ピッケルの基礎知識と選び方[雪山登山の基本装備]

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「ピッケル」は、雪山登山を象徴する装備のひとつ。初めてピッケルを選ぶ雪山初心者の方に向けて、用途、種類、選び方を紹介します! ピッケルの基礎知識を学び、使いやすいベストな一本を手に入れて、雪山デビューをめざしましょう。

文=吉澤英晃、写真=福田 諭

目次

ピッケルの主な用途

雪山を歩く登山者が必ずと言っていいほど手にしている道具が「ピッケル」です。雪山登山の必須装備といえるこの道具は、実際のフィールドでどのように使うのでしょう? まずは、ピッケルの3つの主な役割と具体的な使用方法を紹介します。

杖の代わりにバランスを保つ

フラットフッティング(足を地面と並行にして置く歩き方)で歩けるほど勾配の緩い地形では、ピッケルのヘッドを持ち、スパイクを雪面に刺して、上体のバランスを保ちます。杖のような使い方は、もっともポピュラーなピッケルの用途と言えるでしょう。

急斜面で手がかりにする

斜面の勾配が急になり、つま先やアイゼンの前爪を蹴り込む必要が出てくると、ピッケルのピックを雪面に刺して、ヘッドを手がかりにして行動します。険しい地形で多用するこの持ち方は「ダガーポディション」と呼ばれています。

転倒時に初動を止める

万が一転倒したとき、ピックを雪面に刺して、体が滑り落ちないように初動を止めます。これが雪山の講習会でよく耳にする「滑落停止」と呼ばれる技術です。滑落停止は前述した2つの使い方と異なり、独学が難しく、習熟には一定の訓練が欠かせません。さまざまな団体や山岳ガイドが主催している講習会に参加して、正確な技術を学びましょう。

ピッケルを構成するパーツと種類

一口でピッケルと言っても、形状や使われている素材でモデルごとに違いがあります。次は各部位の名称とピッケルの種類を確認しましょう。

各部位の名称

呼び方には日本語やドイツ語などいろいろなパターンがありますが、ここでは最近の主流となっている英語の名称を紹介します。

ピック:ヘッドの先端で尖っている部位。雪や氷に刺して使います。

アッズ(ブレード):ピックの反対側にある鍬状の部位。雪や氷を削るときに使用します。

ヘッド:ピックとプレードの総称。普段はヘッドを握ってピッケルを持ちます。

シャフト:ピッケルの柄。形状と長さがピッケルを選ぶポイントになります。

スパイク:シャフトの先端。シャフトを切りっぱなしにしたモデルもあります。


シャフトの形状

左がベントシャフト(グリベル/エアーテックエボリューション)。右がストレートシャフト(ミゾー/レインボー

ピッケルのシャフトはベントシャフトとストレートシャフトに分かれます。

ベントシャフト

シャフトがゆるやかにカーブするため、斜面ではピックとスパイクの2点で体を支えられ、岩や氷にピックを引っ掛けやすい、ピックが雪面に深く刺さるといった利点があります。

ストレートシャフト

シャフトがまっすぐだと杖のように使いやすく、スノーウォーキングなどに向いています。入門者向けの手頃なモデルに採用されることが多いです。


ヘッドの素材

3つのヘッドは素材が異なる。左からクロモリ、ステンレス、チタン合金で作られている

ヘッドには、クロムモリブデン鋼(以下クロモリ)、ステンレス、チタン合金、アルミニウム(以下アルミ)など、さまざまな素材が使われています。

素材の違いでよく言われるのは、熱伝導率による特徴です。熱伝導率が低いと、ヘッドを持ったときに手の温度が急速に奪われず、冷たく感じにくいとされています。

熱伝導率がいちばん低い素材はチタン合金、次いでステンレス、クロモリ、アルミと熱伝導率は高くなります。

熱伝導率の違いだけでなく、クロモリは硬度が高く加工性に優れるため鋭利なピックをもつモデルが多い、ステンレスとチタン合金は錆びにくい、チタン合金とアルミは軽量といった特徴もあります。

コラム:登攀用とバックカントリー用

左が登攀用。指を引っ掛けるハンドル部分が特徴的(ブラックダイヤモンド/バイパーハンマー)、右はバックカントリー用で、シャフトは軽量なアルミで作られている(ペツル/ライド

ピッケルには登攀とバックカントリーでの使用に特化したモデルもあります。

登攀用は氷壁や岩壁が出てくるテクニカルなルートを想定したタイプで、大きく曲がるシャフト、指を引っ掛けられるハンドルなどが特徴です。

バックカントリー用は、滑走時に邪魔にならないように軽さを優先させたタイプで、シャフトが短く、アルミで作られているものもあります。

ピッケルの選び方

ピッケルの選び方は一般縦走用を使う前提で紹介します。ポイントは「シャフトの形状」「シャフトの長さ」「ヘッドを握ったときのフィーリング」の3つです。買い替えを検討することがないように、最初から扱いやすい最適な一本を見つけましょう。

①最初からベントシャフトを選んでもいい

同じベントシャフトでも曲がり具合はさまざま。カーブが大きいほうが登攀的なルートに向いている

ピッケルを主に杖のように使う場合は、ストーレートシャフトが使いやすいといえます。ただし、経験を積んで傾斜の強いルートを登る可能性がある場合は、最初からベントシャフトを選んでおくのもおすすめです。

②長さの基準は身長の35%±5cm

身長に35%をかけると、だいたい腕の長さと同じになる

ピッケルはシャフトの長さを選べます。近年は短いサイズが扱いやすいとされ、目安は身長の35%、もしくは腕と同じ長さと言われています。緩傾斜のルートを歩くことが多い場合は+5cm、登攀的なルートに向かう場合は−5cmを考慮して検討するといいでしょう。

③最終的な決め手はフィーリング

ヘッドの向きを前後に持ち替えて、それぞれ違和感がないか確かめよう

ピッケルのヘッドを握ったとき、違和感のないモデルを選びましょう。わずかなストレスも長時間続くと、体力を奪う疲労に繋がります。雪山で使うグローブを装着した状態で、ヘッドが手の内にしっくり収まるか、ヘッドとシャフトの重さのバランスがいいと感じるか、実物を手に取って確かめましょう。

豆知識|ピッケルの強度について

「B」はベーシック、「T」はテクニカルの頭文字。マークはヘッドに刻印されていることもある

ピッケルには「B」や「T」など強度を表す規格があります。マークがない、もしくは「B」のマークがあるモデルと比べたとき、「T」のマークがあるモデルは登攀的なルートに耐える強度があり、ロープを使う登攀の支点として使うことが可能です。一般的な雪山登山で使うにはそこまでの強度は必要ありませんが、参考までに覚えておくといいでしょう。

安全に持ち運ぶために

ピッケルは雪山で安全に行動するために欠かせない道具である反面、鋭利な部分が多く、使い方を間違えるとかえって危険になる道具でもあります。街中を移動するときは、ヘッドカバーなどを取り付けて、大きな袋などに入れて持ち運びましょう。

左はプラスチックバーツで覆うタイプ。右はグリベルのピッケルに付属する布製のカバー。さまざまな種類が市販されている

雪山でピッケルを使うときは、万が一の紛失を防ぐために、リーシュと呼ばれる道具で体と連結します。いくつか種類がある中で、袈裟懸けで体と連結するボディーリーシュがピッケルの持ち替えをしやすくおすすめです。

写真のボディーリーシュはグリベルのスプリングリーシュベルト。ピッケルを使わないときは胸元のループに刺して携行できる

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プロフィール

吉澤 英晃

1986年生まれ。群馬県出身。大学の探検サークルで登山と出会い、卒業後、山道具を扱う企業の営業マンを約7年勤めた後、ライターとして独立。道具にまつわる記事を中心に登山系メディアで活動する。

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