山岳・風景写真の教科書 第6回 シャッタースピードと三脚

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今回は露出も意識しながら、動きを表現するシャッタースピードに注目して解説します。さらに、カメラの撮影モードや、三脚を持っていく理由についてもお話します。

文・写真=菊池哲男


写真の露出(明るさ)を決めるファクターとしてレンズの絞り、カメラのシャッタースピード、そしてISO感度があると第5回(露出とダイナミックレンジ)で解説しました。絞り値は同時にピントに関わる被写界深度に影響するということは第4回(ピントと被写界深度)でわかりました。今回のシャッタースピードは動きのある被写体の表現に影響します。下の滝の写真はすべて同じ場所で、シャッタースピードを変えて撮影したものです。水が岩にぶつかって飛び散る様を力強く表現するためシャッタースピードを高速の1/500秒に設定したり、水流を滑らかに表現するためシャッタースピードを低速の1秒に設定したりしています。滝の印象が大分変わることがわかると思います。

[作例]
鳥海山麓・元滝伏流水

使用カメラ・レンズ Nikon Z 8 NIKKOR Z24-70mm f/2.8

シャッタースピードは
1/60秒で見た印象に近い

撮影データ

絞り F4
シャッタースピード 1/60秒
ISO感度 400

シャッタースピードを
高速の1/500秒にして水しぶきを表現

撮影データ

絞り F2.8
シャッタースピード 1/500秒
ISO感度 1000

シャッタースピードを
低速の1秒にして水流の滑らかさを表現

撮影データ

絞り F16
シャッタースピード 1秒
ISO感度 100

露出が同じでも絞りやシャッタースピードは変えられる

露出を決める際にカメラ任せにするばかりでなく、前項で解説したようにシャッタースピード等を自分で設定することで表現の幅が広がります。同じ露出でも、絞りやシャッタースピード、そしてISO感度を変えることでさまざまな組み合わせができます。下の表の横の列は同じ露出になる組み合わせの例です。つまり、明るさをベストに保ったまま絞りやシャッタースピードは調整可能です。そうすることで主題を明確にできます。

絞り シャッタースピード ISO感度
F8 1/250秒 100
F11 1/125秒 100
F5.6 1/500秒 100
F5.6 1/2000秒 400
F4 1/4000秒 400

一般的なカメラの撮影モードは4つ

登山中、通常はプログラムオートのカメラ任せで撮影していてもよいですが、カメラは何を撮りたいのか理解してくれるわけではありません。したがって撮りたい被写体に出会ったときにはプログラムオートを卒業し、自分で絞りやシャッタースピードを設定することがさらなるステップアップにつながります。上の写真-1はプログラムオート、写真-2、3は三脚を利用してマニュアルで撮影しました。

プログラムオート

シャッタースピードと絞りをカメラが決める

絞り優先オート

自分で絞りを決めるとカメラがシャッタースピードを決める

シャッタースピード優先オート

自分でシャッタースピードを決めるとカメラが絞りを決める

マニュアル

自分で絞りもシャッタースピードも決める

三脚持参のススメ

山で出会う、撮りたいシーンの中では低速シャッター・長時間露光になることが多々あります。たとえば滝や、朝夕の暗い時間帯や星空などです。これらは長時間シャッタ―を開き、多くの光を取り入れるので写真がブレやすいです。ある程度なら手振れ防止機能等で対応もできますが、それにも限界があります。そのため、カメラを固定する三脚が必須になります。山や風景、星景写真を撮る人が必ずと言っていいほど三脚を持参する理由がここにあります。最近は天の川やオーロラが写せるナイトモードのついたスマホが増えてきました。しかし画面を拡大してみたら、被写体がブレているのがわかるので、たとえスマホでも固定する三脚は必要です。構図にこだわらなければ、岩に立てかけたり、ベンチの上に置くだけでも撮ることはできますが、自由なアングルで撮影できないもどかしさを感じるでしょう。

三脚メーカー・レオフォトのショールーム(埼玉県川口市)。所狭しとさまざまなポールの長さ、太さ、重量などが違う三脚が並ぶ
鳥海山麓・元滝伏流水で三脚を立てて撮影する筆者

『山と溪谷』2024年10月号より転載)

プロフィール

菊池哲男(きくち・てつお)

写真家。写真集の出版のほか、山岳・写真雑誌での執筆や写真教室・撮影ツアーの講師などとして活躍。白馬村に自身の山岳フォトアートギャラリーがある。東京都写真美術館収蔵作家、公益社団法人日本写真家協会(JPS)会員、日本写真協会(PSJ)会員。

山と溪谷編集部

『山と溪谷』2026年1月号の特集は「美しき日本百名山」。百名山が最も輝く季節の写真とともに、名山たる所以を一挙紹介する。別冊付録は「日本百名山地図帳2026」と「山の便利帳2026」。

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『山と溪谷』で2024年5月から連載の『山岳・風景写真の教科書』から転載。写真家の菊池哲男さんが山の写真を撮る楽しみをお伝えします。

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