南アルプス南部調査人、四国遍路を歩く⑫香川県の遍路道 区間ごとのアドバイス

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弘法大師・空海が修行した地・四国と、ゆかりの八十八寺をお参りする巡礼・四国遍路。南アルプス南部を主なフィールドとして長らく山歩きに傾注してきた筆者が、数カ月にわたって通い続け、歩き遍路を結願(けちがん、すべての霊場を回り終えること)した。その記録とともに、登山経験豊富な筆者ならではのアドバイスをつづっていく。

写真・文=岸田 明

目次

【区間2】第八十一番国分寺~第八十八番大窪寺 3泊4日
公共交通の区切り:国分駅~大窪寺(バス)

国分寺からは台地状の五色台に登る。峠である一本松までは、「遍路ころがし」に挙げられている1時間あまりの急な登りになっている。峠から舗装道をだらだらと下り、旧遍路道に入りさらに下れば第八十一番白峯寺(しろみねじ)に着く。白峯寺は秋にはライトアップされるモミジの名所である。森の中に階段状に沢山のお堂が点在し、とても美しく雰囲気のある霊場だ。

歩いてきた山道を戻り、分岐から先そのまま山道を歩き、舗装道、山道と1時間半ほどつないでようやく第八十二番根香寺(ねごろじ)に着く。根香寺も白峯寺に少しも引けを取らない、非常に美しく雰囲気のある霊場だ。第八十三番一宮寺までは来た道を戻り、遍路小屋のある肩から長い下り坂で盆栽の生産地を抜けて後、鬼無(きなし)からさらに市街地を歩く。ちなみに一宮寺には、かわいい傘みくじがある。

遠くに見える屋島をめざして高松市を抜ける。第八十四番屋島寺(やしまじ)は300mの台地の上にあるので、結構なアルバイトである。しかし途中に史跡もあり、歴史的なお寺に登るその充実感は充分にある。屋島寺からの下りは登りとは比較できないほどの急傾斜を降下するので、降雨時は来た道を戻って屋島の裾野に沿って歩くほうがよいだろう。

下りきった所にある相引川にかかる橋から第八十五番八栗寺(やくりじ)への遍路道の脇には、遍路の父・真念の墓所があるので、結願直前の報告にお参りしたいところだ。八栗寺へは再度の登山で本堂まで200m程度あり、一部は本格的な山道になっている。

五剣山(ごけんざん)の岩峰を借景とした八栗寺の姿は、強い霊力を感じさせる。下界への下りは舗装道で問題ない。第八十六番志度寺(しどじ)の直前には、エレキテルで有名な江戸時代の科学者・平賀源内(ひらがげんない)の旧家と記念館があり、ゆっくり見学したい所だ。

志度寺は草木の豊かなお寺だ。第八十七番長尾寺(ながおじ)は里にある最後の霊場で、クスノキが立派だ。いよいよ結願寺・第八十八番大窪寺をめざして、山間部に入る。次第に勾配が急になり、前山ダムの堰堤を過ぎると、おへんろ交流サロンに着く。ここは歩き遍路と自転車遍路に対しては、四国八十八ヶ所遍路大使任命書とバッジを交付してくれるので、必ず立ち寄ろう。

大窪寺へは女体山(にょたいさん)越えと旧道があり、所要時間は3時間半前後と大差はないが、山越えの方がやや時間がかかる。また女体山越えは完全な山越えで、しかも女体山山頂直前は遍路道全体を通して最も厳しい岩場の登りが待っている。雨の日や、登山に自信のない遍路は旧道を行こう。旧道は途中に見るべき物も多いし、女体山越えと比べてもなんら遜色はない。

逆に女体山越えの場合、山門、仁王門を通らずに大窪寺境内に入ってしまうので、拍子抜けの感もある。さらに女体山から大窪寺への下りは、現時点では、陸上競技のハードル走の状態のような道であることも念頭に置く必要がある。

〉女体山越えの山頂直前の岩場の急登。山慣れた人間でも緊張する
女体山越えの山頂直前の岩場の急登。山慣れた人間でも緊張する

ついに第八十八番大窪寺に着いた。結願だ。大窪寺は大きな霊場で、山門も2つある。また本堂と大師堂も少し離れた場所にあり、緑に覆われた山の空気を思う存分に吸い、長かった遍路を振り返って、感激に浸りたい。

と書いたものの実のところ筆者は、約1200kmも歩きつないできた感激はさほどなかった。これが回遊型の巡礼路の特性なのかもわからない。それもあるが大窪寺から先、信仰的な意味は少ないものの、第一番の霊山寺までつないで歩いた際の霊山寺の山門を見たときの達成感は大きなものがあった。

●アドバイス
この区間では、ルート取りに関して悩む区間が2カ所ある。まずは白峯寺から根香寺で、一部打ち戻りになる。これは避けたい気もするが国分寺からの場合ほかに選択肢はなく、また両霊場は台地状の山・五色台の肩にあるので下界に降りるわけにもいかない。なお十九丁接待所のある山道は状態がよく誰でも問題なく歩けるので、あえて舗装道を歩く必要はない。根香寺から一宮寺へも遍路小屋までは打ち戻りになる。なお朝に国分寺を出ると、根香寺の先で昼になるので、昼食を用意したほうがベターだ。

2つ目の区間は一宮寺から屋島寺への道選びで、非常に悩む所だ。単純には県道172号を北上して御坊川(ごぼがわ)に沿って右折すればよいのだが、172号は道幅が狭く交通量も多い。筆者は道の雰囲気のよいクランクの連続する道で屋島寺をめざしたが、なにしろわかりにくい。とはいうものの、時々遠くに特徴的な形の屋島が見えるので、それをめざせばどう歩いても問題なく屋島に着ける。

〉春日川河畔から見た屋島
春日川河畔から見た屋島

MAP&DATA

高低図
最適日数:2泊3日
コースタイム: 21時間20分
行程:【1日目】
第八十番国分寺・・・一本杉・・・根香寺遍路道分岐・・・第八十一番白峯寺・・・根香寺遍路道分岐・・・十九丁接待所・・・ヘンロ小屋・五色台・第51号・・・第八十二番根香寺・・・ヘンロ小屋・五色台・第51号・・・林道・・・鬼無駅交差点・・・高松自動車道・・・第八十三番一宮寺(周辺宿泊想定)

【2日目】
第八十三番一宮寺・・・伏石駅・・・高松木太町郵便局・・・潟元駅・・・遍照院・・・第八十四番屋島寺・・・安徳天皇社・・・相引川橋右岸・・・八栗寺登山口駅・・・第八十五番八栗寺・・・二ッ池・・・塩屋駅・・・第八十六番志度寺(周辺宿泊想定)

【3日目】
第八十六番志度寺・・・オレンジタウン駅入口・・・鴨部川広瀬橋・・・第八十七番長尾寺・・・梅ヶ畑の橋・・・前山ダム・・・前山おへんろ交流サロン・・・峠の地蔵・・・大窪寺遍路道分岐・・・天体望遠鏡博物館・・・大窪寺遍路道入口・・・第八十八番大窪寺(結願後周辺宿泊)
総歩行距離:約74,727m
累積標高差:上り 約1960m 下り 約1551m
コース定数:81

結願後に関して

結願後に関しては、大窪寺からバスで帰ることにすれば、琴電・長尾駅(大川バス本社前)経由のJR/琴電・志度(しど)駅までコミュニティバスが利用できる。結願の感激に一晩浸りたいのであれば、大窪寺門前の民宿と少々離れるが立派な宿もある。

満願を目指して第一番霊山寺に歩いて戻るのであれば、近くの遍路道上に宿はないのでその日は大窪寺周辺泊で、さらに途中もう一泊必要になる。第十番切幡寺(きりはたじ)、あるいは第九番法輪寺(ほうりんじ)で満願とする場合は、大窪寺から半日行程だ。

以上、香川県の遍路道について説明したが、次回以降のコラムでは、霊山寺への道と全体のまとめとして雑感を述べたい。

〉結願の後、大窪寺の本堂前にて。前日同宿だった遍路仲間に撮ってもらう。この日は雨で女体山越えは諦め、旧道から大窪寺に入った
結願の後、大窪寺の本堂前にて。前日同宿だった遍路仲間に撮ってもらう。この日は雨で女体山越えは諦め、旧道から大窪寺に入った
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プロフィール

岸田 明(きしだ・あきら)

東京都生まれ。中学時代からワンゲルで自然に親しんできた。南アルプス南部専門家を自認し、今までに当山域に500日以上入山。著書に『ヤマケイアルペンガイド南アルプス』(共著・山と溪谷社)、『山と高原地図 塩見・赤石・聖岳』(共著・昭文社)のほか、雑誌『山と溪谷』に多数寄稿。ブログ『南アルプス南部調査人』を発信中。山渓オンラインに記事多数投稿。また最近は四国遍路の投稿が多い。

四国遍路の記事:https://www.yamakei-online.com/yama-ya/group.php?gid=143/

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