「もしもーし、遭難しました」。携帯電話普及による安易な救助要請の増加に懸念

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20年間、警視庁青梅警察署山岳救助隊を率いてきた著者が、実際に取り扱った遭難の実態と検証を綴る。安易な気持ちで奥多摩に登る登山者に警鐘を鳴らす書、ヤマケイ文庫『侮るな東京の山 新編奥多摩山岳救助隊日誌』から一部を紹介します。現在は携帯電話からスマートフォンへとさらに便利に進化しましたが、本質的な部分は変わらないのではないでしょうか。

文=金 邦夫

携帯電話での救助要請が増加

最近、携帯電話の発達と普及が目覚ましい。2000年3月、私は友人と谷川岳の幽ノ沢を登り、一ノ倉岳の山頂でホワイトアウトに遭って、やむなくビバークすることになった。そのとき、友人の携帯電話でその旨を自宅に連絡したのだが、冬の一ノ倉岳で東京の自宅と話ができること自体、メカに弱い私にとっては驚きだった。

携帯電話は、まだどこででも通話可能というわけではないが、これほど普及したいま、山行には必携なものとなったことは確かだ。

奥多摩の山での救助要請も、家族などからの捜索依頼は別として、半数以上が携帯電話によるものとなった。まだ沢筋などでは圏外のことが多いが、山での事故は一刻を争うこともある。通話可能な場所まで降りてきて、そこからかければ、救助要請に集落まで降りてくる時間が短縮できる。

ただいくら便利になったからといって、軽い捻挫くらいで、自分たちでできることもやらず、安易に救助隊要請というのは困る。リーダーはそのあたりの判断を的確に下す必要がある。いまは山でのアクシデントにおいて、セルフレスキューが叫ばれている時代でもある。

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侮るな東京の山 新編奥多摩山岳救助隊日誌

奥多摩のリアルがここにある。 山岳救助隊を20年にわたって率いた著者が鳴らし続ける警鐘。

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