荒れ模様の木曽駒で、大型防水ザックを使ってみた マウンテンハードウェア/オゾニック70アウトドライ

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今月のPICK UP マウンテンハードウェア/オゾニック70アウトドライ [マウンテンハードウェア]

価格:3万5,500円+税
サイズ:S/M、M/L
重量:1.85kg(S/M)
容量:68L(S/M)

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水の侵入を完全シャットアウト! 厳冬期にも本領を発揮するザック

前回に引き続き、初冬の中央アルプス木曽駒ケ岳から。
このときにテント泊装備を入れて背負っていたのは、マウンテンハードウェアの「オゾニック70アウトドライ」。前シーズンにあった「65L」を改良した新作である。

最大の特徴は「水に強い」ことだ。メイン素材には防水透湿性が非常に高い「アウトドライ」が使用されており、過度に傷まない限りは水の侵入を一切許さないのである。

上は、アウトドライのメンブレンを挟み込んでラミネートし、生地を補強・保護している表地(左)と裏地(右)。表地には濃淡のあるグレーの繊維の織りによってウェアのような風合いが生まれ、ザックには珍しい雰囲気だ。裏地には光沢感があり、少しザラッとした質感である。

アウトドライの特徴は、たんに防水性であるだけではなく、内部どころか表面にすら水を浸透させないこと。そのために水分を吸い込んで生地が重くなることはない。
この特徴は、厳冬期ではとくに有用だ。生地が水を含んでしまう素材であれば、厳冬期はザックがガチガチに凍りついて使いにくくなるが、アウトドライにはそんな問題がなく、ソフトな質感のまま使うことができるのである。

アウトドライの防水性を生かすべく、ザック本体の構造も水を浸入させないような作りになっている。

雨蓋を外すと現れるのは、いわゆるロールトップ式の開口部だ。要するにザック本体の上部がたんなる袋状になっているのだが、この左右にバックルが付属し、クルクルと丸めて留めることにより外部と内部を遮断。さらにその上からストラップを留めることで、丸めた部分の緩みも抑えられる。
その効果はてきめんで、荷物を入れずに「空気」のみの状態で留めて上にドンッと座ってみても、まるで大きなクッションのように形状を保ち、なかなか空気が漏れてこない。これならば雨や雪が入ってくることはないはずだ。沢登りのときに長時間「浮き」代わり使ったとしても、内部は守られるだろう。

こんなザックに荷物を収めると、雪山装備でずっしりとした重さになった。

内部にはアイゼンや大きめのテント、アンカーなどが入り、外部にはショベルやワカン、念のために持っていったピッケル。そして、前回にリポートした冬季用の分厚い寝袋も。夏よりも金属製品が多く、総重量は20kg近くになっている。背負い心地を確かめるには十分な重さであろう。

行動を開始する前に、フィッティングの調整をおこなった。各部のストラップを引くことで体に合わせていくという基本的な作業は他のザックと同様だ。

だが、背面長の調節方法には特徴がある。このザックはショルダーハーネスがベルクロを取り付けられたパネルと連動し、長さを調整する工夫が採用されているのだ。背面パッドを外側に引けば簡単にベルクロは剥がすことができるが、ひとたび貼り付ければ上下に位置がずれることはなく、適正なフィッテングは保たれる。直感的なサイズ調整が可能なのは、大きな利点である。

この荷物を満載したザックとともに、僕は千畳敷からひとり歩き始めた。

テント場へのルートはもちろん前回のリポートと同様である。乗越浄土までの急な登り、そして中岳までの平坦な道。それほど長い距離ではないが、荷物の重さは気にならない。

いくつかのパッドで加重を分散する背面パッドがよく効いているようだ。とくに肉厚のショルダーハーネスは、肩によくなじんでいる。大型ザックに使われているショルダーハーネスとしては珍しいほどの柔らかさがあり、肩へかかる加重が程よく分散されているという印象である。

この点では、重い荷物を背負うことを想定し、クッション性などを重視したアメリカ的なバックパッキング系ザックという印象が強い。

一方、ヒップハーネスは細身にできており、若干華奢な印象である。近年の他社の大型ザックには、大半の荷重をヒップハーネスに託そうという発想で、かなり大きなヒップハーネスを付属し、しかも複雑な構造に仕立てたモデルが増えている。だがオゾニック70アウトドライのヒップハーネスには外部にポケットこそつけられているが、基本的には一枚のパッドだけでできており、非常にシンプルだ。ある意味、ヨーロッパ的なアルパイン系ザックのイメージなのである。このようなショルダーとヒップの2つのハーネスの違いがおもしろい。

一般的な大型ザックに採用されている幅広のヒップハーネスならば、多少位置がずれていても腰に加重が乗ってくるが、このザックはしっかりと腰骨の位置にハーネスの中央を合わせないと腰まわりが痛くなる恐れもある。もちろん僕は正しい位置に配するフィッティングを心がけたため、違和感を覚えずに行動することができた。

雨蓋(リッド)にひと工夫あり!

順調に歩き続け、木曽駒ケ岳山頂直下のテント場に到着。

一休みしてから、改めてザックの他の部分も再チェックしていく。

このザックの特徴のひとつは、フロントの大型ポケットだ。立体的なデザインになっており、容量はこれだけで7~8Lあるのではないだろうか。無雪期ならばレインウェア、寒い積雪期であれば、サブのグローブなどを入れておくのに重宝する。

そのフロントポケットとザック本体とのあいだにも荷物は挟み込め、今回はアイゼンのケースを入れておいた。この部分はバックルで留められ、挟み込んだものを紛失する危険が減少する。
ちなみに、このフロントポケットはザック本体と表面生地は同様だが、アウトドライが使われているわけではなく、ファスナーも通常のものなので、防水性は期待できない。むしろ内部に水が入り込むことを想定し、ポケットの最下部には小穴が設けられている。防水性を高めてあるのは、あくまでもザック本体なのである。だが、この特徴を利用して、濡れているものをここにまとめて収納するのもよさそうだ。

次はザック本体のサイドポケット。この部分には伸縮性が高い素材が使われ、深さもたっぷりあって、かなり大きめのものもしっかりと収まる。今回は容量0.9Lの保温ボトルを入れてみたが、内容物を含めれば重量1kg以上になるボトルもしっかりと固定でき、なんの支障もない。

その下にあるヒップハーネスのポケットは左右でデザインが異なる。一方は伸縮性素材で水はけがよく、少し大きめのものも入れられるタイプだ。もう一方はアウトドライを使っていない一般的な生地。メッシュに比べればそれなりの耐水性はあるが、大雨のときはファスナー部分から水が流れ込むはずだ。しかし水抜きの穴は設けられておらず、いくらか水が溜まるだろう。その点は留意して使ったほうがよさそうである。

下の写真は、雨蓋を取り外してひっくり返した状態だ。「雨蓋」といっても、アウトドライを使ったこのザックの本体にはもともと雨に対する防水性があるので、「蓋」とでもいったほうがよいかもしれない。

余談だが、登山用語で日本語の「雨蓋」に対応する英語は「リッド(lid)」であり、この言葉も雑誌などのザックの解説でよく使われている。しかしもともと「リッド」には雨に関する意味は含まれず、「蓋」という意味しかない。つまり、このザックの「雨蓋」は、まさに「リッド」なのである。

このリッドへの工夫が、このザックのもうひとつの特徴である。フロントポケット同様、リッドのポケットには長いファスナーが付いているため水が浸入しやすく、構造上アウトドライを使った防水をする意味が少ない。だが、大雨のときにリッド内部の荷物を濡らしたいとは思う人はいないだろう。そこで考えられたのが「リッドを裏返して使用する」という工夫だ。

リッド内側のオレンジの生地には防水コーティングが加えられ、ファスナーもない。そのためにひっくり返してザック本体にかぶせれば、リッド内部の荷物が濡れることはなくなる。同時に派手な色彩で視認性も高まり、悪天候の際には安全性を高めるというメリットも生まれてくる。よく考えられているものだ。

またこのリッドはヘルメットホルダーとしても機能する。

一般的なザックの雨蓋の内側にもヘルメットは収められるものだが、このリッドの周囲にはぐるりと伸縮性素材が使われ、ヘルメットを包み込むような状態で確実にキープしてくれる。細かな工夫だが、気が効いているではないか。

ここまでチェックしたところで、いまだ僕には使用方法がわからないパーツが残っていた。

ショルダーハーネスにつけられているバックルである。これはザックの何と連動するのか……。もしかしたら、別売りのアクセサリーなどがつけられるのだろうか?
そんなことを考えながら、僕はテント内で悪天候の一夜を過ごした。

びしょ濡れのテント撤収。防水ザックの良さを実感

翌朝、テントの周囲はホワイトアウトしかけていた。

強風のために雪は吹き飛ばされ、積雪はあまり増えていないように感じられる。だが、テントは吹き溜まった雪でつぶれかけていた。しかも明け方から予想外の高い気温になり、テントはびしょ濡れだ。

そんななかでなんとかテントを撤収し、テント場を後にする。当初は伊那前岳を経由して北御所登山口まで長く歩き、ザックの背負い心地をもっと試してみる予定だった。

だが周囲は真っ白で進行方向がおぼろげになり、しかも体がよろめくような強風とあって、最短距離の千畳敷に戻ることを決心。ザックの様子を確かめたり、撮影をしたりする余裕はなく、よろよろとなんとか乗越浄土までたどりつく。ここまでくると、風向きと地形の問題で、風は弱くなっていた。

そこでやっと荷物を下ろし、現在のザックの状態を確認する。このとき、溶けた雪でずぶ濡れになったテントはザックの内部には入れず、ザック本体とリッドのあいだに挟み込んでいた。

撮影のために形状を整えても、どうしても不恰好。しかし悪天候のなかでなんとかテントを撤収した結果でもあり、内部の荷物を濡らさないためにも仕方ないのである。

歩いているときに降りかかってきた雪は溶けはじめ、ザックにはシャーベットのような雪や水滴が付いている。

しかし表面の生地は水滴を弾き、水分を吸い込んだ様子もない。これがアウトドライの実力なのだ。なによりザックカバーを使わないで済むのはとても便利で、とくに今回のような強風のときはカバー内部に雪が吹き込んだり、カバー自体が吹き飛ばされたりする心配がなく、使い勝手はすばらしい。カバーがあると、行動中の荷物の出し入れも面倒になるが、そのストレスも感じないのである。

その後、ロープウェイの駅がある千畳敷まで歩き終え、乗越浄土のほうを眺めた。急斜面の上には雨雲が真っ白なガスがかかり、強風が吹いていることがわかる。無事に下りてきたことにほっとしつつ、今からあの場所へ向かえといわれても絶対に行くことはないだろうとも思う。

その反面、標高が低い場所には青空も広がっていて、気持ちがよさそうだ。やはり標高3000m近い場所、とくに冬期は異世界なのだと思わざるを得ないのであった。

ショルダーハーネスについていたバックルの使い道…

さて、ロープウェイで完全に下山した後、僕は最後にもうひとつの確認を行なった。それはショルダーハーネスに付いていた、あのバックルである。じつはいろいろと考えた挙句、ひとつの結論は出ていたのだが、悪天候のためにテント場から千畳敷のあいだでは試してみる気にはなれなかったのだ。

ともあれ、それはこんな使い方だ。リッドのバックルと組み合わせ、リッドをチェストポケットとして利用するのである。

実際この位置にリッドを装着すると、ポケットが上を向き、荷物の出し入れが非常にしやすい。後日、取り扱い会社に確認をすると、この使用方法に間違いはなかった。もっと早く気づいていればよかったが……。

チェストポケットとしてリッドを使用した際、ポケット内側にさらにつけられたインナーポケットが使いやすい位置にくる。

内側のオレンジ色は視認性が高く、多少薄暗いときでも荷物を探しやすい。ザック本体はグレーというシックなカラーリングだが、ひっくり返して使えるリッドも含め、要所のオレンジ色がなかなか効果的なのであった。

アウトドライという素材の防水性は十分すぎるほどであった。今回、下山した後に確認したところ、ぐっしょりと濡れたテントを挟み込んで圧迫していたというのに、やはり内部へ水が浸透した形跡は見られないのである。この素材には内部の蒸れを外に排出する透湿性の機能もあるが、ウェアやグローブとは製法が異なるザックに関しては、そのメリットはとくにうたわれてはいない。しかし湿った寝袋などをしまい込んだまま、気温が高い場所に下山しても内部に結露が見られなかったのは、いくぶんかは透湿性が効いていたからだと思われる。防水性を考えたザックは他にもあるが、透湿性という点でもオゾニック70アウトドライには利点があるのかもしれない。

ザックというものは、ウェアと同様に使用する人の体に合うか合わないかが、非常に重視される道具である。そのために他の人の背負い心地までは保証できないが、少なくても僕の体には違和感なく悪天候でも安心して使用することができた。いくぶん細身のヒップハーネスをもう少し太めにしつらえてくれれば、よりフィット感が高まる可能性はあるとはいえ、重量20kg程度ならばまったく問題はない。なにより、ザックカバーを必要とせず、暴風雨や沢の中でも浸水しそうにない防水性は魅力的で、手元にひとつキープしておきたくなる機能性を有している。体に合うという前提さえクリアできれば、これからのザック選びのひとつの候補になるモデルといってよいだろう。

プロフィール

高橋 庄太郎

宮城県仙台市出身。山岳・アウトドアライター。 山、海、川を旅し、山岳・アウトドア専門誌で執筆。特に好きなのは、ソロで行う長距離&長期間の山の縦走、海や川のカヤック・ツーリングなど。こだわりは「できるだけ日帰りではなく、一泊だけでもテントで眠る」。『テント泊登山の基本テクニック』(山と溪谷社)、『トレッキング実践学』(peacs)ほか著書多数。
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高橋庄太郎の山MONO語り

山岳・アウトドアライター、高橋庄太郎さんが、最新山道具を使ってレポートする連載。さまざまな角度からアウトドアグッズを確認し、その使用感と特徴を余すことなくレポート!

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