熊野古道中辺路・赤木越を歩き、小栗判官と照手姫の舞台、湯の峰温泉へ

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熊野古道・中辺路(なかへち)のうち、熊野御幸(ごこう)の公式参詣道であった滝尻王子から熊野本宮大社に向かう道には、途中から分岐するルートがある。発心門王子(ほっしんもん)手前にある船玉(ふなたま)神社付近から分かれ、湯の峰温泉に向かう赤木越(あかぎごえ)である。赤木越は、2016年に世界遺産に追加登録された。今回は発心門王子から出発して、赤木越を歩き、湯の峰温泉から大日越を経て熊野本宮大社に向かうコースを紹介しよう。

写真・文=児嶋弘幸、カバー写真=湯の峰温泉にある東光寺

今回めざす湯の峰温泉は、日本最古の温泉ともいわれている。湯の花の化石で造られた薬師像の胸から温泉が湧いたことから始まり、「ゆのむね薬師」がなまって「湯の峰」の名になったともいう。また、小栗判官と照手(てるて)姫の伝承地としても知られている。

その伝承というのはこうだ。中世の時代、常陸国(現茨城県)にいたという小栗判官は、義父に毒殺されてしまったものの、閻魔大王のはからいで餓鬼の姿で現世に戻されていた。そうした中、照手姫は、土車に乗せられた餓鬼の姿の夫、小栗判官と再会する。しかし照手姫は餓鬼が小栗判官と気づくことなく、餓鬼を乗せた土車を引いて湯の峰温泉へと向かう。やがて小栗判官は湯の峰温泉にたどり着き、つぼ湯で49日間の湯治を行ない、元の姿に戻る、という話である。

こうした伝承は不治の病に苦しむ人々の救済のために広められたといわれており、その後、歌舞伎や浄瑠璃にも取り上げられ、広く世に知られるようになった。また、この伝承との関わりからか、今回紹介する赤木越は、別名「小栗街道」とも呼ばれている。

〉発心門王子からスタート
発心門王子からスタート

発心門王子バス停で下車し、発心門王子の門をくぐり、たっくん坂を下る。音無(おとなし)川畔の猪ノ鼻(いのはな)王子を経由して、川沿いの道を緩やかに登ると、船玉神社に着く。すぐの所が赤木越の分岐だ。

〉船玉神社
船玉神社

赤木越は、かつては船玉神社の西方にある三越峠から分岐していたが、現在は崩壊地を避けて、この船玉神社近くから赤木越へ分岐するようになっている。直進すれば中辺路の近露(ちかつゆ)や滝尻方面だが、ここでは左の音無川を渡り、つづら折れの急坂を登っていく。これが結構つらい。一気に登って、けんじょう茶屋跡へ。ここからは、緩やかな起伏の尾根道を湯の峰温泉へ向かう。しばらくして、時宗の開祖、一遍上人ゆかりのなべわり地蔵尊に迎えられる。一遍上人の弟子が昼飯を炊いていた際、鍋の水がなくなり、鍋が割れたことがその名の由来とされる。

〉なべわり地蔵
なべわり地蔵
なおも尾根道を進み、柿原茶屋跡へ。「ユノミ子、か平」と彫られたユニークな道標石と出合ったのち、地獄坂を下る。地獄坂は湯煙に中に落ち込んでいく様を地獄に見立てた呼び名とされる。やがて硫黄の匂いとともに、湯の峰温泉の中ほどに降り立つ。

〉ハンドサインのあるユニークな道標石
ハンドサインのあるユニークな道標石
〉地獄坂の石畳道
地獄坂の石畳道

湯の峰温泉には、薬師如来を本尊とする東光寺が建ち、隣に世界遺産登録のつぼ湯がある。ここからバスに乗車して帰路に就くこともできるが、今回はさらに東光寺の裏手から大日峠を越えて熊野本宮大社へと向かう。

〉世界遺産に登録されているつぼ湯は、東光寺の下にある
世界遺産に登録されているつぼ湯は、東光寺の下にある

大日峠には、左甚五郎(ひだりじんごろう)ゆかりの鼻欠(はなかけ)地蔵と呼ばれる磨崖仏がある。峠をあとに月見ヶ丘神社に下る。しばらくして、眼下に大斎原(おおゆのはら)を望み、さらに下って大日越登り口に降り立ち、大斎原に向かう。

〉鼻欠地蔵
鼻欠地蔵
〉月見ヶ丘神社
月見ヶ丘神社

大斎原は、熊野川・音無川・岩田川の合流点の中州にあたる場所で、かつて熊野本宮大社のあった所だ。参詣者は音無川で最後の水垢離(みずごり)を行なって身を清めたのち、神域を訪れたという。大斎原の大鳥居を通り抜け、本宮大社前バス停へ。バス停前の参道の石段を登って、熊野本宮大社に参拝したのち、本宮大社前バス停に戻る。

MAP&DATA

赤木越地図

コースタイム:発心門王子~船玉神社~湯の峰温泉~大斎原~熊野本宮大社~本宮大社前バス停 :約4時間30分

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  • プロフィール

    児嶋弘幸(こじま・ひろゆき)

    1953年和歌山県生まれ。20歳を過ぎた頃、山野の自然に魅了され、仲間と共にハイキングクラブを創立。春・夏・秋・冬のアルプスを経験後、ふるさとの山に傾注する。紀伊半島の山をライフワークとして、熊野古道・自然風景の写真撮影を行っている。 分県登山ガイド『和歌山県の山』『関西百名山地図帳』(山と溪谷社)、『山歩き安全マップ』(JTBパブリッシング)、山と高原地図『高野山・熊野古道』(昭文社)など多数あるほか、雑誌『山と溪谷』への寄稿も多い。2016年、大阪富士フォトサロンにて『悠久の熊野』写真展を開催。

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