
【自宅で簡単】登山用レインウェアの正しい洗濯・撥水回復方法
登山中の雨や風から身を守るレインウェア。機能性を損なうことなく快適に使い続けるために、自分でできる手入れ、洗濯の方法を紹介しよう。ゴアテックスほか、さまざまな防水透湿素も基本的な手入れは同じだ。
文=山と溪谷編集部 写真=田丸瑞穂 協力=モンベル
目次
ウェアから始める山道具のメンテナンス
本企画のコンセプトは 「本格的に使い始める前に、山道具をメンテナンスし、無雪期登山を快適&安全に楽しむ」ことだ。
高機能な山道具も繰り返し使用することで、機能性が低下することがある。高価な登山用品を快適に使い続けるために、そして初期性能を維持するためにはメンテナンスが欠かせない。
数ある山道具のなかで「レインウェア」「ダウン製品」をテーマに選んだ理由は、「使用頻度が高い道具であること」「手入れ方法が家庭での洗濯の延長線上にあり、比較的手軽であること」「手入れ方法がほかの山道具のメンテナンスにも生かしやすいこと」が挙げられる。 ウェアの機能が低下する主な原因は、土や皮脂などの汚れによる場合が多く、正しいメンテナンスによって、家庭でも機能性を回復できるのだ。
ここで紹介するメンテナンスは、さまざまなメーカーのレインウェアやダウン製品に利用しやすい最も基本的な方法だ。しかし、極端なことを言えばウェアの正しいメンテナンス方法は「洗濯表示」のタグがすべて。紹介している方法が手元のウェアに対応するかどうか、必ず事前に確認してほしい。
最後に、レインウェアやダウン製品の寿命は、使い方や保管状態次第のため一概には言えない。しかし、あまりにも古いウェアや、生地が劣化してボロボロになったウェアは、メンテナンスをしても機能性が回復しない場合もあるので、買い替えも検討してほしい。
「洗濯表示」でメンテナンス法がわかる
ウェアのメンテナンス方法は、「洗濯表示」としてタグに記載されている。しかし、このアイコンがわかりにくい。以前はもう少しわかりやすかったのだが、2016年に現在のアイコンに刷新された。その理由は、日本独自のアイコン表記をやめ、世界規格に統一するため。アイコンは5種類の基本記号と、付加記号の組み合わせから成り、全41種類もある。ただし、レインウェアやダウン製品の多くは漂白剤が使用できず、アイロン仕上げをすることもまれなので、「洗濯方法」と「乾燥方法」の2種類に注目するのがポイントだ。
基本記号
洗濯方法
水温はどの程度か、洗濯機を使用できるかどうかを示す
乾燥方法
乾燥機は使用できるか、自然乾燥の方法は何がよいかを示す
漂白方法
どんな漂白剤が使用できるか。ただし、ほぼすべての登山用品で漂白剤は使用できない
アイロン仕上げ
アイロン仕上げができるか、温度設定は何℃かなど。ダウン製品は基本的に不可
クリーニング
クリーニング店で使用可能な溶剤の種類。家庭での洗濯では基本的に関係ない
付加記号
これだけ知っていればほぼOK
洗濯表示早見表
シンプルだとしてもやはり面倒な洗濯表示。そこで、レインウェアやダウン製品によく見られる洗濯表示を編集部でまとめた。
洗濯方法
数字は水温を示すので40℃が限度。洗濯機で洗濯可。下に線がなければ「標準」、線が1本なら「弱モード」、2本なら「手洗いモード」が望ましい
水温は記載されていないが、40℃が限度。洗濯機は使用できず、手洗いができる
残念ながら家庭では洗濯できない。登山用品ではあまり見かけないが、注意すること
乾燥方法
乾燥機を使用できる。低温(60℃)まで
乾燥機を使用できない。自然乾燥を行なう
吊り干しがよい
日陰で吊り干しがよい
平干しがよい
日陰で平干しがよい
アイロン仕上げ
アイロンを使用できる。低温(110℃)まで
アイロンを使用できない
レインウェアのメンテナンスの実際
登山中の雨や風から身を守るレインウェア。防水透湿素材の機能性を損なうことなく快適に使い続けるためにはどうすればいいだろうか。
レインウェアに洗濯は欠かせない
レインウェアは登山靴やザックと並んで、登山の三種の神器とも言われる。雨による濡れや、森林限界を越えた稜線などでは風による冷えを防ぐなど、登山中に使用頻度の高い重要なアイテムだ。
一方で、高機能素材を使っているがゆえに「自宅で洗っていいのか」「どれくらいの頻度で洗濯すればよいのか」と悩む人も多い。 ずばり、レインウェアは自宅の洗濯機で洗える。そして、小まめに洗濯するのが理想的だ。機能を低下させる原因は、使用後に放置すること。汚れたと思ったら、その都度メンテナンスを行なおう。レインウェアの機能の低下は、皮脂や土汚れがウェアの表生地や裏地に付着することで生じる。皮脂の汚れが付着すると透湿性が低下し、ウェア内部の蒸れを処理できなくなる。また、土汚れに加えて、ウェアが擦れると撥水機能が低下し、表生地が水を含むようになる(裏地に浸透するわけではない)。透湿性と撥水機能が低下することで、蒸れたり、雨の冷たさが伝わったりと不快に感じるようになる。
だからこそ、初期性能を維持し、快適に使い続けるために、 定期的な「洗濯」と「乾燥(熱処理)」を行ない、透湿性と撥水機能をケアしよう。
ゴアテックス以外の防水透湿素材も手入れ方法は同じ?
近年は独自開発した防水透湿素材を使用するメーカーも多い。しかし、撥水性や透湿性などの機能が低下する主な要因は、いずれも皮脂や土汚れであるため、同様の方法で対処できる。
防水透湿素材は外側から水を通さず、防水性が低下することはない。しかし、雨水を弾く撥水機能はコーティングなので劣化する。勘違いしやすいが、「防水=水を弾く」ではない。
メンテナンスの対象=防水透湿や撥水機能を備えたアイテム
- レインジャケット、パンツ
- レインハット、キャップ
- レイングローブ
- トレッキングパンツ
- ソフトシェル
- ウインドシェル など
防水透湿素材を使ったレインウェアや小物のほか、防水透湿素材ではないものの撥水機能を備えたトレッキングパンツなどは同様の方法でメンテナンスできる。多くの登山ウェアに生かせる最も基本的なメンテナンス方法だ。
使用する道具
- 洗濯ネット:ウェアを1~2着ほど入れられるサイズのもの
- 歯ブラシ:使い古しの歯ブラシなど、部分洗いに適したもの
- 中性洗剤:一般家庭で使われるものは弱アルカリ性が多く、専用洗剤が安心
- たらい:撥水機能が低下しているときは撥水剤とともに使用する
- 撥水剤:スプレータイプなど、より簡易的に撥水機能を回復できるものもあるが、今回はムラなく加工できるつけ込みタイプを使う
【STEP1:準備】汚れやすい箇所を見落とさない
メンテナンスの目的は皮脂や土汚れを落とし、機能性を回復すること。そのため、汚れている箇所を確認することが大切だ。次の5カ所は特に汚れやすい。また、レインウェアのポケットにティッシュペーパーやヘッドランプを入れたまま洗濯するといったトラブルも起こりがち。悲劇を起こさないために必ず確認すること。
【STEP2:洗濯】洗濯機で皮脂汚れを素早く手軽に落とす
①汚れのひどい箇所は部分洗いを
洗濯機は手軽に洗える半面、ひどい汚れは落としきれないことがある。準備で確認した箇所で汚れのひどい部分は、ぬるま湯、または中性洗剤を直接塗布して、歯ブラシなどでこすると効果的だ。
②ネットに入れて洗濯機へ
劣化や破損の原因となるダメージを与えないよう、ジッパーや面ファスナーは閉めた状態で洗濯ネットに入れること。すすぎまでの工程は、ほかの登山ウェアなどと一緒に洗濯してよい。
③洗濯量に合わせて中性洗剤を入れる
専用洗剤、あるいは柔軟剤や漂白剤、蛍光剤を含んでいない中性洗剤を投入する。洗剤の入れすぎは逆効果になるので、ラベルに記された適量を守ること。
④洗いとすすぎまで。脱水はNG!
生地に洗剤が残らないよう、すすぎ時間は通常の2倍ほどにするのがポイント。また、防水透湿素材を使ったウェアを洗濯機で脱水すると、ウェアが傷んだり、洗濯機が故障する原因にもなる。
【STEP3:乾燥】レインウェアのメンテで最も重要なポイント
洗濯後は乾燥機でいっきに乾かそう。すすぎが終わったレインウェアを乾燥機に入れ、60℃以下を目安に熱処理する。ただし、レインウェアによって適した温度は異なるため、洗濯表示タグを必ず確認すること。 乾燥機を使う理由は、レインウェアに熱を加えることで、撥水機能を回復できるため。逆にいえば、洗濯方法が正しくても熱処理をしないと撥水機能は回復しない。
乾燥機がない場合
紫外線によって生地を傷めないように陰干しする。屋外の場合は直射日光の当たらない場所で行なう。ウェアが乾いた後は アイロンで熱処理(低温)をすると、撥水機能を回復させることができる。
【STEP4:撥水の回復】撥水機能が低下したときのみ!
洗濯と熱処理だけで撥水機能が回復しなくなってきたら「撥水剤」を使おう。ただし、ここで紹介する つけ込むタイプの撥水剤は熱処理が必要だ。また、 撥水機能が低下していないウェアに撥水剤を使うのも逆効果になるので注意。
【STEP5:正しい保管方法】快適さをキープできるかは、保管状態で決まる!
レインウェアやダウン製品を長く快適に使い続けるには、適切なメンテナンス方法に加えて、正しい保管方法も大切だ。特に山に行く頻度が少ない人や、しばらく使わないなどで長期保管となる場合は、次のことに気をつけよう。
①ハンガーにかけて保管する
洗濯後や使用後にスタッフバッグに入れたまま保管すると、残った水分が生地にダメージを与える可能性がある。ハンガーにかけて保管しよう。
②直射日光は避ける
紫外線は生地にダメージを与える原因となるので、自宅で保管する場合も直射日光は避ける。
③薬剤を生地に触れさせない
クローゼットや衣装ケースに保管する場合、乾燥剤や防虫剤、消臭剤などの薬品が生地に直接触れないように。使用する場合は薬品の説明書を確認。
④高温多湿を避ける
車内に置きっぱなしにするなど、高温多湿になりやすい場所に保管しないこと。風通しがよく、温度変化の少ない場所が理想的だ。
⑤常に清潔に保つ
使用後に汚れたまま保管するのが最もダメージを与え、ウェアの劣化につながる。長く愛用するためにも放置せず、定期的なメンテを心がけること。
(『山と溪谷』2021年3月号より転載)
目次
プロフィール
山と溪谷編集部
『山と溪谷』2026年1月号の特集は「美しき日本百名山」。百名山が最も輝く季節の写真とともに、名山たる所以を一挙紹介する。別冊付録は「日本百名山地図帳2026」と「山の便利帳2026」。
関連記事
こちらの連載もおすすめ
編集部おすすめ記事

- 道具・装備
- はじめての登山装備
【初心者向け】チェーンスパイクの基礎知識。軽アイゼンとの違いは? 雪山にはどこまで使える?

- 道具・装備
「ただのインナーとは違う」圧倒的な温かさと品質! 冬の低山・雪山で大活躍の最強ベースレイヤー13選

- コースガイド
- 下山メシのよろこび
丹沢・シダンゴ山でのんびり低山歩き。昭和レトロな食堂で「ザクッ、じゅわー」な定食を味わう

- コースガイド
- 読者レポート
初冬の高尾山を独り占め。のんびり低山ハイクを楽しむ

- その他
山仲間にグルメを贈ろう! 2025年のおすすめプレゼント&ギフト5選

- その他




