奥多摩に滝を見に行き、道迷い。深夜2時まで続いた83歳リーダーの奮闘

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20年間、警視庁青梅警察署山岳救助隊を率いてきた著者が、実際に取り扱った遭難の実態と検証を綴る。安易な気持ちで奥多摩に登る登山者に警鐘を鳴らす書、ヤマケイ文庫『侮るな東京の山 新編奥多摩山岳救助隊日誌』から一部を紹介します。

文=金 邦夫

最低限の装備と新しい情報が不可欠

高齢者6人、事故がなかったことが不思議なくらいの山行である。リーダーたるF氏、まず全員の体力、経験を考えてそれに合ったコースを選ぶべきである。

装備はどうか。いくら日帰りとはいえ、登山にヘッドランプや雨具は必需品である。

昨年(1997年)奥多摩の各山頂でとったアンケートによると、約半数の登山者が照明具は持っていないと答えている。必要な最低限の装備も持たずに登山をするということは、グローブも着けず野球をするようなものだ。

登山に限らずいまの世の中は、常に新しい情報が必要だ。戦後まもなく発行された地図など、骨董屋では貴重かもしれないが、それを頼るととんだ事故につながりかねない。

照明具も持たずに日が暮れたら、ビバークをしたほうが懸命だ。晴れた夏の夜、星を眺めて焚き火をし、草をしとねに一夜を明かすのもおつなものだ。暗闇のなか、手探りで岩尾根を下山するなど自殺行為にひとしい。

以上のことからF氏はリーダーとして失格である。

数日後F氏から山岳救助隊に葉書が届いた。それには「大変ご迷惑をおかけ致し本当に申し訳なく思っております。これを機に今後、今回の様な不祥事を起こさない様重々勉強し、注意して慎重に行動することをお誓いし、ご迷惑ご心配をおかけしない様にする所存でございます」という、いかにも真面目人らしい丁重な文章であった。

侮るな東京の山

侮るな東京の山
新編奥多摩山岳救助隊日誌

奥多摩のリアルがここにある。 山岳救助隊を20年にわたって率いた著者が鳴らし続ける警鐘。

金 邦夫
発行 山と溪谷社
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侮るな東京の山 新編奥多摩山岳救助隊日誌

奥多摩のリアルがここにある。 山岳救助隊を20年にわたって率いた著者が鳴らし続ける警鐘。

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