号では、期間中に起きた12件の山岳遭難事例について説明。以下に抜粋・掲載する。

  • 8月28日、北アルプスの鹿島槍ヶ岳で、2人パーティで27日に柏原新道登山口から入山した60歳の女性が、鹿島槍ヶ岳を経由して五竜岳方面に縦走中にバランスを崩し滑落して負傷する山岳遭難が発生。県警ヘリが出動して女性を救助した。

北アルプス鹿島槍ヶ岳での遭難現場の様子/長野県警察本部ホームページ山岳遭難発生状況(週報)9月4日付
  • 8月28日、北アルプスの餓鬼岳で、4人パーティで27日から入山した47歳の女性が、山頂から白沢側登山口に向けて下山中にスリップし滑落して負傷する山岳遭難が発生。大町警察署山岳遭難救助隊員および北アルプス広域消防本部消防署員が出動して県消防防災ヘリで女性を救助した。

  • 8月29日、北アルプスの天狗沢で、単独で28日から入山していた36歳の男性が、岳沢から天狗のコルへ向けて天狗沢を登山中に道に迷って行動不能となる山岳遭難が発生。県警ヘリが出動して男性を救助した。

北アルプス天狗沢での遭難現場の様子/長野県警察本部ホームページ山岳遭難発生状況(週報)9月4日付
  • 8月29日、八ヶ岳連峰の赤岳付近の登山道上で、なんらかの原因により登山中に滑落した男性(84歳)が倒れているのを、ほかの登山者が発見。30日、茅野警察署山岳遭難救助隊員および県警ヘリが出動して救助したものの死亡が確認された。男性は単独で入山していた。

  • 8月29日、御嶽山で、2人パーティで入山した42歳の女性が、山頂から三ノ池方向へ下山中に登山道から外れて滑落して負傷する山岳遭難が発生。県消防防災ヘリが出動して女性を救助した。

  • 8月29日、北アルプスの北穂高岳で、単独で28日から入山していた54歳の男性が、北穂高岳から涸沢に向かって下山中に日没および技量不足により行動不能となる山岳遭難が発生。北アルプス南部地区山岳遭難防止対策協会救助隊員および松本警察署山岳遭難救助隊員が出動して男性を救助した。

  • 9月1日、八ヶ岳連峰の硫黄岳で、2人パーティで8月31日から入山していた61歳の女性が、根石岳から下山後に硫黄岳付近の山小屋で転倒して負傷し、行動不能となる山岳遭難が発生。諏訪地区山岳遭難防止対策協会救助隊員、諏訪広域消防特別救助隊員および茅野警察署山岳遭難救助隊員が出動して女性を救助した。

  • 9月2日、北アルプスの常念岳で、6人パーティで入山した59歳の女性が、常念岳頂上に向けて登頂中にスリップし足を滑らせ転倒・負傷する山岳遭難が発生。警察本部山岳安全対策課救助係隊員および北アルプス南部地区山岳遭難防止対策協会救助隊員が出動して女性を救助しました。

  • 9月2日、南佐久郡の四方原山で、4人パーティで入山した4名の登山者(72歳男性、66歳女性、82歳男性、79歳女性)が、山頂から下山中に道に迷い行動不能となる山岳遭難が発生。3日に警察本部山岳遭難救助隊員が出動して4人を救助した。

  • 9月3日、烏帽子岳で、単独で入山した61歳の男性が、下山中に山頂付近で転倒して足首を負傷する山岳遭難が発生。県警ヘリが出動して男性を救助した。

北アルプス天狗沢での遭難現場の様子/長野県警察本部ホームページ山岳遭難発生状況(週報)9月4日付
  • 9月3日、入笠山で、単独で入山した70歳の男性が、山頂から下山中に登山道で転倒し足をひねり負傷する山岳遭難が発生。諏訪広域消防本部消防署員が出動して男性を救助した。

  • 9月3日、下伊那郡の南沢山で、2人パーティで入山した51歳の女性が、山頂に向けて登山中に疲労による体調不良で行動不能となる山岳遭難が発生。飯田広域消防本部消防署員が出動して女性を救助した。

 

長野県警山岳安全対策課からのワンポイントアドバイス

8月5週は、1件の死亡遭難を含む12件の遭難が発生しました。夏山シーズン中は、昨年に続き100件を超える遭難が発生し、北アルプスでの遭難が多発しました。
9月に入ってからは、里山を中心に6件の遭難が発生しています。

5週の遭難は、転倒による遭難が目立ちましたが、中には、道に迷い日没となって行動不能となった事例や、熱中症により行動不能となった遭難もありました。
四方原山(よもっぱらやま)での遭難は、当初は同じルートを往復する予定で入山したものの、登山道に土砂崩落等があったため、下りで同じルートを使うのは危険だと判断し、別のルートを使って下山を試みたところ道に迷ってしまったものです。当日は日没を迎えてしまったため、遭難らはその場でビバークし、翌朝出動した救助隊員に無事救助されました。救助後、遭難者らから話を聞くと、「日帰り登山だからヘッドランプや雨具などを持参しなかった」、「ビバーク中は夜露で体が濡れて寒かった」と話していました。
四方原山は、知名度は低い山ですが、登山口が数カ所あり、登山道は草やヤブが生い茂っており、不明瞭となっています。必ずしも登山道に道標やピンクテープなどのマーキングがついているとは限りませんので、GPSや紙地図、登山地図アプリを活用してこまめに自分の現在地を把握しましょう。
また、日帰り登山であっても、万一に備えて、ヘッドランプ、雨具、ビバークセット(非常食・飲料、防寒着など)、ツエルトなどを必ず携行しましょう。

県内はまだまだ暑い日が続いていますが、標高の高い山域では、秋山の装いに変わり始めています。日中は、気温が高い日もありますが、朝晩は冷え込みが厳しくなってきます。日没が早まり、日照時間も短くなります。例年、日帰り登山者がヘッドランプなどを所持しておらず、行動不能となる遭難が発生しています。

今週は、台風の影響により不安定な天候となる予報です。悪天候中の行動は、風雨にさらされ低体温、視界不良による行動不能などさまざまなリスクをもたらしますので、登山を計画されている方は、中止または延期の判断をお願いします。

 

令和5年(2023年)夏山期間中の山岳遭難状況

■夏山期間中(7月1日~8月31日)の山岳遭難発生状況

遭難の特徴

(1)態様別 転倒が約3割で最多。次いで滑落と疲労がそれぞれ約2割、病気が約1割
(2)山域別 北アルプスが約7割、八ヶ岳が約1割
(3)年齢別 40歳以上の中高年の遭難が約9割(うち60歳以上の高年齢層は約5割)
(4)居住地別 関東及び関西の都市部の都府県在住者が多数を占めた 

主な遭難事例

(1)穂高連峰における死亡相談の多発前
  穂高岳2件、 奥穂高岳1件、西穂高岳3件、計6件の滑落等による死亡遭難が発生

(2)白馬岳における転倒及び疲労による遭難の多発
  白馬大雪渓ルートで転倒6件、疲労4件を含む12件の遭難が発生

(3) 御嶽山における遭難の多発
 立入規制が解除された御嶽山で、転倒による重傷遭難が4件発生

救助活動など

(1)101件の遭難のうち、県警ヘリは47件に出動し、40人救助、7遺体収容
(2)救助活動には、警察官356人を含む665人が従事(人数はいずれも延べ人数)

■山岳遭難発生状況(暫定値) (令和5年〈2023年〉7月1日~8月31日)

 

■山域別発生状況 (令和5年 〈2023年〉7月1日~8月31日)

 

■態様別発生状況 (令和5年〈2023年〉7月1日~8月31日)

 

■男女別・年齢別比率(令和5年〈2023年〉7月1日~8月31日)

プロフィール

島崎三歩の「山岳通信」

信州の山岳遭難現場と全国の登山者をつなぐために発行。「登山用品店舗スタッフ」「登山情報サイトを利用する登山者」「長野県内の各地区山岳遭難防止対策協会」などに対して、長野県の山岳地域で発生した遭難事例を原則・1週間ごとに、「安全登山」のための情報提供をしている。

⇒バックナンバーはコチラ!

島崎三歩の「山岳通信」

長野県では、県内の山岳地域で発生した遭難事例をお伝えする「島崎三歩の山岳通信」を週刊で配信。その内容をダイジェストで紹介する。

編集部おすすめ記事