雪の奥秩父で、人気テントの冬用外張りを試す ニーモ/クナイ2P+ウインターフライ[イワタニ・プリムス]
今月のPICK UP ニーモ/クナイ2P+ウインターフライ [イワタニ・プリムス]
日本向けの軽量山岳テントに冬用外張りが登場
(クナイ2P)
価格:59,000円+税 / 寝人数:2人 / 最少重量:1.78kg
(クナイ2P用ウインターフライ)
価格:27,000円+税 / 最小重量:590g
誰もいない冬のテン場で最新の冬季用テントを試す
この足跡は、昨日のものなのか、それとも一昨日前のものなのか? 僕は前方にうっすらと残るトレースを追いながら、少しずつ目的地へと向かっていた。
ここは奥秩父の西端、富士見平。瑞牆山荘がある里見平の登山口から登っていくと、瑞牆山に向かう登山道と、金峰山に進む登山道との分岐になる場所だ。平日ということもあり、百名山2座が隣り合う人気山域なのに僕以外の登山者は一切いない。今日の宿泊予定地は大日小屋のテント場だが、金峰山から降りてきた人がテントを張っている可能性は低く、おそらく一人きりの夜になるだろう。孤独だけれども、どこまでも自由で贅沢なときを過ごせるはずだ。
空にはほとんど雲もなく、まさに快晴。気温は低いが無風でもあり、重い荷物で体が汗ばんでくる。しかし富士見小屋から飯盛山が位置する尾根に登っていくと、北側から強烈な風が……。突然、顔が痛くなるほど体感温度が下がってくる。
でも、今回はこれくらいでいいのかもしれない。僕が今回、テストのために持参してきたテントは、ニーモの「クナイ2P」。4シーズン用の自立型ダブルウォールテントだ。
それだけではない。加えて持ってきたのは、付属のフライシートと取り替えて使用する「ウインターフライ」。冬季の強力な雪と風に対応するためのオプション品である。少しくらいハードな状況のほうが、テストする意味があるというものだ。
ただしこの山域の雪の量は想像よりも少ない。僕は半月前にもほぼ同じ場所に来ているが、それほど雪の深さは増してはいないようだ。ブーツにつけたアイゼンは雪の下に隠れた岩に引っかかり、とても歩きにくい。だがそれ以上に、僕は自然の岩を傷つけている感覚に耐えられず、結局途中で外してしまった。
大日小屋のテント場には、やはり誰もいなかった。この無人小屋の周囲の積雪量は20~40cmというところだが、テント場は周囲の木々の葉っぱが落ちたために吹きさらしになっており、雪は強風に飛ばされ、また天日で溶けてしまったためか5~30cm程度。僕はできるだけ雪が残っている場所を探し、テントを設営した。
まずはインナーテントとポールを組み合わせ、付属のフライシートをかける。つまり、クナイ2Pの本来の姿だ。インナーテントのベンチレーターは前後各1カ所に設けられ、フライシートの開閉部と連動して換気を促すデザインになっている。もともとニーモの他モデルのテントを愛用している僕にはなじみのある構造で、わざわざ使用するまでもなく、その高い機能性は想像できる。風の向きを考えて設営すれば、温暖な時期の内部の湿気や熱が逃げやすいことだろう。
そんなこともあり今回テストしたかったのは、クナイ2Pそのものではなく、ウインターフライと組み合わせた場合の使い勝手だった。そこで、僕は付属のフライシートのチェックが終わると、早速ウインターフライにチェンジ。本日これからの時間は、こちらの状態で使用してみるのである。
冬季用冬張りの真価をチェック
設営時のテント場は弱風だったが、日が暮れるとともに次第に風は強まってきた。周囲の雪はあらかじめ大半が吹き飛ばされているとはいえ、それでも地吹雪のようにどこからか雪がテントに吹きつけている。ウインターフライの「吹き流し」部分が風をはらみ、外に内にばたついている。
「吹き流し」とは、巾着型になっているテントの出入り部分のことだ。一般的なファスナーを使ったタイプよりも開口部は狭く、わざわざドローコードで広げたり絞ったりしなければならないので、出入りが少々面倒ではある。だがファスナーは凍結すると開かなくなるが、吹き流しタイプならば、たとえ氷が固着しても少し力を入れるだけで広げられるというメリットがある。まさに低温の雪山仕様だ。
ウインターフライが地面と接する部分は長いスノーフラップになっている。ここにアンカーとして雪を乗せることにより、内部へ雪や風が吹き込むことを防ぐ仕組みだ。同時に内部をいくらかでも温かく保つ効果も期待できる。クナイ2Pのインナーテントは開閉部分がファスナーであり、この部分は内側になるのでフライシートに比べれば凍結の恐れが少ない。とはいえ、このままでは厳寒のなかで凍りつく可能性は残っている。だが、ウインターフライを組み合わせれば、凍結する可能性は低くなるという判断での製品設計なのだろう。最低限だけ広げれば体をテント内部に滑り込ませられる吹き流しには、強風下でも雪が吹き込みにくいという利点も持っている。
今回、就寝時の気温はマイナス13℃。深夜にどのくらいまで気温が下がったのかはわからないが、強風に吹かれながらもテントが大きくゆがむことはなく、安眠の一夜を過ごせた。朝になるとインナーテントのファスナー部分にも霜が降りていたが、案の定スムーズに開く。吹き流しも同様だ。ただでさえ厚めの生地を使っている吹き流しは低温のためにさらに硬くなっていたが、それでもあまり力をかけずに開閉できるのはよい点である。だが、凍結を起こすようなみぞれ交じりの雪が降っていたり、極度の低温だったりしたらどうだっただろうか。残念ながら今回の条件下ではそこまでは判断しきれないが、おそらく大きな問題はないと思える。
ところで、ウインターフライは、雪ではなく雨が降るほど温かな状況で使用することは想定しておらず、防水性は考えられていない。その代わり重視しているのが、透湿性と防風性だ。今回、翌朝にはインナーテント内は結露した水分が凍りついて霜になっていたが、一般の冬季用テントに比べれば、その量は少なかった。就寝中にもある程度の湿気が排出されていたからだろう。さらに時間を置いて撤収する際には、内部が完全に乾燥していた。吹き流しとスノーフラップによって内部が閉鎖状態にあったことを考えれば、この点はかなり優れている。
内部スペースは、2人が体を横たえるとちょうどの大きさだった。荷物を置くスペースはなく、実際に2人で眠るのは窮屈だろう。だが頭上が広く、サイドの壁も垂直気味に立ち上がっているために、とても広く感じる。ただカタログ的なスペックでは縦の長さが216センチとなっているのだが、ボリュームのある寝袋に入って体を横たえると、頭と足が壁についてしまい、結露による霜がついてしまう。なぜか縦幅のみ、わずかに小さく感じるのだ。
不思議に思って帰宅後にメジャーで測ると、実測は204cm……。これが実際に216cmあれば、寝袋への霜の付き方がだいぶ違ってくるはずだ。もう少しだけ長さがほしいとはいえ、この広さと重さ(通常のフライトシートとインナーテントで最小重量1.78kg。インナーテントとウインターフライの組み合わせにすると、さらに30g程度軽くなる)で、ハードな環境でも充分に使えそうなポテンシャルを持っている。冬季用テントの有力な候補に入れてもよさそうである。
次回は続編。このテントから出発し、僕は金峰山の山頂を目指した。
プロフィール
高橋庄太郎の山MONO語り
山岳・アウトドアライター、高橋庄太郎さんが、最新山道具を使ってレポートする連載。さまざまな角度からアウトドアグッズを確認し、その使用感と特徴を余すことなくレポート!
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