あてもなく山を歩きたい、冒険心をくすぐられる1冊

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今週末はシルバーウィーク。休みをもらって長期山行に出かける山ヤも多いのでは? 今や地形図や登山地図を読んで、計画を立てることが当たり前となっていますが、冒険的な楽しさは薄いですよね・・・。そこで今回は、ICI石井スポーツ登山本店の間瀬孝之さんに、冒険心をくすぐる1冊を教えてもらいました。本を読んで漂泊の旅に出てみましょう。

「風を踏む」-小説『日本アルプス縦断記』(アーツアンドクラフツ)

この小説は漂泊の旅に誘う物語です。目的地があって、予定するルートもあるにはあるのですが、さすらいを感じてしまう物語です。これは登山がまだ冒険であった時代、それぞれの分野で名を成した中年のオヤジが胸に屈託を抱きながら、いまだ未踏とされる山域に乗り込んでいく、実に愉快な話です。読後の余韻と共に、その同じ行程をたどってみたい気持ちがフツフツと湧いてきます。

天文学者の一戸直蔵、俳人の河東碧梧桐、新聞記者の長谷川如是閑というそうそうたる面々が人夫7人と大正4年7月、北アルプスに登りました。針ノ木雪渓から蓮華岳、七倉岳、烏帽子岳、双六から西鎌尾根を通って槍ヶ岳、上高地を目指したのです。現在でもそれなりに厳しいロングルートを、まだ満足な地形図も、登山道もない時代に、踏み跡や鉈目を頼りに歩いた話を、著者の正津勉氏は臨場感たっぷりに再現しました。飄々とした文体と登場人物の醸し出す雰囲気とが相まって、その情景が映画のコマ送りのように、脳裏に映し出されてくるのです。もし、この三人のテントでの談論に参加できたらどんなに愉しいことでしょう。

なお、「日本アルプス縦断記」は大正6年7月に出版され、先にあげた3人の共著となっています。現在は手に入れるのは難しいと思います。

この「風を踏む」は4年前に出た本ですが、あらためて読んでもやはり面白い一冊です。ぜひご高覧あれ!

プロフィール

間瀬 孝之

1957年神奈川県生まれ。NPO法人山の自然学クラブ 山の自然学指導員。日本地図センター公認マップリーダー。ICI石井スポーツ登山本店勤務。

ICI石井スポーツ登山本店

登る前にも後にも読みたい「山の本」

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