南アルプス南部調査人、四国遍路を歩く⑤徳島県の遍路道 区間ごとのアドバイス
弘法大師・空海が修行した地・四国と、ゆかりの八十八寺をお参りする巡礼・四国遍路。南アルプス南部を主なフィールドとして長らく山歩きに傾注してきた筆者が、数カ月にわたって通い続け、歩き遍路を結願(けちがん、すべての霊場を回り終えること)した。その記録とともに、登山経験豊富な筆者ならではのアドバイスをつづっていく。
写真・文=岸田 明 トップ写真=玉ヶ峠の先にある神山遍路小屋付近から見る里の風景
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【区間3】第十七番井戸寺から第二十三番薬王寺まで 2泊3日公共交通の区切り:府中駅~日和佐(ひわさ)駅
第十七番井戸寺から鮎喰川を越えた先は、緑色片岩からなる眉山(びざん)の地蔵峠越えが待ち受ける。眉山は徳島市街の背後に控える山で、地蔵峠は都市部近くにあるとは思えない静かな登山道だ。焼山寺道以降で、久しぶりの本格的な山道になる。
地蔵峠を越えて園瀬川(そのせがわ)堤防道路から潜水橋を渡り、日本一低い自然の山・弁天山に向かう。好山家必訪の山で、自筆にはなるが登頂証明書も入手できる。弘法大師の御母堂が訪ねて来られたという第十八番恩山寺(おんざんじ)、弦巻坂(つるまきざか)を通り、「阿波の関所」ともいわれる第十九番立江寺(たつえじ)に至る。
立江寺からは南西に向かうが、第二十番鶴林寺 (かくりんじ)への遍路道入り口である阿波勝浦までの間には、近年地元の方々によって整備されたとても雰囲気のよい櫛渕真念道(くしぶちしんねんみち)が平行している。所要時間も大幅には増えないので、こちらもぜひ歩きたい道だ。
鶴林寺遍路道入り口からは、ミカン畑を登り石畳の残る参道を行く。山門と境内に鶴の像がある清楚な鶴林寺を参拝後、非常に急な階段と坂を下り、那賀川(なかがわ)を渡って第二十一番太龍寺(たいりゅうじ)に登り返す。太龍寺には「西の高野山」とも呼ばれる伽藍があり、荘厳なたたずまいである。また大師堂への参道は、高野山の奥の院を彷彿とさせる雰囲気だ。
弘法大師修行の地・舎心ヶ嶽(しゃしんがたけ)を通り、尾根上に長く続くいわや道から阿瀬比(あせび)に下った後、緩やかな大根峠(おおねとうげ)を越えると山里の風景となり、第二十二番平等寺(びょうどうじ)に着く。
変化が少なく先の見えない山間部を歩き貝谷(かいたに)峠に登ると、展望所からは眼前に大海原が現われる。田井ノ浜に降り立ち初めて磯の香りをかぎ、波音を聞く。徳島県の遍路道の終盤区間ではこの後、リアス海岸のさまざまな岩礁や、浸蝕洞のえびす洞、美しい大浜海岸の歩きになり、日和佐(ひわさ)の第二十三番薬王寺(やくおうじ)に着く。
●アドバイス 第十七番井戸寺から第十八番恩山寺へは、眉山の地蔵峠越えと、徳島市内通過の2ルートがある。徳島市内通過の場合は、眉山へのロープウェイもあるので時間があれば登って大展望を楽しんだり、市内見物するのもよいだろう。
地蔵峠を越えた場合、さらにその先には園瀬川沿いとあずり越の2ルートがある。あずり越は、麓でルートがわかりにくいので注意が必要で、峠越え頂点部前後では山道になっている。
第二・第三の「遍路ころがし」、第二十番鶴林寺道と第二十一番太龍寺道を歩くには、焼山寺道と同様に前日に麓の阿波勝浦に着いている必要がある。阿波勝浦は宿が少ないが、離れていても車で送迎してくれる宿もある。なお、一日でこの両霊場を越えてさらに大根峠から第二十二番平等寺までの延長約20kmの山道歩くのが通常の行程だが、不安を感じる場合は山越え先の宿予約の際に相談しよう。平等寺周辺では平等寺の宿坊のほか、遍路宿もある。
平等寺から第二十三番薬王寺までは貝谷峠を越える海岸ルートと国道ルートがあるが、筆者としては初めて海を眼下に見ることのできる貝谷峠越えをおすすめする。両ルートともに一日で歩けるが、どちらもコンビニエンスストアはないので注意。薬王寺のある日和佐は大きな町で、遍路宿は数軒ある。
本区間の鶴林寺越え、太龍寺越え、大根峠越えは完全な山道で、遍路以外は歩いていない。また四国の全遍路道に関して言えることであるが、峠越えの旧遍路道は遍路以外に歩いている人はいないので、山道に不安がある場合や、夕刻は歩かないほうがよいだろう。
行程・コース
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プロフィール
岸田 明(きしだ・あきら)
東京都生まれ。中学時代からワンゲルで自然に親しんできた。南アルプス南部専門家を自認し、今までに当山域に500日以上入山。著書に『ヤマケイアルペンガイド南アルプス』(共著・山と溪谷社)、『山と高原地図 塩見・赤石・聖岳』(共著・昭文社)のほか、雑誌『山と溪谷』に多数寄稿。ブログ『南アルプス南部調査人』を発信中。山渓オンラインに記事多数投稿。また最近は四国遍路の投稿が多い。
四国遍路の記事:https://www.yamakei-online.com/yama-ya/group.php?gid=143/歩き遍路旅の魅力と計画アドバイス
登山経験豊富な筆者ならではのアドバイスと、その記録
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