実はこんなに種類が多い! 秋冬登山の定番、フリースの基礎知識
フリースは、秋山や冬山の中間着、防寒着、さらには日常の普段着としてもおなじみのウェアです。そんなフリースについて、寒い時期に着る温かいだけのウェアと思っていませんか? 実はフリースは多様な性能をもち、種類が豊富な高機能素材なんです。身近にあるがゆえに注目されづらいフリースの性能や種類を詳しく紹介します。
文=吉澤英晃、写真=福田 諭
目次
フリースの種類は一つじゃない
フリースは中間着や防寒着として選ばれることが多い、登山では定番のウェアです。山登りだけなく、日常でもなじみのあるアイテムといえるでしょう。そんなフリースについて、生地が起毛した温かい服、というイメージを持っている方は多いと思います。
ですが、一口にフリースといっても、実はさまざまな種類があり、一概に“これ”といった特徴を説明しづらいのが現状です。運動量や体質、用途などに応じて、種類ごとにそれぞれが異なる強みを備えています。
フリースとは、生地が起毛した保温素材
フリースについて理解を深めるために、まずは言葉の定義を確かめておきましょう。
本来、フリースとは羊毛を意味する言葉でした。それが時を経て、現在では化学繊維を使った起毛した保温素材、もしくはその素材で作られたウェアを指してフリースと呼ぶことが多いです。
フリースは種類によって強みが異なる
フリースがもつ性能は保温性だけではありません。透湿性、吸汗速乾性、伸縮性も備える高機能素材であり、それぞれの性能はフリースの種類ごとに差があります。
両手では足りないほど種類があるなかから、ここでは定番と最新モデルの計6つのフリースをピックアップ。
それぞれの特徴やおすすめのシチュエーションを見ていきましょう。
見た目で違いが分かる3タイプ
同じフリースでも、生地の構造が異なると性能にも違いが生じます。ここで紹介する3種類がその最たる例。フリースを選ぶ際の基礎知識として、ビジュアルごとの特徴をチェックしておきましょう。
【マイクロフリース】フリース選びに迷ったらこれ。スタンダードタイプ
両面が短く起毛するフリースは、もっともスタンダードなタイプです。フリースの性能は、この素材を基準に考えるといいでしょう。
「マイクロフリース」と呼ばれることが多いこのフリースは、保温性があり、透湿性、吸汗速乾性、伸縮性を満遍なく備えています。
フリースのウェアが欲しいけど、種類が多くてどれを選べばいいのかわからない。そんな方にはマイクロフリースを使ったモデルがおすすめ。平均的な性能で最初の一枚に最適です。
【グリッドフリース】運動量の多いシーンにぴったり。高透湿タイプ
マイクロフリースと異なり、表面はフラットで、起毛するのは肌面のみ。そして、肌面に格子状の溝があるタイプは、透湿性に優れます。
「グリッドフリース」と呼ばれるこのフリースは、ウェア内の熱や湿気を格子状の溝から排出する仕組みで作られています。さらに起毛する面積が少ないため、マイクロフリースなどと比べると同じ面積あたりの重量が軽くなる点も特徴です。
透湿性に優れますが、上から防風性があるレインウェアやウィンドジャケットなどを羽織ると、服がラッピングされるため充分な保温性を発揮。
運動量の多いアクティビティや発汗量の多い人などには、グリッドフリースで作られるウェアがおすすめです。
【ハイロフトフリース】抜群の暖かさで体温をキープ。保温性特化タイプ
マイクロフリースのように両面が起毛しながら、毛足が長いタイプも存在します。動物の毛皮のような見た目をしているこちらのタイプは、保温性の高さが特徴です。
このフリースはかさが高いことから「ハイロフトフリース」と呼ばれることがあり、マイクロフリースと比べたとき同じ面積あたりの保温性に優れます。
ハイロフトフリースで作られるウェアは休憩時の防寒着としても使いやすく、カジュアルライクな見た目でタウンユースにも使いやすいといえるでしょう。
外見からでは特長が分からない2タイプ
フリースには、外見では判断しづらい特徴を備える種類もあります。この手のフリースは素材の名称(商品名)をチェックして、そのウェアがもつ強みを把握しましょう。
【ポーラテック パワードライ】汗をかいてもドライが続く。吸汗速乾重視タイプ
表面はフラットで肌面に格子状の溝があるフリースを、先ほどはグリッドフリースと紹介しました。こちらのウェアに使われている生地はグリッドフリースと同様に見えますが、肌をドライに保つ吸汗速乾性を秘めています。
性能の秘密は、肌面と表面で異なる編み糸を使った二重ニット構造にあります。肌から汗を素早く吸い上げると同時に、吸い上げた汗を表面で広範囲に拡散させることで乾燥を促す仕組みです。
この生地は「ポーラテック パワードライ」という名称で、気温が低い時期のベースレイヤーなどによく使われます。実はフリースは、イコール中間着や保温着とも一概にはいえないのです。
ちなみに、生地の名称にある「ポーラテック」とは、素材メーカーの社名のこと。ポーラテック社はフリース素材のパイオニアメーカーとして知られています。
【ポーラテック パワーストレッチ】大きな動きに追従する。伸縮タイプ
肌面が短く起毛していて、ここだけを見るとマイクロフリースが使われているように思えるこちらのウェア。実は伸縮性に優れるフリースで作られています。
マイクロフリースもストレッチするのですが、比べてみると違いは明らか。マイクロフリースは左右2方向に伸びるのに対して、こちらのフリースは上下左右4方向にストレスなく伸縮します。
こちらのウェアに使われているフリース生地は「ポーラテック パワーストレッチプロライト」。ほかに、「ポーラテック パワーストレッチ」や「ポーラテック パワーストレッチプロ」と名の付くフリースは、どれも同様の伸縮性を備えています。
ストレッチ性に優れるフリースは体の動きに追従し、ユーザーの動きをさまたげません。クライミングやスキーやスノーボードなど、アグレッシブに動くアクティビティにぴったりです。
番外編:異素材を組み合わせた最先端のハイテクフリース
最後に、異なるフリースを使ったハイブリッドウェアを紹介します。
こちらのウェアは、毛足の長い「ポーラテック ウールハイロフト」というフリース素材をメインに使いつつ、胸回りと両サイド、肘から袖にかけては「グラフェングリッドフリース」という素材を使用。バックパックとの摩擦を考慮して、肩部分は耐摩耗性に優れるナイロンの生地で覆われています。
このウェアのように、フリースは異なる種類を簡単に組み合わせられる点も特徴です。熱がこもりやすい脇下や可動域が大きい肩回りなど、体の部位ごとに性能の異なるフリースを使い、さまざまなアクティビティーに適した多機能なウェアが作られています。
ちなみに、このウェアに使われている「ポーラテック ウールハイロフト」は、天然のウールをブレンドした最先端のフリース素材。ウールがもつ保水性のおかげで、たくさんの汗でウェアが濡れても冷たさを感じにくいという特徴を備えます。
「グラフェングリッドフリース」もポーラテック ウールハイロフトと同じく、最近開発された新しい素材です。聞き慣れないグラフェンとは、ナノレベルの炭素物質のこと。高い熱伝導率と遠赤外線効果をもつことで知られていて、体の内部からも加温される特殊な保温性を備えています。
フリースの特徴を覚えて用途に見合う一着を見つけよう!
フリースは登山用ウェアの定番素材。暖かいだけでなく、透湿性、吸汗速乾性、伸縮性を備える高機能素材であり、各性能に特化した生地が作られているバリエーション豊かな素材でもあります。
最後に、紹介した5つのフリースの代表的な呼称または商品名、性能の違いを簡単なリストにまとめました。フリース選びに迷った際、このリストが理想の一着を見つける手がかりになるはずです。
特徴 | 代表的な呼称または商品名 | おすすめのシチュエーション |
標準的な性能をもつ | マイクロフリース | フリース選びに迷ったときに。平均的な性能で最初に一着にもおすすめ |
透湿性に優れる | グリッドフリース | 運動量が多いアクティビティや汗をたくさんかく体質の方に |
保温性に優れる | ハイロフトフリース | 休憩時の防寒着として。街着にも使いやすい |
吸汗速乾性に優れる | ポーラテック パワードライ | 発汗量の多いアクティビティや気温が低い時期のベースレイヤーとして |
伸縮性に優れる | ポーラテック パワーストレッチ | クライミングやスキー、スノーボードなど、体を大きく動かすアクティビティに |
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プロフィール
吉澤 英晃
1986年生まれ。群馬県出身。大学の探検サークルで登山と出会い、卒業後、山道具を扱う企業の営業マンを約7年勤めた後、ライターとして独立。道具にまつわる記事を中心に登山系メディアで活動する。
はじめての登山装備。基礎知識と選び方
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