町なかにもクマ出没? 山のある暮らしでの野生動物との付き合い方

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今年は、全国各地でクマによる被害が多発。私が住む長野県の池田町でもツキノワグマの目撃情報が多く、町内に設置されたスピーカーからは注意を呼びかける放送が流れています。秋はクマが冬眠に備えて食料を探し回る時期。今年、北アルプス地域ではブナの実が凶作で、クマの人里への出没リスクが高まっているとのこと。今回は、鳥獣害の実態と日常で出会う野生動物たちについて紹介します。

文・写真=鈴木俊輔

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有明山と見頃を迎えたコスモス
有明山と見頃を迎えたコスモス

長野県が「ツキノワグマ出没注意報」を発令

長野県の発表によると、北アルプス地域(大町市、白馬村、小谷村、池田町、松川村)での9月14日から20日までの里地でのクマの目撃件数は15件で、前週の6件から2.5倍に増加。県は9月27日に長野市でクマによる人身被害が起きたことも踏まえて、北アルプス地域と長野地域に「ツキノワグマ出没注意報」を発出しました。2025年度の県全体のクマによる人身被害発生件数は、9月28日現在で10件(15名)、2024年度の12件(13名)を上回る予想です。

クマの大好物のドングリ
クマの大好物のドングリ

町なかにもクマは出没するのか?

長野県に住んで10年経ちますが、私がクマを見たのは一度だけ。秋に近隣の低山を訪れた際に、山頂の展望台から下に目をやると、ノソノソと動いている子グマの姿が。鉢合わせは避けられましたが、ニアミスにヒヤリとしました。

北アルプス地域への移住を検討する人のなかには、クマの出没に不安を感じる人もいます。たまに町なかでのクマの目撃情報もありますが、出没するのはほとんどが山間部で、町なかを歩く分にはそれほど不安を感じません。とはいえ、クマとの遭遇を心配する住民も多く、今年、町内の小学校ではツキノワグマの研究者によるクマの生態や対策を学ぶ授業が開かれました。

山間部の森
森を一人で歩く際には注意が必要

山の近くで出会う野生動物たち

山の近くに住んでいると、都会では見かけない野生動物たちに出会います。わが家の周りでは、タヌキ、キツネ、サギ、ハクビシンなどが日常的に姿を見せます。さらに山深い地域に行くと、リス、シカ、サル、イノシシなども。冬には積もった雪の中に、動物の足跡を見つけることもあります。

ある朝、犬の散歩をしていると、「キーンキーン」という甲高い鳴き声。声のする方向に視線を移すと、青緑の鮮やかな色をしたキジの姿が。最近ではあまり見かけなくなりましたが、移住して間もない頃は、そのシュールな光景に驚きました。また、近所の裏山でカモシカに出会ったことも。その存在感ある佇まいに思わず見とれてしまいました。

田んぼに飛来するサギ
田んぼに飛来するサギ

鳥獣害対策と地域住民の奮闘

北アルプス地域では、クマによる人身被害だけでなく、サルやシカなどによる農作物被害も報告されています。池田町では、その対策として猟友会や鳥獣害対策担当の地域おこし協力隊らがパトロールしたり、わなを仕掛けたりしています。

私が住む集落も田畑が多いことから、5年ほど前に電気柵が設置されました。電気柵は草などが触れると漏電するため、定期的に柵の周りの草刈りが必要です。電気柵は地域住民で管理していて、私も年に数回刈り払い機を担いで山に入るのですが、森のなかでの作業は一苦労。ただし抜け道もあるので、電気柵の効果はなんともいえないところがあります。ちなみに、電気柵には数千ボルトの電圧がかかっていますが、触れても一瞬ビリッとする程度で感電死はしません(経験済み)。

森のなかに張り巡らされた電気柵
森のなかに張り巡らされた電気柵

モンキードッグの活躍

サルは集団で移動するようで、出没頻度は年によって異なります。農地を荒らすサルを追い払うように訓練された犬ことを「モンキードッグ」といいますが、大町市が先駆けて導入して、いまでは全国でも同様の取り組みが広がっています。

わが家では室内犬を飼っていて、モンキードッグさながらの働きぶり。訓練したわけではないのですが、本人(本犬)は当然の務めと言わんばかりに、外でカラスやハクビシンなどの声が聞こえると猛烈に吠えまくる。美しい声でさえずる鳥にも容赦なく、虫や車の音にまで応戦するのには閉口しますが、おかげでわが家の安全が守られています。

わが家のモンキードッグ(?)
わが家のモンキードッグ(?)

野生動物との共存を目指して

東京農工大学大学院農学研究院の小池伸介教授らの研究チームの調査によると、クマは秋のドングリで1年間の消費カロリーの約80%をまかなうそうです。気候の変化によって、野生動物の生活環境も年々変わってきています。森の食料が少なくなり、お腹をすかせたクマが里に下りてくる。そこで人に撃たれてしまうのは悲しいことです。誰もクマに出くわしたくないものですが、それはクマにとっても同じこと。人と野生動物が互いに距離を保ちながら、安心して暮らせる環境づくりが求められます。

山間部に設置された標識
山間部に設置された標識

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プロフィール

鈴木俊輔(ローカルライター・信州暮らしパートナー)

長野県池田町を拠点に、インタビュー取材・撮影・執筆を行なう。また、長野県の信州暮らしパートナー、池田町の定住アドバイザーとして移住希望者の相談に乗る。2015年に神奈川県から長野県へ移住したことをきっかけに登山を始める。北アルプスの景色を眺めながらコーヒーを飲むのが毎日の楽しみ。趣味は、コーヒー焙煎、まき割り、料理。野菜ソムリエプロ。

山のある暮らし

都内の出版社で働くサラリーマン生活に区切りをつけ、家族とともに長野県池田町に移住した筆者が、「山のある暮らしの魅力」を発信するコラム

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