熊野古道最大の難所、大雲取・小雲取越を歩く【後編】
前編では、那智から小口までの大雲取越(おおくもとりごえ)を紹介したが、今回紹介するのはその先に続く小雲取越(こぐもとりごえ)。雄大な熊野の山並みを眺めながら、いよいよ熊野本宮大社をめざす。
写真・文=児嶋弘幸
小口(こぐち)から赤木川沿いの車道を東へ1kmあまり歩き、小雲取越の舟の渡し場跡、小和瀬(こわせ)の小和瀬橋を渡って、小雲取越をスタートする。
すぐ右手の石段を下った河原が渡し場跡、ここでは左へ、石垣に沿った石段を登る。しばらくして尾切(おぎり)地蔵に迎えられる。これより小雲取越最大の難所とされ、長い尾根沿いに続く堂ノ坂と呼ばれる石畳道を登っていく。
やがて傾斜が緩み、山腹道に入って桜茶屋跡へ。目の前には大雲取越の山稜、足もとには赤木川が望める。かつて、ここから大雲取越・楠の久保あたりに白装束の集団を見かけると、主人が大急ぎで餅をつき、お茶を沸かして参詣者を迎え入れる準備をしたという。また江戸後期の地誌『紀伊国名所図会』には、「桜の古木二三株ありて、花の頃は頗(すこぶ)る美観を呈す」とある。多くの参詣者でにぎわっていたであろう桜茶屋。休憩舎に腰をおろし、桜舞う当時の風景を思い浮かべてみるのも楽しい。
桜茶屋跡からは、ひと登りで桜峠へ。その後、なだらかな道が続き、うっそうとしたスギ・ヒノキ林に囲まれた石堂茶屋跡に着く。その名は山中から砥石が採れたことからついたという。続いて、行き倒れた人々の霊を供養するために祭られたといわれている賽の河原地蔵尊と出合う。地蔵尊の周りには慰霊のためだろうか、小石がうず高く積み上げられている。
緩やかなアップダウンが続いたのち、樹林の隙間から如法山(にょほうざん)が見え隠れするようになる。林道を横断して山腹を絡めば、小雲取越随一の展望スポット、百間(ひゃっけん)ぐらに着く。百間ぐらの「ぐら」は「高い崖」を意味し、左から大塔山系の主峰、大塔山(おおとうざん)、均整のとれた野竹法師、ゴンニャク山、そしてその向こうに果無(はてなし)山脈が重畳に波打っている。ゆったりと腰をおろし、身も心もリフレッシュし、小雲取越の後半につなげよう。
百間ぐらから如法山山腹を絡み終えると、万才(ばんぜ)道分岐に着く。右下の道は、万才峠を経て志古(しこ)に下る伊勢路。ここは直進して、幅の広い疎林帯のなだらかな道を進んでいく。緩やかに高度を下げ、民家の庭先を通り抜けると、下地橋バス停に降り立つ。バス停から北へ100mあまりの場所に請川(うけがわ)バス停があり、こちらの方がバスの便数が多い。
さらに熊野川沿いの国道を1時間弱ほど歩けば、右手の中州に熊野本宮大社の旧社地・大斎原の森が見えてくる。明治22年の大水害で移築された現在の熊野本宮大社へは、もうあとひと息。左手のうっそうとした杉林の参道を登り、荘厳な雰囲気が漂う熊野本宮大社に迎えられる。
MAP&DATA
コースタイム:小口~桜茶屋跡~百閒ぐら~請川~熊野本宮大社:約5時間30分
この記事に登場する山
プロフィール
児嶋弘幸(こじま・ひろゆき)
1953年和歌山県生まれ。20歳を過ぎた頃、山野の自然に魅了され、仲間と共にハイキングクラブを創立。春・夏・秋・冬のアルプスを経験後、ふるさとの山に傾注する。紀伊半島の山をライフワークとして、熊野古道・自然風景の写真撮影を行っている。 分県登山ガイド『和歌山県の山』『関西百名山地図帳』(山と溪谷社)、『山歩き安全マップ』(JTBパブリッシング)、山と高原地図『高野山・熊野古道』(昭文社)など多数あるほか、雑誌『山と溪谷』への寄稿も多い。2016年、大阪富士フォトサロンにて『悠久の熊野』写真展を開催。
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