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初夏の山でおなじみのキビタキ。巣は“ふかふか”の布団!?

From 『図鑑.jp』 山で出会う「これ何?」を教えます
たしなみ 2018年05月24日

春から初夏の山では、「チピヒ」という野鳥のさえずりをよく耳にする。その声の主こそ「キビタキ」。彼らの巣は落ち葉を積み上げて、その上に作るらしい。なぜキビタキは、ふかふかの布団を用意するのだろうか。

 

こんにちは。NPO法人バードリサーチの高木憲太郎です。バードリサーチは個体数の減少など鳥たちからのサインをいち早く察知し、彼らの危機を未然に防ぐため、会員参加型の調査を全国で実施している団体です。

わたしは、カラス同様に嫌われることが多いカワウと人との仲直りのための手立てを考える業務に携わりながら、ミヤマガラスやキビタキなどの分布や初認時期などの参加型調査を実施してきました。

昨年からは、高山のハイマツを食べるホシガラスの分布を調べる調査をしています。この調査では、登山者の皆さんの参加を得ることで、ほかの鳥も含めた高山の鳥の生息状況を把握できる形を作っていきたいと思っています。

この記事では毎月、登山の際に出会える鳥を紹介していきます。皆さんに少しでも、鳥のことを知って、興味を持ってもらいたい。図鑑的な情報ではなく、彼らの生きざまを面白く伝えられたら嬉しいです。

今回紹介する鳥は「キビタキ」です。春から初夏の山に登れば、必ず一度は声を聞いたことがあるはずの鳥、キビタキ。

★図鑑jpで、キビタキについて詳しく調べる

一時は個体数の減少が心配されたこともある鳥なのですが、近年は個体数が増えているようで、山だけでなく平地の公園でも繁殖するようになりました。今回は、私にとってゆかりあるこの鳥を紹介しようと思います。

キビタキ雄(写真=神永功)

キビタキ

全長: 約13.6cm(スズメよりやや小さい)
外見: 雄は上面が黒く、下面は黄色い。眉斑と腰は黄色く翼に白斑がある。個体差があるが喉は橙。雌の上面は淡褐色で下面は白い。

キビタキの鳴き声は、バードリサーチの“さえずりナビ”の解説ページからどうぞ。さえずりや地鳴きなどのほか、喧嘩の際の特殊な声なども聴くことができます。

⇒鳴き声はこちら

 

いろんな森で出会えるキビタキ

キビタキが平地の公園でも繁殖するようになる少し前の話になります。何人かの仲間が、キビタキを研究するフィールドをあちこち探し、ここと決めた場所がありました。それが富士山の北西に広がる青木ヶ原の樹海です。ヒノキが優占するこの森は、ほどよく落葉広葉樹が混ざっていたためか、キビタキの生息密度が高く調査効率が良いというのが、選ばれた理由のひとつでした。

全国的にみても落葉広葉樹林や針広混交林で繁殖していることが多いようですが、竹林や常緑針葉樹林、照葉樹林、カラマツ林、農耕地などでも繁殖しており、環境選択の幅は実に広いのです。その背景には、彼らの営巣場所の好みが関係していそうです。

キビタキは枯死木にある入り口の広い樹洞に巣を作るのを好みます。枯れて折れた幹の断面、材が朽ちてまわりの樹皮が残りカップ状になったような場所に作られた巣もありました。

キツツキが空けた入口の狭いちゃんとした樹洞じゃなくてもよいのですから、枯死木さえあれば営巣場所に困ることは無さそうです。

幹の断面に作られたキビタキの巣とそのヒナ(写真=岡久雄二)

※ 今回の記事で使用した写真は、研究の際に撮影されたものをお借りしています。鳥へ負担をかけてしまうため、撮影などで鳥の巣に近づくことのないようお願いいたします。

管理が行き届いている林では、育ちの悪い木や枯れた木などは伐採されて残っていないことも多いですが、近年は管理が行き届かなくなった林も増えています。森の成熟とともに枯死木が増え、それらが伐採されずに残されるようになったことが、キビタキの子育てを助けているのかもしれません。

 

ふかふかの布団で眠るキビタキの謎

この青木ヶ原のキビタキの生態は、当時大学生だった岡久雄二という青年が明らかにしていきました。彼は、来る日も来る日もこの森に籠り、キビタキを追い続け、その巣を見つけていきました。鳥の行動や生態を研究する際、巣を見つけて、卵やヒナの数をかぞえるのは大事な仕事です。鬱蒼とした森の中での孤独と戦い、研究成果を積み重ねて博士号をとり、彼は今、佐渡で生き物に関わる職に就いています。

研究の苦労話や成果の話も面白いのですが、ここでは、彼が見つけていったキビタキの巣の話をしようと思います。あくまでも、私がふれた一部の巣からのインスピレーションにもとづく物語です。

この鳥の巣は実に寝心地が良さそうで、わたしは大好きなのです。巣作りをしているキビタキは、せっせと地上に降りては落ち葉を拾い、巣に積み上げていきます。そして、穴の縁の高さまでわんさか積み上げ、その上に“でんっ”と座ります。他の小鳥の巣はこんなにたくさんの落ち葉を積み上げないので(ゴジュウカラは積み上げます)、そのふかふか度合いはきっと群を抜くに違いありません。

皆さんは、かき集めた落ち葉に火をつける前、その上に寝そべった経験はあるでしょうか? きっと、あんな感じでしょう(実際のキビタキの巣は落ち葉の上に植物の繊維や動物の毛などを使ってカップ状の産座を作るので、ちょっと違うはずですが)。

抱卵するキビタキ雌(写真=岡久雄二)

 

しかし、なぜ、そんなにふかふかにするのでしょうか? 夢心地の妄想から離脱して、少し真面目に考えてみようと思います。

まず思いついたのは、彼らがふかふかを目指すのは、寝心地ではなく、排水の問題かもしれない、ということです。カラスの巣のような木の枝を組んだものは、雨が降っても水はすぐに下に抜けていきます。雨が吹き込むような樹洞にあるキビタキの巣は、底が塞がっていると、大雨の時に水が溜まって水没するに違いありません。ヒナが濡れて体が冷えれば死んでしまいます。親はそれを恐れているのかもしれません。

別の視点からも考えてみましょう。入口の狭い樹洞だと、恐ろしいヘビや他の捕食者も簡単には入り込めません。ところが、キビタキが営巣する樹洞は入口がとても広いのです。入口から捕食者が侵入してきたら、卵やヒナを抱いている親鳥も逃げることができず、食べられてしまうかもしれません。そうしたら、一巻の終わりです。

せめて、自分だけでも逃げ出すことができれば、もう一度繁殖し直すことができます。彼女たちが「開口部の広いこの巣では、捕食者の接近に対して、警戒を怠ることはできない」、そう考えるのは頷けます。

よく、キビタキ巣を見直してみましょう。確かに、キビタキの母親は開口部から顔を出し、鋭い視線を油断なく左右に走らせている・・・ようにも見えます。見張りのために、底上げが必要だったというのが真相かもしれません。私の推理は、答えを言い当てているでしょうか?

 

北上するキビタキ前線

鳥、というのは実にうらやましいことに、空を自由に飛ぶことができます。我々人間には飛行機がなければ行けないようなフィリピンやボルネオ、オーストラリアなどへも、ひとっ飛びです。

実のところ、どこで越冬しているのか定かではありませんが、キビタキは東南アジアのいずこかで冬を過ごし、春になると日本に帰ってくる渡り鳥です。春がやってくるとそわそわしてしまうのはわたしだけでなく、同じように夏鳥の渡来を待ちわびてそわそわしてしまう大勢の仲間がいます。その仲間たちから、いつキビタキが帰ってきたのか情報を集めると、面白いことに、ソメイヨシノの開花前線のように、南から北に向けてキビタキの渡来前線が描けるのです。

キビタキの初認日/観察された日を集計した2009年の北上前線

 

なかには気の早い個体もいますが、多くは4月上旬に九州に渡来し、北海道までやってくるのはゴールデンウィークを過ぎたあたりです。この原稿が掲載される頃には、日本中にキビタキが帰ってきていることでしょう。

狙い目は、梅雨入り前の標高1,000mから1,500mあたりの針広混交林。キビタキのさえずりを聞きながら、せっせと落ち葉を集める姿や、雄大な渡りを想像しつつ、本格的な夏山シーズンを前に、新緑の森を歩いていただけたらと思います。いつもの登山道が、ちょっと違って感じられたら、あなたは、もう、私たちの仲間です。

 

自然観察 知識・雑学
教えてくれた人

高木 憲太郎

NPO法人バードリサーチ研究員。全国の会員と共に鳥の生息状況の調査(最近はホシガラス)を行なっているほか、人と軋轢のある鳥の問題解決に取り組む。
 ⇒NPO法人バードリサーチ

調査プロジェクト<「ホシガラスを探せ!!」
このプロジェクトでは、ホシガラスの目撃情報を集めています。
 ⇒ホシガラスを探せ!! Webサイト

図鑑読み放題サービス 『図鑑.jp』

主に中・上級者の愛好家向けの生物図鑑類を電子書籍化して、ジャンルごとに読み放題とするウェブサービス。「植物」「野鳥」「菌類」の3各ジャンルを提供中で、出版社のほか博物館やNPO法人を含む6社2機関の専門性の高い生物図鑑を提供中。
図鑑群を和名、学名、科名で横断検索できるほか、図鑑についての追補や種についてのコラム、ユーザが種について投稿したものを図鑑とともに検索できるなどの独自の機能を持ったジャンル特化型のプラットフォームです。

⇒図鑑読み放題サービス 図鑑.jp

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