ルポ・石垣山ハイキング。小田原の海と里山を堪能【山と溪谷2023年12月号特集より】
温暖なこの地は冬晴れのハイキングにぴったり。旅情と地物を味わい歴史も感じるおすすめコースのご紹介。『山と溪谷』2023年12月号の特集「全国駅からハイキング100」より、鉄道駅から登れる海のそばの低山を歩いたルポを抜粋して紹介しよう。
文=丸山瑞貴(山と溪谷編集部)、写真=根本絵梨子
聞きなれない電車の発車メロディーをいくつか聞くと、「なんだか遠くまで来たな」と思う。小田原駅で「お猿のかごや」を聞いて熱海方面に一駅、石垣(いしがき)山のスタート地点の東海道線早川駅に到着。漁港に最も近いといわれる各駅停車駅でもある。
今回は石垣山に登る前に、小田原漁港に立ち寄った。理由は2つ。1つ目は、駅からハイキングの醍醐味は旅情も味わうことで、観光は元気なうちにしたほうが楽しめると思ったからだ。漁港では、フォークリフトで魚のたくさん入ったコンテナを運ぶ光景が迫力満点だった。2つ目の理由は、早川に来たからには漁港の地魚入りの海鮮丼をいただきたかったから。食堂のどのメニューも大変人気なので、混んだり売り切れになる前に早めに行った方がいいのだ。
腹ごしらえをしたら、元気に石垣山へ出発。漁港から駅のほうまで戻り、ガードをくぐって住宅地を歩く。途中、魚屋のおじさんに「石垣山へ行くの? 気をつけてね」と声をかけてもらった。また、石垣山への案内板が、ところどころに設置されていた。親切な町だなと思った。住宅地を抜けると、みかん畑が両側にある登り坂の車道。振り返ると、はやくも展望がよい。車道には歩行者向けに、石垣山にゆかりのある戦国武将や茶人を紹介する案内板が8つ立てられている。豊臣秀吉が小田原北条氏を包囲した際の本陣として、石垣の城を一晩で築いたという伝説が山名の由来だという。案内板を読みながら歩くと、案外早く石垣山一夜城歴史公園の入口に着いた。近くの直売所で地物のみかんを購入し、園内に入る。石垣山は、この公園の中にあるのだ。
すぐに豊臣秀吉が築いたという石垣を見ることができた。少し進むと、高くて太い木が多いことに気づく。歩道以外には多年草のシャガが豊かに生えている。木漏れ日と、風でそよぐ葉の音が気持ちよく、とてもリラックスできた。さらに進むと芝生が広がる二ノ丸跡。石垣山の山頂は、天守台跡だ。
公園内をどんどん進み、本丸跡へ。静かで、聞こえるのは周囲にいる数人の話し声と、あとは風の音だけだった。そして海の見えるベンチが数台。その中の一つに腰掛けて、景色を見ながら先ほど買ったみかんを食べた。日々の喧騒から離れる時間は大切だなと思う。みかんを3つ食べて下り始めた。
公園入口の前の車道に合流し、また舗装路を下っていく。左側の歩道を行くと、江戸城の石垣の石切り出場の見学ができる。人力で石を切り出して、港までソリにのせて、木造船で運んでいたらしい。最後に早川を渡れば、もうすぐ入生田駅。海の幸も満喫、石垣山の緑も堪能できる小田原の魅力あふれるコースだった。
(取材日=2023年9月28日)
Course Information
【行き】JR東海道本線早川駅 【帰り】箱根登山鉄道入生田駅
石垣山は、豊臣秀吉が小田原合戦の本営として築城した、総石垣の城跡。公園内に山頂がある。サッカーコート約4面分の広さと程よいアップダウンで、疲れすぎない。足元を見ればシャガの群生、見上げると背の高い大きな木が風に揺れて、木漏れ日を浴びながらの気持ちのよい散歩が楽しめる。二ノ丸は芝生の広場になっており、家族でのピクニックや犬の散歩、デートにもおすすめ。二ノ丸の先に、相模湾を一望できる展望スポットがある。
公園の入り口には広い駐車場もある。山エリア以外の舗装路は車の往来がやや多いので注意して歩こう。
歩行時間
2時間30分
2万5000分ノ1地形図
小田原南部・箱根
問合せ先
小田原市観光協会 0465-20-4192
(『山と溪谷』2023年12月号より転載)
プロフィール
山と溪谷編集部
『山と溪谷』2024年5月号の特集は「上高地」。多くの人々を迎える上高地は、登山者にとっては入下山の通り道。知っているようで知らない上高地を、「泊まる・食べる」「自然を知る・歩く」「歴史・文化を知る」3つのテーマから深掘りします。綴じ込み付録は「上高地散策マップ」。
雑誌『山と溪谷』特集より
1930年創刊の登山雑誌『山と溪谷』の最新号から、秀逸な特集記事を抜粋してお届けします。