観察や撮影のポイントを押さえよう! 春の花を10倍楽しむQ&A【山と溪谷3月号】
雑誌『山と溪谷』2025年3月号の特集は「春、花の低山へ」。春の訪れを告げるカタクリ、ニリンソウなどのスプリング・エフェメラル。山を華やかに彩るサクラ、ツツジ……。自然の息吹を感じるこんな季節には、のんびり花を楽しめる低山がおすすめ。春の花を愛でる、あの花に会える、ぽかぽかハイキングコースを多数紹介している。特集の中から、植物研究家のいがりさんに花ハイキングの秘訣を聞いたQ&Aの記事を一部抜粋して紹介しよう。
文・写真=いがりまさし、構成=小林千穂、イラスト=Neri

春の低山歩きの主役はなんといっても花ではないだろうか。もちろん夏や秋に花期を迎える植物もあるが、特に低山では、春に花を咲かせるものが多く、色や形のバラエティーも豊かだ。長かった冬が終わり、大地から命がほとばしるような春のいっせい開花は、大きなよろこびを与えてくれる。
その春の花、よくよく観察すると、それぞれがそれぞれの生活戦略をもち、気候や地質などによってすみ分けていることに気づく。そんな違いを楽しんだり、カメラに収めたりと、いろいろに楽しめるのも魅力。さあ、楽しい花ハイキングの入り口へご案内しよう。
Q.花の時期を逃さないためには? A.桜前線が参考になります
私が植物写真を始めたころはインターネットがなく、あらゆる文献のデータを総合し、花期を推測していた。予測が難しく、職人芸のようだった。
今でも難しいが、情報の基本となるのは、桜の開花日(桜前線)だ。見たい植物の開花が桜(ソメイヨシノ)とどのくらい差があるのか覚えておくと目安になる。カタクリはやや早め、ヤマブキソウなら少し後といった具合だ。
また、桜前線は街なかの木が基準なので、山はやや遅れる。春の雪解けも開花を大きく左右させる要素だ。雪の多い地方ほど年による花期のブレは大きくなりがちである。
3カ月予報など、気象庁の長期予報も参考になるが、最も確実なのは「咲いていた」というSNSなどリアルタイムの情報だ。
しかし、足の早い春の花のこと。2、3日でピークを過ぎてしまうことも少なくない。その予測の難しさこそが、また、春の花探索のおもしろさでもある。
桜前線
ソメイヨシノの開花日(平年)

Q.「花の当たり年」って本当にあるの? A.種類によりますが、木の花は隔年で咲く傾向があります
コブシやタムシバ、ブナやツツジなどは、生り年(なりどし=当たり年)と裏年(うらどし)があるのが知られている。隔年の生り年と裏年に加えて、数年に一度の大生り年がある。これは、実を食べる動物などの数を調節する機能だといわれている。
また、木の花は夏が酷暑で渇水気味の翌年によく咲くともいわれる。条件が悪くなると、種子で別の場所に移動しようとするためだと考えれば説明がつく。
一方、春に咲く草の花の場合は、冬が寒い年によく咲く傾向がある。これは寒さにあたると花芽ができる性質があるためだ。
今年は、その二つの条件が揃い、さらに隔年で生り年の傾向がある西暦奇数年なので、木も草もよく咲くのではないかと期待している。
Q.スプリング・エフェメラルってなに? A.春一番に咲いて消える野草のことです
「エフェメラル」とは「はかなきもの」を意味する英語。春早くに花を咲かせ、夏を待たずに地上から姿を消してしまう多年草のことを意味している。落葉樹の葉が茂る前に開花、結実、光合成というすべての仕事をこなし、次の春まで休眠する植物である。短い期間に受粉して結実しなくてはならないので、花粉を運ぶ虫を効率よく呼ぶためか、比較的大きくて目立つ花を咲かせるものが多いのも特徴だ。
地上に姿を見せるのは、一年のうちで2〜3カ月だが、その代わり花が咲くまでに7〜8年かかるものが多い。一般に落葉樹林に適応していると考えられているが、北海道などではオオイタドリのような高茎草原に見られる群落も少なくない。
スプリング・エフェメラルではないが、ミスミソウのように開花・結実は春早く済ませてしまうものの、暗くなった落葉樹林の下で一年中、葉を広げてほそぼそと光合成をする植物もある。
【スプリング・エフェメラルの代表種】
- エゾエンゴサク
- カタクリ
- アマナ
- コシノコバイモ
- ミヤマエンレイソウ
- フクジュソウ
- アズマイチゲ
- イチリンソウ
- セツブンソウ
- ハシリドコロ
フクジュソウの一年

Q.たくさんの種類の花を見るにはどうしたらいい? A.沢から登るコースがおすすめです
植物観察を目的とする登山の基本は「沢歩き」。山頂に行くまでには必ず尾根を通るわけだから、沢からスタートするコースなら、谷筋から尾根までのさまざまな環境にある植物を見られる。特に春は谷筋に咲くものが多く、その点でも沢から登るコースは植物観察に適している。
たとえば高尾山なら日影沢(ひかげさわ)コースがおすすめ。沢沿いではタカオスミレやヨゴレネコノメなどが見られ、尾根ではアケボノスミレやクサボケなどが多くなる。もうひとつは、地質に変化のある山を探すことだろう。石灰岩(埼玉県秩父山地/セツブンソウ、フクジュソウなど)、カンラン岩(北海道アポイ岳/アポイアズマギクなど)の山は、周辺とは違う植物が見られる可能性が高い。
Q.カタクリの花はどんな条件で開くの? A.好天時の日中に開きます。朝早すぎると閉じていることも
私の体験では、カタクリやフクジュソウの開閉には、明るさよりも温度がより強く関係しているのではないかと感じている。
カタクリの場合、朝早くは閉じていて、日が差してしばらくしてやっと開き始める。一方、暖かい日なら夕方日没前まで開いているものも目にする。また、暖かい霧の日に開花しているフクジュソウや、日が差しているのに閉じかけている寒い日のカタクリを見たこともある。観察には晴れた暖かな日がおすすめだ。
早朝は閉じている
明るくなっても気温が上がらないとなかなか開かない

暖かくなると・・・
日が差していなくても気温が上がれば開き始める

夕方でも暖かい日は・・・
日が陰り始めた夕方だが気温が高いのでよく開いていた

雑誌『山と溪谷』2025年3月号の特集ページでは、スプリング・エフェメラルやサクラといった春の花の秘密をさらに詳しく紹介している。
(『山と溪谷』2025年3月号より転載)
プロフィール
山と溪谷編集部
『山と溪谷』2026年1月号の特集は「美しき日本百名山」。百名山が最も輝く季節の写真とともに、名山たる所以を一挙紹介する。別冊付録は「日本百名山地図帳2026」と「山の便利帳2026」。
雑誌『山と溪谷』特集より
1930年創刊の登山雑誌『山と溪谷』の最新号から、秀逸な特集記事を抜粋してお届けします。
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