自然と暮らす覚悟。虫が苦手でも地方移住はできる?

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カサカサ、ブーン、ピョン。夏になると、わが家にはいろいろな訪問者が…。森や田んぼの近くに住んでいると、日常的にいろいろな「虫」と遭遇します。これは長野県に限らず、どの地域でもある話。こんな話を聞くと、「田舎暮らしは無理!」と思う人もいるかもしれませんが、地方移住を考えるならば、自然と付き合う覚悟が必要です。

文・写真=鈴木俊輔

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シオカラトンボ
田んぼを飛び回るシオカラトンボ

虫全般が苦手なのですが…

「やっぱり虫とか多いんですかね?」。長野県への移住を考えているという女性から聞かれた質問。虫が平気な人にとってはどうでもよいことに思えますが、苦手な人にとってはシリアスな悩みかもしれません。シティボーイというわけでもないのですが、じつは私も虫はあまり得意ではありません。「長いもの」から「足がたくさんあるもの」、「動きが速いもの」まで、虫全般が苦手。外での遭遇はともかく、家の中ではあまり出会いたくないものです。

アブラゼミ
夏の音を奏でるアブラゼミ

稲刈り後に現れる侵入者

長野県に移住してから、よく遭遇するのがカメムシです。形も大きさもいろいろで、本で調べたところによると、陸上で生活するカメムシは1000種類以上もあるとか。こちらでよく見かけるのは、クサギカメムシという人差し指のツメくらいの大きさがある種類。特に稲刈りの季節になると大量に発生します。このカメムシは体が大きいわりに、サッシのすき間などから、いとも簡単に家に侵入してきます。わが家の方針で、危険な虫以外はビンで捕獲して外に逃がします(また戻ってくる)。

ご存じの通り、カメムシは刺激を与えると臭いを放ちます。パクチーの香りに似ていなくもないのですが、強烈な臭いで服などにつくとなかなか消えません。時には、外から洗濯物を取り込んで、靴下を履いたら中にカメムシが入っていて…ということも(結果はご想像の通り)。

これは余談ですが、ご飯を食べていると、時々黒っぽい斑点のある米粒があります。これはカメムシがもみからデンプンを吸った痕。斑点米があるとお米の価値が下がってしまうので、田んぼではカメムシを駆除するための農薬がまかれたり、色彩選別機を使って斑点米が取り除かれたりしています。街に住んでいた頃は、そんなこととは知りませんでした。

田んぼ
田んぼはいろいろな生き物の棲みか

危険害虫の対処法

10年前に長野県に移住した頃は、ゴキブリを見かけることはほとんどなかったのですが、最近は温暖化の影響か、以前よりも遭遇率が高くなっています。ゴキブリのようにビジュアルが不気味なだけならまだマシですが、毒があるとなると話は別。虫のなかでも特に危険なのが「ハチ」です。

日本ではミツバチもスズメバチもハチとして一括りにされていますが、英語では前者を”Bee”、後者を”Wasp”と区別されています。ミツバチはかわいいのですが、スズメバチは厄介者。あっという間に家の軒先などに巣を作ってしまうので要注意です。今年もハチの巣をいくつか見つけて取りました。害虫駆除業者もありますが依頼をしたことはなく、気を付けながらDIYで対処しています。

ハチの巣
ハチの巣は玄関や軒下、物置などにも

虫嫌いは克服できるか?

そもそも、なぜ小さな虫を怖がるのか? それは、うかつに毒のある虫に近づいて、命の危険にさらされないための本能です。かといって過度に虫を恐れるのも考えもの。いちばん恐ろしいのは「知らないこと」なので、見たことのない虫がいれば、まずは図鑑やインターネットで調べます。

妻は初めゲジゲジを怖がっていましたが、ネットで調べて益虫であることがわかると、以前ほど怖がらなくなりました。わが家のお風呂場にもしばしば出没するのですが、妻は「ゲンジローくん」などと名前を付けて擬人化することで恐怖を克服しているようです。「クモってよく見ると目がかわいい」などと言うこともあるので、人間の適応力はすごい。

息子は自然に近い環境で生まれ育ったので、虫はそれほど苦手ではありません。虫が苦手な私でも、日常的に虫と接していると、ある程度は慣れてくるもの。いまでは洗面所でカマドウマに出くわしても、「またカマピョンか」とあまり反応せずに、そのまま歯磨きを続けています。

セミの抜け殻
庭で見つけたセミの抜け殻

虫を寄せつけない、わが家の防虫対策

人間が虫と戦いたくないように、虫だって人間を襲いたくはないはず。そのため、できるだけ虫が寄り付かないように対策をしています。例えば、虫よけの効果があると言われる木酢液を家の周りにスプレー。また、軒先にハチの巣やマイマイガの卵などが付いていることがあるので、春から秋にかけては時々家の周りをパトロールしています。また、庭木の手入れをしたり、草を刈ったりするなど、できるだけ家の周りを整理整頓。庭仕事をしていると、ハチやアブに刺される可能性もあるので、ポイズンリムーバーも携帯しています。

木酢液を水で希釈した手作りの防虫スプレー
木酢液を水で希釈した手作りの防虫スプレー

自然の中で暮らすということ

何年か前に「カエルの声がうるさくて眠れない」と、田んぼの持ち主に苦情を申し立てる貼り紙の写真がSNSで投稿されて話題になりました。わが家の周りも田んぼだらけなので、夏の夜は連日カエルの大合唱。昼間もセミたちが忙しく鳴いていますが、うるさいと感じたことはありません。しかしながら、この貼り紙を書いた人のように、自然の音をノイズとしてわずらわしく感じる人もいるようです。

山の近くに住むというのは、自然の一部を間借りさせてもらっているようなもの。自然は美しいばかりではなく、時に厳しさもありますが、他の生き物たちとうまく共存したいものです。

黄昏時の北アルプス
黄昏時の北アルプス

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プロフィール

鈴木俊輔(ローカルライター・信州暮らしパートナー)

長野県池田町を拠点に、インタビュー取材・撮影・執筆を行なう。また、長野県の信州暮らしパートナー、池田町の定住アドバイザーとして移住希望者の相談に乗る。2015年に神奈川県から長野県へ移住したことをきっかけに登山を始める。北アルプスの景色を眺めながらコーヒーを飲むのが毎日の楽しみ。趣味は、コーヒー焙煎、まき割り、料理。野菜ソムリエプロ。

山のある暮らし

都内の出版社で働くサラリーマン生活に区切りをつけ、家族とともに長野県池田町に移住した筆者が、「山のある暮らしの魅力」を発信するコラム

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