登山用スリーピングマットの選び方。種類、厚み、R値、サイズなど徹底解説
テント泊で良質な睡眠を得るためには、地面の凹凸を和らげ、寒さを防ぐスリーピングマットが欠かせません。いくつもある商品からひとつを選ぶとき、知っておきたい3つの種類の特徴と意識すべき5つのポイントを紹介します。
文=吉澤英晃、写真=福田 諭
目次
地面の凹凸を和らげ、寒さから身を守る敷布団
テント泊で眠るとき、寝袋とセットで必要になる寝具がスリーピングマットです。
たとえば、スリーピングマットを敷かずそのまま地面に横になったらどうでしょう?
地面の凹凸をじかに感じるので、体が痛くてとても快適には眠れなさそうです。そして、気温が低ければたちまち体の表面の熱が奪われてしまい、寒さを感じてしまうでしょう。
そこで活躍するアイテムがスリーピングマットで、高いクッション性で地面の凹凸を和らげつつ、優れた断熱性で地面から伝わる寒さを防ぎ、寝心地を良くする重要な役目を担っています。
構造で3つに分かれるスリーピングマットの種類
スリーピングマットの種類は、発泡素材で作られているクローズドセルマット、空気で膨らませるエアーマット、空気を注入しつつ、ある程度自動で膨張するセルフインフレーティングマットに分かれます。
それぞれの特徴を見ていきながら、スリーピングマットを選ぶときに意識したほうがいい5つのポイントも紹介します。
クローズドセルマットは故障する心配がゼロ
発泡素材で作られるクローズドセルマットは、収納サイズが大きいという欠点はあるものの、ほかの2つと異なり空気で膨らませる必要がないので、すぐに使える手間の少なさが魅力のひとつ。
また、フィールドでパンクする心配がなく、絶対に故障しない安心感の高さはクローズドセルマットだけがもつ大きな特徴です。
エアーマットはクッション性に優れ寝心地がいい
空気で膨らませるエアーマットは、本体に厚みがあるためクッション性に優れ、地面の凹凸をほぼ感じずに眠ることができます。さらに、空気を抜くと小さく収納できる点も見逃せない特徴です。
ただ、使用中に穴があいてしまうリスクがあり、パンクすると著しく断熱性が低下する欠点も。フィールドでも修理することはできますが、穴が小さい場合は修理箇所を探すのが容易ではなく、丁寧に扱う必要があるシビアなスリーピングマットともいえます。
セルフインフレーティングマットは2タイプのいいとこ取り
セルフインフレーティングマットは、スポンジ状のクッション材と空気で膨らむスリーピングマットです。ある程度の厚みまで自動的に膨らむため、セルフインフレーティング(自動膨張式)と呼ばれています。
空気で膨らむためクローズドセルマットより寝心地がよく、パンクのリスクはありますが、スポンジ状のクッション材が入っているので、穴があいてもエアーマットのようにクッション性と断熱性がゼロになることはありません。クローズドセルマットとエアーマットの中間に位置するタイプといえるでしょう。
選ぶときは5つのポイントに注目
スリーピングマットを選ぶときは、断熱性、寝心地、収納サイズ、長さ、軽さの5点を意識しましょう。このなかで重点を置くポイントを事前に決めておくと、どれを選べばいいか買い物中に迷いが生じづらくなります。
断熱性はR値をチェック
| 対応 シーズン |
真夏 | 春〜秋 | 初冬 or 残雪 | 厳冬期 |
|---|---|---|---|---|
| R値 | 1~2 | 2~4 | 4~6 | 6以上 |
断熱性は、地面から伝わる寒さの感じ方に関わる大切な性能です。
スリーピングマットの断熱性は、R値と呼ばれる数値で示されています。ただし、寒さの感じ方は人によって異なるため、どのR値がどの程度の外気温や地面の冷えに対応するといった具体的な指標は存在しません。
大まかな目安として、R値1~2は真夏、2~4は春~秋(3シーズン)、4~6は初冬や残雪期、6以上は厳冬期に対応するといわれています。
寝心地はマットの厚みに左右される
横になったときの寝心地は、地面の凹凸を感じない厚さをもったスリーピングマットのほうがいいといえます。マットの厚みは、クローズドセルマット<セルフインフレーティングマット<エアーマットの順に増していくのが一般的です。
ただし、厚みのあるエアーマットなどは、逆に独特の浮遊感が気になって眠りづらいという声も聞かれます。寝心地に関しては、できれば店頭などで実際にそれぞれのマットに横になって判断すると間違いがありません。
収納サイズが小さいとパッキングしやすい
収納サイズが小さくなるアイテムは、バックパックの中にしまいやすいという長所があります。たとえば、北アルプスの岩稜ルートなど、すべての荷物をザックの中に収納したほうがいい環境では、なるべく収納サイズがコンパクトになるものを選んだほうが使い勝手はいいといえます。
そこで、スリーピングマットを収納サイズで選ぶなら、空気を抜いて小さくまとめられるエアーマットかセルフインフレーティングマットが第一候補。クローズドセルマットは丸めるか折りたたむしか収納する方法がないため、極端に薄いものを選ばない限り、バックパックの中に入れてもかさ張ってしまい、もしくは外に取り付けて持ち運ぶしかありません。
長さと軽さはトレードオフ
登山の道具はなるべく軽くしたいもの。スリーピングマットは基本、同じモデルのなかでミディアムやショートなどいくつかサイズを用意しているものが多く、全長が短いものほど軽くなります。
ただし、軽さを優先して身長よりサイズが短いものを選ぶ場合は、少なからず寝心地が悪くなることを覚悟しましょう。枕元や足元にほかの荷物を置けば足りない長さを補えますが、寝心地のよさはやはり全身をカバーするサイズに軍配が上がります。
多少の寝心地を犠牲にしても軽さを取るか、数十グラムの重量増に目をつむり快適な寝心地を手に入れるか。ここは判断が分かれるところです。
使用シーンで考えるスリーピングマットの選び方
最後に、スリーピングマットを使う状況を3シーズンと雪山に分けて、シチュエーションごとに、どんなスリーピングマットを選ぶのがおすすめか考えてみましょう。
3シーズンは連続で使う日数がターニングポイント
春から秋の3シーズンであれば、スリーピングマットに求められる断熱性はR値1〜4くらいが目安になります。
その上で寝心地や収納サイズに重点を置くなら、エアーマットかセルフインフレーティングマットがおすすめです。連続で使用する日数がそれほど多くなければ、故障するリスクを過度に心配する必要はないでしょう。
ただし、何泊もするような長期山行で使う場合は、故障するリスクがまったくないクローズドセルマットを選んだほうが安心できるかもしれません。
雪山ではR値を最優先にして考える
気温が氷点下になる雪山で使うスリーピングマットは、R値を最優先して選ぶべき。雪山に対応するマットは、R値4以上が目安になります。
ちなみに、R値は単純に足し算することができるため、たとえば、R値が2と3のマットを組み合わせれば、R値5と同等の断熱性を得ることも可能です。
R値を優先させつつ、寝心地や重さを加味して、最終的にどれにするか考えましょう。
タイプ別、定番&注目スリーピングマット
[サーマレスト]Zライトソル レギュラー
サーマレストは、1972年にアメリカで誕生したスリーピングギアの専門ブランド。世界に先駆けてセルフインフレーティングマットをリリースしたブランドでもあり、当時、屋外での睡眠の快適性に大きな革命をもたらした。それと同じく、Zライトソルはクローズドセルマットに革命を起こしたアイテムであり、蛇腹状に折り畳める仕様は、この商品から市場に普及したと言っても過言ではない。面ではなく、点で体を支える構造で寝心地に優れ、表面にアルミを蒸着することで、通常の「Zライト」から断熱性が20%もアップしている。ショートサイズもラインナップ。
| 価格 | 9,020円(税込) |
|---|---|
| R値 | 2.0 |
| 厚さ | 2.0cm |
| 収納サイズ | 51×13×14cm |
| 使用サイズ | 183×51cm |
[ニーモ]オーラ レギュラー マミー
ニーモは、アメリカでも有数の芸術・デザインの大学を卒業した創業者によって2002年に誕生したアメリカのアウトドアギアブランド。独創性とデザイン性の高いテントを筆頭に、今では性能の高いスリーピングマットもブランドを支える定番アイテムとして広く評価されている。オーラはエントリーユーザー向けに開発されたセルフインフレーティングマットで、地面に接するボトムに耐久性に優れる75デニールの素材を使うことで、高い強度を実現。信頼できる丈夫さはフィールドでの安心感に直結する。比較的手頃な値段もエントリーユーザーにはうれしいポイント。ミディアム、ショートサイズも展開する。
| 価格 | 16,500円(税込) |
|---|---|
| R値 | 2.7 |
| 厚さ | 2.5cm |
| 収納サイズ | 20×φ13cm |
| 使用サイズ | 183×51cm |
[ラブ]ウルトラスフィア 4.5
イギリスで1981年に誕生したラブは、当初寝袋からスタートした。それがいまは製品ラインナップが拡大し、ウェアからバックパック、シェルターも手がける総合アウトドアギアブランドに成長している。ウルトラスフィア 4.5は、エアーマットの最注目株で、初冬や残雪の寒さに対応するとされるR値4以上の高い断熱性(カタログ数値は4.3)を実現し、重量は370gと比較的軽量でありながら、手頃な値段が発売直後から大きな話題を呼んでいる。雪山のテント泊をめざすユーザーにとって、真っ先に選択肢に入るエアーマットと言えるだろう。
| 価格 | 20,900円(税込) |
|---|---|
| R値 | 4.3 |
| 厚さ | 8cm |
| 収納サイズ | 18×φ9cm |
| 使用サイズ | 183×51cm |
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プロフィール
吉澤 英晃
1986年生まれ。群馬県出身。大学の探検サークルで登山と出合い、卒業後、山道具を扱う企業の営業マンとして約7年勤めた後、ライターとして独立。道具にまつわる記事を中心に登山系メディアで活動する。
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