アイゼンの基礎知識と選び方[雪山登山の基本装備]

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「アイゼン」はスリップを防ぐために装着する、雪山登山に欠かせないアイテムです。種類はたくさんありますが、ポイントさえ押さえてしまえば、選び方はそれほど難しくありません。用途や種類、おすすめの一台が見つかる選び方まで、分かりやすく紹介します!

文=吉澤英晃、写真=福田 諭

目次

アイゼンの用途

「アイゼン」は、鋭利な爪が目を引く雪山登山の必須装備です。ただし、どうしてアイゼンは雪山登山の必需品と言われているのでしょう? まずは、フィールドでの役割と用途について紹介します。

固く滑る雪面でスリップを防ぐ

クラストした雪の斜面にアイゼンの爪を効かせながら登る(北アルプス/爺ヶ岳)

固く締まった雪が滑りやすいのは、山でも街でも同じこと。山に積もった雪は、人為的な踏み固めや天候による凍結以外に、日光や風の影響で氷のように固くなることもあります。スリップによる危険性が考えられる場合は、標高や勾配の有無に関わらず、アイゼンの爪を雪面に効かせて行動します。

特に森林限界を越えるエリアは風を遮るものがないため、雪面が固く氷化している可能性が高く、あらゆる場所にスリップする危険が潜んでいます。大怪我につながる滑落を防ぐために、森林限界を越えたらなだらかな地形であってもアイゼンを着けて行動しましょう。

急な斜面で登攀をサポート

フロントポインティングのイメージ

勾配が急な斜面では、アイゼンのつま先側にある2本の前爪を蹴り込み、足元を安定させて行動します。特に氷化した斜面を登り降りする場合は、アイゼンを装着していないと非常に危険。スリップした瞬間に猛スピードで滑り出し、大怪我を追うリスクがあります。

アイゼンの各部位と種類の知識

次に、アイゼンの選び方を理解する上で大切な基礎知識を説明します。アイゼンを構成する各パーツの名称、爪の本数、素材の違いを見ていきましょう。

アイゼンのパーツの名称

アイゼンは、つま先とかかと側のパーツを金属のプレートなどで連結し、ビンディングと呼ばれる器具で靴に装着します。

ポイント:前方に突き出る爪はフロントポイント、もしくは前爪と呼ばれます。

リンキングバー(ジョイントバー):ここでアイゼンの長さを靴に合うサイズに調節します。

アンチボールプレート:アイゼンに雪が付着するのを軽減します。

ビンディング:装着方法は「クリップオン」「ハイブリッド」「ストラップオン」の3タイプに分かれます。


ビンディングによる装着方法の違い

3つある装着方法は、靴との一体感と装着できる靴のタイプが異なります。それぞれ違いを確かめておきましょう。

クリップオン

クリップオンタイプのアイゼン(ブラックダイヤモンド/セイバートゥースプロ

靴のつま先とかかと側にある、“コバ”と呼ばれる周囲に張り出した部分に、金属のパーツとクリップを引っ掛けて固定します。靴との一体感にもっとも優れる装着方法です。前後にコバがある靴にしか装着できず、ワンタッチとも呼ばれます。

ハイブリッド

ハイブリッドタイプになると、つま先側のパーツがプラスチック製のハーネスに変わる(ブラックダイヤモンド/セラッククリップ

つま先側はプラスティック製のハーネス、かかと側はコバにクリップを引っ掛けて固定します。つま先にコバがない靴にも対応できる装着方法です。セミワンタッチとも呼ばれます。

ストラップオン

ストラップオンになると、かかと側のパーツもプラスチック製になり、ストラップを締めて固定する(ブラックダイヤモンド/セラックストラップ

つま先側とかかと側の両方をプラスチック製のハーネスで固定する装着方法です。コバがない靴にも装着でき、ストラップもしくはバンド式とも呼ばれます。

爪の本数による用途の違い

左が12本爪アイゼン(グリベル/エアーテック EVO・ニューマチック)。真ん中が10本爪アイゼン(ロストアロー/コンタクトストラップ)。左が6本爪アイゼン(エバニュー/幅調節式6本爪アイゼン

アイゼンは爪の本数で12本爪、10本爪、6本爪に分かれます。特に6本爪は使用に適したエリアがほかの2つと異なるので、正しい使用範囲を覚えましょう。

12本爪

急な雪壁にも対応する雪山登山のスタンダードです。爪が長いモデルは足元の支持力が高まる反面、爪を服や岩に爪を引っ掛けやすく、歩きづらくなる欠点も。歩きやすさを意識した爪の短いモデルもあります。

グリベル/G12 EVO・ニューマチックは登攀向きのアイゼン。前から3番目の爪が長く、2番目の爪は前方に飛び出している

同じグリベルの12本爪アイゼンでも、エアーテックEVO・ニューマチックは歩きやすさを意識したモデル。前から2番目と3番目の爪はあえて短くなっている

10本爪

女性など足が小さい人は10本爪を選んでもOKです。用途は12本爪アイゼンと変わりません。靴のサイズが23cm以下の場合は10本爪アイゼンを検討しましょう。

6本爪

フラットフッティング(足を地面と並行にして置く歩き方)で歩けるほど勾配の緩い地形でスリップを防ぐために使います。前爪がないため、つま先を蹴り込む必要がある急斜面が現れるルートには不向きです。

素材の特徴 クロモリとステンレス

左がクロモリで右はステンレス製。良く見ると爪の先端の形状が異なっている

アイゼンの素材は、クロムモリブデン鋼(以下クロモリ)とステンレスに分かれます。

主流はクロモリで、硬い上に加工しやすいという特徴があるため、爪の先端が鋭利に仕上がっているモデルが多いです。ただ、錆びやすいので、使い終わったら水分をしっかり拭き取るなどメンテナンスが欠かせません。

一方、ステンレスは錆にくい金属として有名です。爪の先端が尖るモデルは少ないですが、それによって行動に支障が出ることはありません。

コラム:登攀用とバックカントリー用

左が登攀用。前方に飛び出る一本の縦爪が特徴(ペツル/ダート)。右はバックカントリー用。アルミニウムで作られているため、とても軽い(ロストアロー/ネーベストラップ

アイゼンには、登攀とバックカントリーを意識したモデルもあります。登攀用のアイゼンは硬い氷壁への刺さりを良くするため、前爪が縦を向いているのが特徴です。前爪が一本しか付いていない“モノポイント”と呼ばれるものもあります。バックカントリー用は軽さを意識して、素材にアルミニウムを使うモデルが主流です。

アイゼンの選び方

アイゼンの選び方は一般縦走用を使う前提で紹介します。ポイントは「爪の本数」「装着方法」「靴との相性」の3つ。漏れなくチェックして、ベストな一台を手に入れましょう。

一般的な雪山登山には12本爪か10本爪

爪の本数は10本以上がスタンダード。最終的には足のサイズで判断しよう

アイゼンの爪の本数に悩んだら、大は小を兼ねるというように、12本爪か10本爪を選んでおくと間違いありません。始めから標高の高い山に行かない場合も、ルートによっては6本爪アイゼンやチェーンスパイクでは安全に行動できないことがあります。12本や10本爪アイゼンがオーバースペックと感じても、独自に判断するのではなく、経験豊富な専門店のスタッフなどに相談するといいでしょう。

装着方法はハイブリッドがおすすめ

中央のモデルがハイブリッドタイプ。アイゼンは同じ商品で装着方法を選べるものが多い。左がクリップオンで、右はストラップオン

クリップオンは「ワンタッチ」と呼ばれることもあり、装着しやすそうに聞こえますが、実はつま先側のパーツをコバに引っ掛けるのが結構面倒。靴との一体感はもっとも高いですが、その分靴との相性もシビアです。

靴との相性で考えると、もっとも融通が利くのはストラップオンです。ビンディングが大きいので扱いやすく、装着しやすいという利点もあります。ただし、靴との一体感には劣ります。

ハイブリッドは、つま先側はプラスチック製のハーネスで装着しやすく、かかと側はクリップで固定するので靴との一体感も申し分ない。不満に感じる要素が少ない装着方法といえるでしょう。

靴との相性が絶対条件

装着したとき、ソールの曲がり具合にアイゼンがフィットするかもチェックポイント。中にはソールが大きく曲がる靴もある

アイゼンを装着する靴の形は、つま先のボリューム、かかとの幅、ソールの曲がり具合など、モデルによって違いがあり、同じモデルでもサイズによって長さがそれぞれ異なります。

そのため、どんな靴にもフィットする夢のようなアイゼンは存在せず、自身の靴と相性のいいモデルを、手作業で見つけないといけません。

靴との相性を軽視すると、装着できても行動中に外れてしまうといった、お粗末なトラブルが起こることも。アイゼンを購入するときは自分の靴を店頭に持ち込み、相性を確かめながら検討しましょう。

ベストなアイゼンを手に入れたら歩行技術を身に付けよう!

雪山の必須装備であるアイゼンは、スリップを防ぎ、急斜面の登り下りをサポートするアイテムです。一般縦走用で、12本爪もしくは10本爪、装着方法はハイブリッドタイプを基準に、靴に実際に装着させながら相性のいいモデルを選びましょう。

ちなみに、アイゼンには歩き方にコツがあり、装着すると雪がない岩の上などではかえって歩きづらく、足などに引っ掛けると転倒する危険もあります。アイゼンを手に入れた=安全に行動できるとは考えず、経験豊富なリーダーや山岳ガイドなどのもとでアイゼンワークのテクニックを学び、慣れるまで練習を重ねましょう。

アイゼンの装着方法はこちらの動画をチェック!


コラム:チェーンスパイクという選択肢

チェーンスパイクは夏の雪渓を通過するときなどにも役立つ便利なアイテムだ(ブラックダイヤモンド/アクセススパイク トラクションディバイス

雪山には12本爪や10本爪アイゼンがおすすめと紹介しましたが、積雪量が少ない山域などには、冬でもチェーンスパイクとトレッキングポールがあれば十分登れる山があります。

冬の登山=雪山=10本爪以上のアイゼン&ピッケルが必要と決めつけるのではなく、もっと簡単に登れる山で、寒い時期の登山に慣れるのも大いにアリ。各自のレベルに合った山を見つけて冬の登山を楽しみましょう。

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プロフィール

吉澤 英晃

1986年生まれ。群馬県出身。大学の探検サークルで登山と出会い、卒業後、山道具を扱う企業の営業マンを約7年勤めた後、ライターとして独立。道具にまつわる記事を中心に登山系メディアで活動する。

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