登山装備のリアリティに注目！ 50年前のギアを忠実に再現した映画「てっぺんの向こうにあなたがいる」

2025年現在、累計登頂者数が12,000人を超えたとされるエベレスト。しかし50年前と現在では、その難易度も格段に違っていた。一番大きな違いは装備や用具の大きさや重さだ。田部井さんがエベレスト登頂を果たした時の登山靴は皮革製で、重量は両足でなんと3.1kg。これにアイゼンやオーバーシューズ約1.5kgを装着していたため、フル装備にすると両足で4.6kgという重さだった。現在は靴とオーバーシューズが一体化したものが主流で、最新のものになると両足でも1kgを切るなど、軽量化を遂げている。

ヘッドランプも現在のように充電式のLEDで軽量なものはなく、単一電池を3本も入れて使うものだった。また、スリーピングバッグやダウンウェアなども当時のものは重く、防水性や通気性が悪いものだった。

さまざまな装備や用具のなかで、現在と1975年で一番大きな差があるのが酸素ボンベの重量だ。75年当時は、70年に川崎重工が日本山岳会のために開発した容量4L、6.23kgの国産ボンベとフランス製の容量4L、5.6kgのものを併用しており、登頂時はフランス製ボンベを2本背負ったという。現在では、エベレスト登山隊の多くがロシア・POISK社製造の容量4L、3.5kgのボンベを使用している。同じ4Lの酸素量で、当時の国産ボンベの約半分の重さまで軽量化されていることになる。大勢のシェルパが多くの荷物を運び、拠点を少しずつ上へと移しながら好機を狙うエベレスト登山において、あらゆる装具の軽量化が、のちの登頂成功率をぐんと上げることになったと言える。

田部井さんは身長152cmの小柄な体に重いウェアをまとい、さらに酸素ボンベ2本と個人装備を入れたおよそ20kgのザックを背負って登頂を果たした。一方、女性の登山隊にはなかなか資金が集まらなかった。加えて73年に起きたオイルショックの影響で急な物価高となり、ただでさえ少ない予算がさらに逼迫されることに。そこで皆で不用品を無料で譲り受け、冬用のカーテンの生地でニッカズボンを作ったり、風に強い素材だからと夫・政伸さんの車の雨除けカバーをオーバー手袋に作り替えたりもした。このオーバー手袋は高価な市販品に比べ、薄手でむしろカメラ操作など細かい作業に重宝したという。経費節減ゆえの手作りだったが、意外にも実用性に富んでいたというから驚きだ。

高性能な登山装備が簡単に入手できる現在の登山者にとって、50年前の女性たちの挑戦は新鮮な驚きと感動を与えてくれる。