膝痛改善には、登山の負荷に負けない体をつくろう。効率的なトレーニング法とは?【山と溪谷2024年3月号特集より】

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膝痛を改善するには、登山の負荷に負けない体をつくる必要がある。そのための効率的なトレーニング法とは?『山と溪谷』2024年3月号の特集「歩いて治す膝痛」から、膝痛対策としてのトレーニングの考え方を解説した記事を紹介しよう。

文=谷山宏典、イラスト=上坂元 均、イメージ写真=加戸昭太郎

登山の負荷に負けない体をつくる、トレーニングの考え方

症状を悪化させることなく、効果的にトレーニングを行なうためにも、膝の痛みのメカニズムについて正しく理解しておこう。

芳須 勲さん
監修 芳須 勲さん
よしず・いさお/管理栄養士、健康運動指導士の資格をもつ登山ガイド。「健康づくり」をテーマとする。愛称は「ヤッホー!!さん。」著書に『ヤマケイ登山学校 登山ボディ』(山と溪谷社)などがある。

膝痛を改善するためのトレーニング方法として今回紹介するのが、実際に山を歩くことで登山に適した体作りを行なう「山歩きトレーニング」だ。

「山歩きトレーニングは、登山に必要な筋力、筋持久力、平衡性などを身につけるのに最も効率的な方法です。山歩きトレーニングを継続的に行なうことで、結果として膝にかかる負担を軽減させることができ、膝痛の改善にもつながるはずです」(芳須さん)

定期的に山を歩くことがトラブル抑制にどれほど効果的かは、下の図を見れば一目瞭然。この図は、週1回の軽登山を行なうグループ(A群)と月1回程度の登山を行なうグループ(B群)のトラブル発生率を比較したもの。週1回の軽登山を行なっているグループのほうが「膝の痛み」「下りで脚がガクガクになる」などの身体トラブルの発生率が圧倒的に低いことがわかる。

つまり、軽めの強度でも、高頻度で山を歩くことを継続すれば、膝痛を予防する効果は充分に期待できるのだ。

軽登山トレーニングによる無雪期登山時のトラブル抑制効果

A群は平均年齢69歳、B群は同56歳の男女の登山者。A群の方が10歳以上も高齢だがトラブル発生率は低い。(出典/『新・高みへのステップ 第1部』「第5章 運動生理学とトレーニング学」(国立登山研修所発行))


山歩きトレーニングを行なう際、いくつか注意したいポイントがある。

①「トレーニングを始める前に、痛みのセルフチェックを行なう」

膝痛の原因、痛む部位や痛みの強さには個人差がある。これまでどんな登山をしたときに膝が痛くなったのか、過去の痛みを振り返れば、「同程度の負荷の登山をしたときに痛みが出ないようにする」という目標設定ができるし、トレーニングで痛みが出ないように負荷を調整する目安にもなる。また、痛む部位から「どこの筋力や柔軟性が不足しているか」を把握できれば(関連ページ参照)、トレーニング時に特に意識を向けるべき部位が明確になる。

③「部位ごとの筋トレやストレッチを補助的に組み合わせる」

山歩きトレーニングは登山に適した体をつくる効率的な方法だが、山を登り下りしているだけでは鍛えにくい部分もある。それゆえ部位ごとの筋力トレーニングやストレッチを補助的に組み合わせるといい。そうした自宅でできる日常トレーニングは雑誌の特集で詳しく紹介する。

④「トレーニング中や前後は適切な栄養・水分補給を心がける」

糖質やたんぱく質などの栄養素は運動時のエネルギーや体づくりの材料となる。また、水分不足は筋繊維同士の滑りを悪くさせるため、体の柔軟性が低下してしまう。トレーニングの効果を高めるには、適切な栄養・水分補給は必須だ。基本は、五大栄養素(糖質、たんぱく質、脂質、ビタミン、ミネラル)をバランスよく摂取することだが、芳須さんによれば、「摂取するタイミングも大事」とのこと。「たとえば、トレーニング前にはエネルギーになる糖質や、筋肉をスムーズに動かすための水分やミネラルを摂取します。トレーニング後には、傷ついた筋肉を回復させるため、たんぱく質の摂取が重要になります」

山歩きトレーニングと日常トレーニングを組み合わせる

登山に必要な体力を向上させて、膝痛になりにくい体をつくるには山歩きトレーニングが最も効率的な方法だ。しかし、登山だけでは鍛えにくい部分もあるため、日常トレーニングとして筋トレやストレッチを組み合わせる。

運動負荷は「強度」と「頻度」で決まる
運動時に体にかかる負荷は「強度」と「頻度」の組み合わせで調整する。膝痛改善を目的とする山歩きトレーニングの場合、まずは軽い強度の運動を、高頻度で行なうことをめざす。

『山と溪谷』2024年3月号より転載)

プロフィール

山と溪谷編集部

『山と溪谷』2024年5月号の特集は「上高地」。多くの人々を迎える上高地は、登山者にとっては入下山の通り道。知っているようで知らない上高地を、「泊まる・食べる」「自然を知る・歩く」「歴史・文化を知る」3つのテーマから深掘りします。綴じ込み付録は「上高地散策マップ」。

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雑誌『山と溪谷』特集より

1930年創刊の登山雑誌『山と溪谷』の最新号から、秀逸な特集記事を抜粋してお届けします。

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