避暑移住、長野県の夏は本当に涼しいのか?
ローカルライターとして長野県に住む移住者を取材したり、移住希望者の相談に乗ったりする機会がありますが、移住の動機の一つに「もう都会の暑さに耐えられない…」と答えた人がこれまでに何人かいました。避暑移住が増えていることを示すデータはありませんが、ここ数年の夏の暑さを考えると、涼しい場所に移り住みたくなるのもうなずけます。長野県といえば軽井沢や白馬など、避暑地としてのイメージがありますが、実際はどうなのか?今回は長野県の夏について、私の実体験もまじえながら紹介します。
文・写真=鈴木俊輔
長野県は意外と暑い?
私たち夫婦が長野県に移住したのは、ちょうど10年前の7月。借りていた家の大家さんから、「夜に窓を開けたまま寝ると、風邪をひくよ」と言われたことを覚えています。実際に、北アルプスの向こう側に日が沈むと気温がぐっと下がり、夜は窓を閉めて布団をかぶって寝ていました。それが10年経ったいまでは、窓を開けたまま寝るように。
地球全体で気温の上昇が進んでいるようですが、避暑地のイメージがある長野県も例外ではありません。いまでも家にエアコンのない家もありますが、わが家では夏の暑さに耐えかねて、3年ほど前にリビングルームにエアコンを設置。6月下旬から9月上旬頃までは日常的に冷房を使っています。
高尾山と同じ標高に住んでいる
私たちが住んでいる池田町は北アルプスの山麓に広がる安曇平にあり、町なかの標高は約600m。これは標高599mの高尾山とほぼ同じ高さです。山の近くに住んでいるというよりも、ちょっとした山に住んでいるようなもの。その高い標高ゆえ日差しは強烈で、晴れた日はジリジリと皮膚を焼くような紫外線が降り注ぎます。うかつに半袖姿で外をうろついていようものなら、あっという間に真っ黒に。そのため、帽子とサングラスは必須アイテムです。
夏を涼しく過ごすための工夫
わが家の暑さ対策は、とにかく日差しを遮ること。よしずとカーテンを併用することで、部屋の温度上昇を防ぎます。例年、庭ではゴーヤーやインゲンのグリーンカーテンもしていますが、今年は暑すぎるせいか元気がありません…。
日除けをしても、昼頃になるとぐんぐんと部屋の温度が上がってくるので、平日の昼間は冷房の効いた町の公共施設に入り浸って仕事をしています。無料で使えるコワーキングスペースがあり、フリーWi-Fiや印刷機も完備。席も予約なしで自由に選べて、混雑することもないので至極快適です。また、休日も日中はできるだけ外に出ず、薪作りや野良仕事は、もっぱら早朝や夕方にしています。
安曇野と東京の気温を比較
意外と暑い安曇野ですが、首都圏と比べるとどうなのか。
下記は、気象庁が公表している2024年7月・8月の安曇野(穂高)と東京の平均気温と、真夏日(最高気温が30℃以上)と熱帯夜(最低気温が25℃以上)の日数を示したものです。
安曇野
7月 ー 最高気温(平均)30.8℃
最低気温(平均)20.9℃
真夏日 17日
熱帯夜 0日
8月 ー 最高気温(平均)32.3℃
最低気温(平均)22.1℃
真夏日 25日
熱帯夜 0日
東京
7月 ー 最高気温(平均)33.5℃
最低気温(平均)25.0℃
真夏日 25日
熱帯夜 14日
8月 ー 最高気温(平均)33.6℃
最低気温(平均)25.7℃
真夏日 29日
熱帯夜 23日
最高気温は東京とあまり変わらず、天気予報を見ていると、安曇野の方が気温の高い日も。真夏日も東京よりは少ないものの、意外と多いことが分かります。一方で、最低気温は安曇野が3℃以上低く、熱帯夜は1日もありません。ここがいちばん大きな違いです。以前よりも暑くなったとはいえ、寝苦しいような夜はまれで、毎日ぐっすりと眠れます。また、安曇野は湿気が少ないため、日陰にいるとわりと過ごしやすいです。さらに、近くに自然があるので、コンクリートに囲まれた都会よりも体感的に涼しく感じられます。
軽井沢町と白馬村、避暑地は本当に涼しい?
長野県内でも地域や標高によって気候はさまざま。参考までに、下記は軽井沢町と白馬村の平均気温と、真夏日と熱帯夜の日数を示したものです。
軽井沢町(標高約1000m)
7月 ー 最高気温(平均)27.2℃
最低気温(平均)18.3℃
真夏日 7日
熱帯夜 0日
8月 ー 最高気温(平均)27.3℃
最低気温(平均)19.5℃
真夏日 2日
熱帯夜 0日
白馬村(標高約700m)
7月 ー 最高気温(平均)27.8℃
最低気温(平均)18.9℃
真夏日 9日
熱帯夜 0日
8月 ー 最高気温(平均)29.5℃
最低気温(平均)20.4℃
真夏日 15日
熱帯夜 0日
軽井沢町も白馬村も標高が高いため、安曇野に比べてさらに気温が低いことがわかります。どちらも最高気温の平均が30℃以下で、軽井沢町は真夏日が少ないことが分かります。つまり、避暑地は本当に涼しい。ただ注意したいのは、冬場の生活です。夏は涼しくて過ごしやすいですが、冬の寒さや積雪にはそれなりの覚悟が必要になります。別荘として利用するならともかく、生活の拠点にするのであれば、冬のこともよく考えたいものです。移住先を検討する際には、いろいろな季節に現地を訪れてみることをおすすめします。
やっぱり信州の夏が好き
長年暮らしていると、かつて感じていた涼しさは当たり前になり、ありがたみも薄れてくるものです。でも、たまに都会に出かけるとその暑さに圧倒され、長野県に戻ってくるとホッとします。そして、単純な気温の比較ではなく、やっぱり信州の夏はいいな〜と感じるのです。暗闇に舞うホタルや夏の星座、夜空を彩る高瀬川の花火大会。そして、町の高台から望む美しい夏山と田園風景。10年経っても見飽きることのない情景です。こうした季節感こそ、山のある暮らしの醍醐味といえるかもしれません。
プロフィール
鈴木俊輔(ローカルライター・信州暮らしパートナー)
長野県池田町を拠点に、インタビュー取材・撮影・執筆を行なう。また、長野県の信州暮らしパートナー、池田町の定住アドバイザーとして移住希望者の相談に乗る。2015年に神奈川県から長野県へ移住したことをきっかけに登山を始める。北アルプスの景色を眺めながらコーヒーを飲むのが毎日の楽しみ。趣味は、コーヒー焙煎、まき割り、料理。野菜ソムリエプロ。
山のある暮らし
都内の出版社で働くサラリーマン生活に区切りをつけ、家族とともに長野県池田町に移住した筆者が、「山のある暮らしの魅力」を発信するコラム
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