「思い込みって恐ろしい・・・」登山者の遭難・ヒヤリハット体験 道迷い編

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山と溪谷オンラインで実施したアンケートで集めた、遭難・ヒヤリハット体験の中から、道迷いに関する体験談を紹介。

構成=山と溪谷オンライン、イラスト=KITO

「道迷い」は2022年の遭難者数の1位です(関連記事:2022年の山岳遭難、件数・遭難者数とも過去最多に)。今回のアンケートで「経験したことがある」という回答が一番多かったものも道迷いでした。有効回答数284の中で135件、47%の方が道迷い経験者です。アンケート結果基本データは記事最後に。

紹介する道迷い体験談から、道を間違えた場面や、心理的な状況を知って、ぜひリスク対策の参考にしてください。

落ち葉で見落として・・・

■奥多摩の三頭山、ソロで麦山の浮き橋を渡りヌカザス尾根から山頂をめざしました。季節は晩秋11月、天候は曇り。山頂近くで登山道が北側にトラバース気味に曲がっていくのに落ち葉で気付かず、山頂へ向かって一直線に進んでいました。足元が妙に踏みならされていないフカフカな感触になり、道をロストしたことに気付きました。地図アプリとGPSで山頂が目前であることと、安全に歩くことができる地面でしたのでそのまま直進し、木々の間から無事に山頂に抜けました。道迷いの少し前に足がつって、20分ほど休憩していたので先を焦っていたのだと思います。また分岐や道があやしい時は、地図アプリを確認するのですが、その時は疑いもなく直進してしまっていました。(ブルーロード さん/男性/40代)
【その後の対策】分岐などなくても、一定時間(15分程度)ごとに立ち止まって、地図アプリで現在位置を確認しています。また足元の感触や、人工物(登山道沿いなら多少なりともある)にも気を配って違和感があったら、即立ち止まるようにしています。先に書いた道失いの後も、何度か道を間違えたことはありますが、5分程度で登山道に復帰しています。

ピンクテープを過信して

■初心者のころの話。ピンクテープを過信して、それなりに踏み跡も付いていたため確信が持てないものの進んでしまい、現在地がわからなくなった。かなり急な斜面を降りることになったが、なんとか民家のあるところにたどり着いた。民家の人に駅までの道を尋ねて無事に帰ることができた。(tak さん/男性/50代)
【その後の対策】現在地をまめに確認するようにしている。今では必ずナビも利用するようにしている。

変だなぁと思いつつ・・・

■登山を始めて間もないころ、神奈川県の丹沢山に行きました。大倉から塔ノ岳経由のピストンでした。きつい尾根歩きに時間がかかってしまい予定の時間を大幅にオーバー。余裕がなく、慌てていたせいでしょう、塔ノ岳からの下りで大倉ではなくヤビツ方面に向かうという、ありえないようなミスを犯しました。登りでこんなところあったかな?こんな景色見たかな?と思わないではなかったですが、登りと下りでは景色が違って見えるものだなぁ、などと考えて・・・。30分ほど経ったところでさすがにおかしい!とようやく思い、慌てて引き返しました。まだまだ日の短い、薄曇りの日でした。あのまま歩いていたらどうなっていたのだろう、と今思い返してもゾッとします。人間って必死なときほど自分に都合よく考えるもんなんだなぁ、思い込みって恐ろしい・・・と、つくづく思いました。(たまる さん/女性/50代)
【その後の対策】地図とアプリを使ってこまめに位置や進路の確認を行なう。特に分岐点やピークからの下り。

GPS地図アプリで現在地も見ていたのに・・・

■奈良県弥山、八経ヶ岳、天川川合ルート、単独行、小雨。小屋泊2日目下山時に発生。いつも通りYAMAPのGPS機能を活用しながらルートをたどっていたが栃尾辻をしばらく過ぎた辺りでルートを見失う。ただ、GPS上のルートからは特段外れておらず誤差の範囲とそのままルートを外さないように探り探り進んでいた。しかし、足の幅もないような状態になり、そこでどうにも道がまったくないことに気づく。後ろを振り返ってもどこをどう歩いてきたか検討がつかない。GPSでは登山道にいる。だが、目の前のどこにも道はおろか踏み跡らしきものも見つからず、どう考えても山腹の急斜面に立っている。後ろにも道は見つからない。どうやって登山道に復帰するか焦るが、とにかく斜面を上がり、見晴らしの良いところまで出ようと、林の隙間に見える空をめざして斜面から山上へ向かう。そこでルートと方向の確認、目印のテープ探しを行なう。辺りを見渡してようやくテープを発見、進行方向と照らし合わせ、その方向へ進む。しばらくすると登山道に合流した。今振り返って考えてもどこでどう迷ったのか、なぜ間違えたのか、どうして道を見失ったのかわからない。(たつ さん/男性/40代)
【その後の対策】以降、読図を学び、整置、ナビゲーション機能も常時駆使できるように日々訓練している。アプリだけではなく地形図と照らし合わせるようにクセづけている。それでももしわからなくなった時は、すぐに戻る、来た道をたどって撤退する、を徹底している。

地図アプリでルート復帰

■赤城山を単独で歩いていた時、ササが生い茂っていて道が不明瞭で迷ってしまった。登山アプリが登山道から外れていることを知らせてくれて気付いたので、ルート復帰できた。(ゆるりん さん/女性/50代)
【その後の対策】早朝出発! 道標も当てにならないことがあるので、分岐などで道を外れていないか地図で確認。迷ったら尾根をめざして落ち着いて行動する。

会話で注意不足に

■秋田駒ヶ岳で同行者と2人で登山中に、下山で沢筋に入りそうになった。しゃべりながら特に周りに注意するでもなく歩いていたので、GPSを見て初めてルートから外れていたことがわかったので、急いで引き返しました。(ガッツ さん/男性/40代)
【その後の対策】こまめに周囲を観察しながら歩くようにしています。紙地図などで事前に歩くルートを予習しています。

ホワイトアウトで同じ場所をぐるぐる・・・

■10月にソロで新穂高温泉入山の弓折岳~野口五郎岳縦走を、2泊3日テント泊で計画。出発前の天気予報から降雪を予想するも、積雪まではいかないと判断し、アイゼン、ピッケル、ワカン、ハードシェルは持参せず。寒さ対策のため、冬シュラフ、バラクラバ、オーバーグローブ、毛手袋は持参。ところが、登山初日に降り始めた雪が膝下まで積もり、足を取られることでペースダウン。途中でホワイトアウトとハイマツのやぶこぎによって、一度リングワンデリンクをしてしまう。自分以外誰も入山した痕跡がないのに足跡を発見したことからリングワンデリングに気が付く。その後、コンパスと地形図を頼りに正しい方向へ進み始めるも、タイムロスもあり、日の入りまでにテン泊予定地であった双六小屋までたどり着けず、手前の地点でテントを張ってビバークした。(GAKU さん/男性/30代)
【その後の対策】登山3日前には天候チェックを行ない、撤退する基準を定める(時間、地点など)。必要になるかもしれない装備は、とりあえず車のトランクに積んでおく。紙の地図だけでなく、GPSのアプリを活用する。GPSウォッチへ事前に作成したルートをインストールする。夜間に行動しても(たとえライトがあっても)たいして進まないので、必ず日の入り2時間前にはビバークを検討する方針とする。

残雪の道で間違ったトレースを追ってしまい・・・

■焼岳(中の湯登山口から)、単独、好天の山行。残雪で登山道が見えづらく、踏み跡をたどっていたが、間違った踏み跡だったことに途中で気付く。引き返さなければいけないところを無理矢理ヤブをかき分けて進んだ。GPSは迷ってから立ち上げたので、感度が悪く正確な位置をつかめなかったが、方角はわかったので、そちらに進んで登山道に戻れた。(べ さん/女性/40代)
【その後の対策】登山口でGPSを立ち上げること、間違えていると思ったらすぐに来た道を戻ること。

1週間前にも同じ場所で・・・

■残雪の大菩薩嶺を丸川峠経由で単独で挑戦した時のことでした。登りは順調に進み、丸川峠を越えて山頂まであとわずかという場所で、思わぬ残雪量のため途中で下山を決意しました。天候は曇りで時々薄日の差す日でした。ピストン下山だったので安心して飛ばすように下山していたのですが、途中でおかしいなとは思いつつトレースもあるのでそのまま下山を続けました。かなり下ってしまった場所で、見慣れない、トレースもない場所に出てしまい道間違いに気が付きました。元々、登山者が多くないコースでしたので誰にも会いません。かなり下ってしまいましたが、登り返してなんとか元の登山道に復帰しました。丸川荘でそのことを話したら、あの場所で1週間前に同様の道間違いがあり、その時はそのまま進んでしまい死亡事故が発生したとのことでした。雪道での下山路は要注意・・・を思い知らされた山行となりました。(オールドマウンテンボーイ さん/男性/70歳以上)
【その後の対策】地図は常に持参していましたが、トレースを信用して確認もせず間違った場所に踏み込んでしまった失敗から、以降の山行には必ずコンパスとホイッスルを携帯しています。また、雪山でピストン登山する時は樹林帯での道迷い防止のため登りの時にリボンの目印を付けて、下山時はそれを回収しながら下山することにしています。

引き返さず進むも、運よく下山

■4年前の7月、妻と2人で北海道の狩場山に登った時のことです。行きは順調でしたが下山時の雪渓を下っている時にコースを誤り、左折しなければならないところを直進し、そのまま南駒内(真駒内)コースに下りてしまいました。途中、クマのフンが道の両側に散乱していて道を間違えたことに気が付きました。妻が疲れていて、もう一度登り返すのは嫌だ、と言い張り、やむをえずそのまま下山を続け、「熊戻しキャンプ場」というところに下りました。幸い、避難小屋があり、夜はそれほど寒さに悩まされず過ごせました。翌日は無事に登山口に戻れました。クマに遭わなかったこと、避難小屋があったこと、水は天水でしたがなんとか飲めたこと、など幸運が重なり、無事帰還できました。今でも、なぜ引き返さなかったのか、あの時の心理がわかりません。道迷いはわかるところまで戻る、というのが鉄則ということはよく承知しているのですが、「引き返す」という言葉の響きが魔物ですね。(イノサン さん/男性/70歳以上)
【その後の対策】登山地図のアプリを利用し、登山前、登山中、必ず何度もルートを確かめることにしています。

ガスで視界不良になり、稜線で道迷い

■槍ヶ岳から南岳へ単独で縦走中、雨と濃い霧(ガス)にまかれたが、稜線の縦走路のため道迷いはない、と思いながら歩いた。中岳を過ぎたあたりでいったん立ち止まり周囲を見渡した。ガスでなにも見えないな、と思い歩き始めたが、このとき反対方向(歩いてきた道)に進んでしまった。周囲がガスに包まれているので気が付かなかった。途中で道標を見て「変な方向(逆)を指しているな」と思ったが、すぐに間違っているのは自分だと気が付いた。正規のルートに戻ったが、どこで間違えたのだろうと場所を探していたら同じ過ちを起こし、再度反対方向に歩いてしまった。今度も同じ道標の場所で気が付いた。山頂のような広い所では注意しても稜線では迷うことはない、と思っていたのが要因と思われる。立ち止まって周囲を見渡した後、進む方向に体が向いていることを確認しなかった。(にゃ~ さん/男性/60代)
【その後の対策】ガスガスの場合は周囲の状況から自分の位置を知ることができないため、稜線の縦走路でも定期的にルート上を歩いていることを確認している。なお、スマホ地図アプリ(YAMAP)のほかにガーミン製GPSロガーを併用している。

一晩ビバークを決行

■無所属で山歩きを始めて1年くらいの3月、単独で滋賀県比良山系釈迦岳、JR北小松からピストンの計画、ヤケ山とヤケオ山の間で道がわからなくなった。同じところを何度も歩いていて道迷いと自覚。明るいうちに帰れないと判断して強風の中ツエルトで一晩過ごした。家に電話したので家人が警察に通報し遭難扱いとなった。警察とは電話のやり取りのみで、翌日、自力下山。(比良熊 さん/女性/50代)
【その後の対策】GPSの利用。個人ガイドの利用。

まとめ

以上、道迷いの体験談でした。

早く引き返すべきと思いつつも、疲労や、思い込みなど、道を引き返すことへの心理的なハードルの高さがうかがえました。

また、「GPS地図アプリで現在地を確認して復帰できた」というコメントは紹介した体験談以外にも多く、地図アプリの有用性を再認識できました。ただし、地図アプリの現在地を過信して道迷い、という体験もありましたので、地図と見えている景色の両方を見て現在地を把握しながら進む、ということが大切です。

便利で安心な地図アプリですが、沢沿いなどではGPSの精度が低下するほか、等高線を読むなどの基礎的な読図の知識はもちろん必要です。

今の時期は、道の複雑な低山歩きの機会が増え、落ち葉、積雪、日暮れの早さ・・・などなど、道に迷いやすい条件が増えますので、さらに気を引き締めていきましょう。

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アンケート結果基本データ

実施期間:2023年10月30日(月)~11月12日(日)
有効回答数:284

年代

登山頻度

登山歴

登山での遭難・ヒヤリハット体験はありますか?

体験した内容(複数回答可)

登山者アンケート

山と溪谷オンラインで実施した登山者へのさまざまなテーマのアンケートの結果をご紹介。

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