
我が子にぴったりの子連れ夏山プランを! 山ママが教える、失敗しない登山計画の立て方【前編】
夏は、子どもと少し大きな山に登るチャンス! 愛知在住の山ママライター・マリベさんが、幼児や小学生のお子さんがいる親や祖父母に向けて、登山計画のコツを丁寧にお伝えします。子どもや孫と初めて山に登る方はもちろん、「何度か行ったけれど、うまく計画できているか不安」という方にも役立つ内容です。前編は、おすすめの山の条件と高山病対策を中心に解説します。
文・写真=寺井真理(マリベ)
はじめに
親子登山を10年、150回以上続けてきた山ママライター・マリベです。この記事では、夏休みに子どもと山に行こうと考えている方に向けて、当日の歩き方より前に大切な、計画づくりの基本を前編、後編に分けてお伝えします。高山病の話や、年齢に応じた山選び、子どものやる気を引き出す工夫、装備のことなど、初めての親子登山に役立つ内容をギュッと詰めました。
「登山は登る前から始まっている」という言葉は、子連れ登山にも当てはまります。むしろ子どもと登るときこそ、計画と準備が大切です。
子どもと一緒に行き先を決める
最初に、登る山を子どもと一緒に決めてみませんか? たとえ子どもが「富士山しか知らない」状態だったとしても、心配いりません。山には、子どもの好奇心を刺激するキーワードがたくさんあります。たとえば――
「虫や花を見たい」
「乗り物に乗りたい(ロープウェイや高原バスなど)」
「山小屋に泊まってみたい」
「山の上でキャンプしたい」
「川で遊びたい」
「雪を見たい」
なにか子どものアンテナに引っかかるものがあるはずです。親がすべて決めるのではなく、「やってみたい!」を起点に計画を立てれば、子どもも主体的に登山にかかわってくれます。
筆者の息子は、3歳の頃から、東海道新幹線の背後に写る富士山に興味を持っていました。4歳になると「富士山に登りたい」と言い出したので、「それは無理だよ!」と否定しそうになる気持ちを抑え、「日本一高い山だから今は登れないけど、富士山を近くで見よう」と、宝永山(ほうえいざん)に登る計画を立てたり、「富士山に登れる力があるか、腕試しに行こう」と、乗鞍岳(のりくらだけ)に連れて行ったりしました。
雪が見たいなら立山(たてやま)、花が好きなら入笠山(にゅうかさやま)や栂池自然園(つがいけしぜんえん)など、子どもの興味を尊重したテーマのある山選びをしましょう。
次に、“初めての夏の子連れ登山”に向く、山選びのポイントを紹介していきます。
子連れ登山、おすすめの山の条件
親、祖父母が登ったことのある山
インターネットで情報が得られる時代とはいえ、実際に歩いたことのある山を選ぶ安心感は別格です。自分が登ったことのある山なら、山頂までのルートに確信を持て、トイレの位置なども把握しやすいはず。「この山、お父さん登ったことがあるんだ」「昔、おじいちゃんと行ったなあ」なんて会話が生まれるのも、家族登山の楽しみ。子どもの不安も和らぎます。
乗り物でほとんど山頂まで行ける山
ロープウェイや高原バスなどの乗り物が使える山は、子どもと夏山を楽しむのにぴったり。無理なく、標高の高い場所にアクセスでき、涼しさ・景色・登頂の達成感を短時間で味わえます。そのうえ、乗り物自体が子どもにとっては非日常のアトラクション。マイカー利用で高所にアクセスできるスカイラインや峠道のある山もいいですね。
注意点もあります。気軽に高所に登れる山は観光地としても人気が高いため、混雑や駐車場の空き状況に配慮した計画が必要です。特に夏休みの週末は早朝から混み合います。また標高の高いエリアは高山病を発症するリスクがあり、それについては次の項目でくわしくお伝えします。
山頂や山麓にごほうびが待っている山
なにより楽しさで行動を決めるのが子ども。がんばった後の特別なごほうびは、子どもが山に登る理由そのものというほど重要です。例えば、
- 山小屋のアイスクリーム
- 山で食べるカップラーメン
- キャンプ場で川遊び
- 下山後の温泉
- 近くにある動物園や公園の遊具 などがあります。
それゆえ、「約束していたソフトクリームの売店が終わっていた!」というちょっとしたアクシデントも悲劇に発展しがち。子どものお楽しみを守るため、事前に営業日や時間をチェックしておきましょう。
自宅から遠すぎない山
移動時間が長すぎると、子どもにはストレスです。片道2~3時間までが理想ですが、それ以上かかる場合は、「前日を移動日に充てて、山麓に宿泊する」「明け方の出発で、子どもが眠っているあいだに移動する」などの工夫をして気遣いたいですね。
夏山登山で注意したい、高山病
夏は、子連れで標高2000~2500m以上の高い山にチャレンジできる季節。ロープウェイなどを使って一気に標高を上げれば、難しくありません。しかし、標高が高い山で気をつけたいのが高山病。空気の薄い環境に体がうまく適応できず、酸素が欠乏して起こる病気です。健康な大人でも標高2500mくらいから発症する恐れがあるので、初めての子連れ登山は標高2500m未満の山にしましょう。
発達段階にある子どもは、大人以上に気をつけたいものです。それでも、どうしても行きたい山が標高2500mを超える山だったら? そんなときは、高度順化をして予防に努めます。
親子におすすめの高度順化の方法
高山病を防ぐには、一気に高地へ行かず、徐々に標高を上げて酸素の少ない環境に体を慣らすこと(=高度順化)が大切です。一般に推奨されるのは登山当日や直前の行動で、「山麓の宿に宿泊する」「登山口で体を慣らす」「ペースを上げずに深呼吸して登る」「水分をこまめにとる」といった方法です。
しかし高度順化は、1カ月前から1週間前くらいに行なっても効果が期待できます。筆者は夏が来ると、親子で1カ月ほど前から順応に取り組んでいます。具体的には、「標高1500m~2000m程度のキャンプ場や宿で1泊する」「標高2000m程度の山に日帰り登山する」という方法です。
この方法で乗鞍岳(3026m)や木曽駒ヶ岳(きそこまがたけ、2956m)に挑戦しましたが、幸い子どもは元気で、効果を実感しています。
泊まりがけの登山は厳重注意
実際のところ、日帰り登山では、子どもの様子を観察し、体調に変化があったら即下山するつもりで行動すれば、それほど神経質になることはありません。高山病に特効薬はなく、標高を下げれば下げるほど楽になるので、おかしいと思ったら下山することです。
問題は泊まりがけの登山です。テント場などでくつろいだり眠ったりしているときに、呼吸数が減って酸素を取り込めなくなると高山病を発症しやすくなります。夕刻以降に体調が変化したら、すぐに下山できない状況が考えられますから、宿泊を伴う登山は、高山病のことをよく考えて事前に順応山行をしてから実施してください。
また特別なケースを除き、発達途上の3歳未満の子どもを標高2500m以上の山に連れて行くのはおすすめしません。
後編は、子どもの体力に応じた山を選べるオリジナル方程式や装備選びのコツ、心構えなど、子連れ夏山登山を成功に導くアドバイスをさらに詰め込んでお伝えします。
プロフィール
寺井真理(てらい・まり)
低山親子ハイクから厳冬期の日本アルプスまで、一年を通して山を楽しむ山ママライター。雑誌『山と溪谷』の連載「季節の山歩き」で中部エリアを担当。日本山岳・スポーツクライミング協会公認山岳コーチ2。2025年から親子向け登山教室を実施。二児の母で、山岳会女子として活動しながら150回以上親子登山に出かけ、その奮闘記を綴る。愛知県出身、在住。
Instagram:@terastudio.maribe
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