ゲイター付きブーツを雪も凍結する御座山でインプレッション スカルパ/リベレ TECH OD

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今月のPICK UP スカルパ/リベレ TECH OD [ロストアロー]

価格:52,000円+税
重量:550g(片足)

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最近増えてきた「ゲイター付き」モデル。まずは構造や仕様をチェック!

近年の山岳用ブーツにおける進化の方向のひとつは、冬季用を中心に簡易的なゲイターを備えたモデルが増えてきたことだ。ゲイターはアッパー上部と連結し、雪や小石の侵入を防ぐ働きを持ちつつ、同時に防寒性を向上させているものが多い。今回テストするスカルパの「リベレ TECH OD」は今期登場した新製品で、比較的スリムなシルエットである。ゲイター部分を含めればハイカットモデルにも見えるが、シューレースやアッパーの位置を考慮すれば、実際はミッドカットモデルといってよいだろう。

リベレ TECH ODのゲイターの部分は、伸縮性の素材でできており、一般的なブーツのタンに当たる部分とも一体化している。一方、ベルクロやファスナーはついておらず、使用時には足先からそのまま滑り込ませるようにしてブーツ内に足を入れていくことになる。

前のほうには黒、後ろにはオレンジ色のテープが取り付けられているので、これらを引っ張りつつ足を入れていくのだが、このゲイターの伸縮性はそれほど高いものではなく、しかも最低限の口径にしてあるため、足を入れる際にはかなりの力が必要になる。もちろん人によって足の形状や大きさは異なるので、すんなり足入れできる人も多いだろう。しかし僕の場合は、スムーズに足が滑りこまず、少々手間がかかって面倒だったといわざるを得ない。他のモデルのように、ベルクロやファスナーで開閉できたほうがいいのかもしれないが、足を入れ終われば足なじみは想像以上によかった。

じつはこのゲイターの伸縮性が抑えられているのは、その内側に保温素材が使われているからである。素材は、化学繊維のプリマロフト。この素材はゲイター部分だけではなく、アッパーの裏側まで全面的に広がっている。これはとても暖かそうだ。

唯一プリマロフトが使われていない足裏のインソール(フットベッド)も格子状に網目が入った起毛素材が使われている。これにより、足全体の温かさがキープされているのだ。

このゲイターには防水透湿性が高いアウトドライも採用されており、湿った雪や溶け始めた雪はいうまでもなく、沢の中に足を入れても浸水はない。

ゲイター部分が開閉できるようなデザインであれば、ゲイター部分に隙間ができてしまい、防水性は損なわれる。だからこそ、ベルクロやファスナーが取り付けられていないわけだ。つまりリベレ TECH ODは、ブーツの着脱の容易さよりも、保温性と防水性を重要視したモデルなのである。これはある意味、足首までの高さの防寒防水性長靴というか、防寒防水ソックスともいえるかもしれない。僕は当初、足入れがしにくくて面倒だと思ったが、そういう発想のブーツであると見直せば、このブーツの長所として好意的に感じられた。

リベレ TECH ODは、ゲイターの下部を覆う所にも伸縮性素材を取り入れている。ブーツをはき、上から眺めた写真が以下のものだ。ブーツの甲の大半が隠れ、歩行中にシューレースが木の枝や岩が靴に引っかかるのを防ぎ、汚れを抑える効果も期待できる。

また、この伸縮性のパネルの脇には比較的大きめの突起が付いていて、開閉が可能だ。グローブをしたままでも楽につかめるサイズ感なのは、寒い時期に使うことを想定したブーツならではである。

ベルクロで閉じられるパネルは先端まで完全に開けられるわけではない。だが、シューレースに指をかけてフィット感を調整するのが面倒になるほどでもない。

また、シューレースを通す部分は、硬い金属製のフックやアイレットではなく、柔らかなテープ状。リベレ TECH ODの甲の部分の素材はゲイターと同じ柔らかな伸縮性素材だが、シューレースを締め付けても甲の部分に痛みを感じることはなかった。

シューレースには指でつかめるサイズの小さなパーツがつけられている。このパーツに通したシューレースは引くだけで固定でき、フィット感を簡単に調整できる。

一方、上部のつまみを引けば、シューレースはすぐに緩み、何度でもフィット感を直すことが可能である。

セミワンタッチクランポンも装着可能!
土から雪や氷、様々な路面コンディションでテスト

一通りのチェックを終えた僕は、とうとう歩き始めた。今回のテストの舞台は、御座山。目の前には真っ白な八ヶ岳や奥秩父の山々がそびえているが、栗生登山口にはまったく雪がない。

しかし、それでもいいのだ。リベレ TECH ODは冬季向けではあるが、必ずしも積雪時だけをイメージしたブーツではない。ゲイターと連続したアッパーは柔らかく、ソールのパターンも雪よりも土や岩に向いた形状をしており、むしろ雪がない地面での歩行のほうが得意といえそうである。

このソールは、アッパーの柔らかさに比べると、かなり硬めだ。まるで、低山向けのトレッキングブーツのアッパーに、高所用のアルパインブーツのソールを組み合わせたかのような履き心地なのである。いや、ソール自体というよりも、内部のシャンクも含めた足裏全体の構造が硬いのであろう。

いずれにせよ、これまでの一般的なブーツに慣れていると、少し不思議な履き心地だ。

岩や地面の上でのソールのグリップ力は上々である。

しかし、ソールはしっかり地面をとらえて動かないのに、ブーツの内部の足自体は少しズレて動くような感じがしないでもない。アッパーが柔らかめで、シューレースをキツく締め上げることができない構造なので、このような履き心地になるのだろうか。

このソールは土踏まずのへこんだ部分にも溝が付けられている。ほとんどの一般的なブーツならば、地面に接することが少ないこの部分の溝は省略されているものだが、これは珍しい! 僕はいつもこの部分をかなり意識的に岩の角へ引っかけて歩いており、このような溝のパターンは、個人的には非常に有用であり、うれしくなってしまう。

実際、土踏まずの部分を岩に引っかけてみると、岩の突起をとらえる力は増している。僕のような歩き方をする人にはお勧めである。

さて、相変わらず無雪期同様の登山道を歩いていくと、不動の滝が見えてきた。全面的に真っ白に氷結し、迫力がある。今回のテストは年明け後の1月。晴れていても、山中はさすがに寒い。しかし、雪が積もっている場所はわずかである。

そこからさらに登って尾根の上にたどり着くと、とうとう本格的に雪面が現われた。日光に照らされているために表面は硬く凍り付き、深く踏み抜くような場所はない。だが、それでもくるぶしまで雪に潜り込むこともある。

凍結しかけた雪面でも、リベレ TECH ODの調子は悪くない。少しでも岩が露出していたり、表面がざらついた雪面であれば、難なく歩いていける。

ソールのグリップ力は、雪面の上でも有効のようだ。

先ほど説明したように、リベレ TECH ODは柔らかめのアッパーに対し、硬めのソールを持っている。より詳しくいえば、つま先やかかとの部分もアルパインブーツのように非常に硬い。そしてこのブーツはセミワンタッチクランポン(アイゼン)対応である。

だから、かかとにはクランポンを固定するためのコバ(写真の青い部分)を持っているが、つま先にはコバがなく、かなり丸みを帯びて厚みある形状になっている。

このブーツで雪の斜面を歩いてみると……。

登る際に雪へつま先を蹴り込もうとしても、あまりうまくいかない。当たり前だが、つま先が尖っていないからである。それに対し、下りでかかとを雪面に蹴り込んだときは安定している。つま先に比べればリベレ TECH ODのかかとは、鋭角的だからだ。ブーツだけで雪上を歩くとき、登りは苦手だが、下りは強い、というのがリベレ TECH ODの特徴である。

尾根上では硬く凍結した場所が少しずつ増えてきた。

ブーツのソールのグリップ力だけでは対応できなくなり、僕は持参してきていたクランポンを取り付けた。

今回の僕のクランポンは、セミワンタッチ式とはいえ、いくぶん華奢なタイプだ。しかし、これでも今日の御座山では十分。クランポンのベルトを強く締め付けると、柔らかなアッパーでは圧迫感を覚えるのではないかと思ったが、まったく問題はなかった。

グリップ力、保温性など、6時間の歩行で感じた特性は…

土の部分が見え隠れしながらもますます固く凍結した道をさらに歩き、御座山避難小屋から左折すれば、山頂は目の前だ

快晴で、ほぼ無風。すばらしいコンディションである。しかも登り始めからここまで無人と、静粛を極めている。じつに僕好みの一日だった。

山頂からは改めてリベレ TECH ODの履き心地を確認しつつ、のんびりと下山していった。午前中の往路では完全に凍結していた不動の滝であったが、午後になると一部は溶けてきているようで、岩の上をうっすらと水が流れている。

崩落に注意しながら横に回り込むと、裏には人が通れるくらいの空間が。不動の滝は巨大な柱と化していたことがわかった。この時期の山はやはりおもしろい。

この日の行動時間は、写真を撮りながら6時間程度。気温は-2~3℃だった。プリマロフトを使用したリベレ TECH ODの保温力ならば温かすぎるほどで、かなり汗をかいていたはずだが、ブーツ内に蒸れはほとんど感じなかった。透湿性は十分のようである。ただし、一日歩いた後に伸縮性のゲイターをもつブーツから足を抜くのは、大きな力が必要になって大変だった。ブーツをつかんでもがいているうちに冷えた足は攣りそうになり、足が抜けたときは一安心。この点は改善してもらいたいものだ。

また、アッパーが柔らかく、シューレースで締め付けにくい構造のリベレ TECH ODは、はいているとブーツ内部でいくぶん足がずれる感触がないわけではなかった。わずか1センチにも満たず、せいぜい5㎜くらいのズレなのかもしれないが、その点は少し気になる。今回のようなコンディションであれば、それでもまったく支障なく行動できるが、凍結が進んだ場所でクランポンを取り付けて歩いた場合、そのブーツ内でのズレによって滑りやすい斜面ではバランスを取りにくくなる可能性もないわけではないからだ。もっとも、もともセミワンタッチクランポン対応の仕様だけあって、そこまでハードな雪面を歩くことは想定していないはずなので、僕の要求が高すぎるのかもしれない。

総じて言えるのは、リベレ TECH ODはそれほど過酷ではない冬山で、軽快に行動したいときに有用なブーツだということ。標高が高い八ヶ岳や北アルプスなどの雪山ではもっとタフなブーツが必要だろうが、今回の御座山の標高は2112m。ブーツのセレクトは積雪量や気温など、そのときの山の状態に合わせるのが最優先とはいえ、冬山で使う場合は標高と2000m程度がひとつの目安になりそうだ。状況に応じて使い分けることを前提に、リベレ TECH ODは一足持っていると寒い時期にはとても役立ちそうなブーツなのであった。

プロフィール

高橋 庄太郎

宮城県仙台市出身。山岳・アウトドアライター。 山、海、川を旅し、山岳・アウトドア専門誌で執筆。特に好きなのは、ソロで行う長距離&長期間の山の縦走、海や川のカヤック・ツーリングなど。こだわりは「できるだけ日帰りではなく、一泊だけでもテントで眠る」。『テント泊登山の基本テクニック』(山と溪谷社)、『トレッキング実践学』(peacs)ほか著書多数。
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高橋庄太郎の山MONO語り

山岳・アウトドアライター、高橋庄太郎さんが、最新山道具を使ってレポートする連載。さまざまな角度からアウトドアグッズを確認し、その使用感と特徴を余すことなくレポート!

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