大注目された“トランスフォームする”バックパックをレビュー! パーゴワークス/ZENN 45|高橋庄太郎の山MONO語りVol.120

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【フィールドテスト①】テント泊装備での耐荷重と快適性を検証

さて、初回のテストは真夏の山。

パーゴワークス「ZENN 45」

テント泊装備一式に加え、3泊分の食料をプラスしたフル装備である。

ご存じのように、今年の夏も猛烈に暑かった! このときは飲み水を最大4Lも持って歩いたが、それを半日ですっかり飲み切ってしまうほどなのであった。

パーゴワークス「ZENN 45」

そんななか、ZENNのサイドポケットはボトルを入れるのには非常に適した形状であり、使い勝手に不満はなし。ストレッチ素材のポケットはただでさえボトルをしっかりと押さえてくれるうえに、さらにコードで締められるようになっている。また、外側が高く、背中側が低い形状で、背負ったまま手を伸ばしてボトルを出し入れするのが容易だ。

しかし、それでもペットボトルのように細いボトルは歩行中に揺れ動くこともある。

パーゴワークス「ZENN 45」

その際はサイドのストラップでポケットの上を抑えるようにすればOKだ。少々取り出しにくくはなるが、どこかで落として山中を汚すよりはいい。

デタッチャブルハーネスのショルダー部分のポケットにも、左右1本ずつ500ml程度のペットボトルが収められる。この部分にも手を伸ばしやすいことは言うまでもない。

パーゴワークス「ZENN 45」

これらのポケットに収められるボトルの容量を合計すると、最低でも4L。5Lでもいけるだろう。これだけの量の水が手元にあると安心だ。

ZENNには他の部分にもポケットが設けられている。

パーゴワークス「ZENN 45」

上はバックパックの背面上部の後頭部付近。止水ファスナーで雨水が入りにくい。

こちらは本体のサイド。同じように止水ファスナーを使っているが、ポケットではなく、荷室へのアクセス部分だ。

パーゴワークス「ZENN 45」

ZENNはサイドが大きく開き、奥に入れたものを取り出しやすいように設計されているのであった。

僕はひとまずフル装備で半日ほど歩き、山中のテント場へ。

パーゴワークス「ZENN 45」

初日はここに泊まり、翌日は不必要な道具類や食料はテントにデポして山頂へ往復しつつ、周囲をぐるりと歩くことにした。その際はもちろん、デタッチャブルポケットにハーネスを付け替えたものをサブパックとして活用する。

ハーネスの付け替えは簡単そのものだ。

パーゴワークス「ZENN 45」

これだけですばやく小型のサブパックが生まれるのだから、便利なものである。

翌日も深山とは思えないほど猛烈に暑く、僕はできるだけ多くの飲み水を持っていった。

パーゴワークス「ZENN 45」

途中で水を補給しやすい山域ではあったものの、荷物の重さの大半は飲み水なのであった。

……というわけで、ここまでが初回のテストの模様だ。

う~ん、なるほどな~。

初回のテストの結果はイマイチだった。なぜならば、このときの僕の使い方はZENN 45にはあまり適していなかったからだ。本体にテント泊装備をフルに収めて歩いていたときは背負い心地がそれほどよくはなく、デタッチャブルポケットを活用してテント場から日帰り装備で1日行動したときは必要な荷物を収め切れず、少し困ってしまった。

背負い心地が期待したほどではなかった理由は明白だ。たんに“荷物が重すぎた”のである。このとき、テント泊装備自体はさほど重くはなかったのだが、猛暑に備えて水を4L持ち歩いたので、それだけで4kg。3泊分の食料も相当な量で、行動食も余分に持っていった。僕は取材用にサブのカメラやバッテリー、三脚まで持って行っている。すべて合わせれば、歩き始めの重量は16~17kg近くだった。

メーカーはZENN 45の耐荷重を出していない。だが、おそらく軽量な装備を念頭にせいぜい12kg程度を想定した設計だと思われる。なにしろZENNシリーズのハーネスはすべて共通で、容量25Lや35Lに入るくらいの荷物ならばこのハーネスでも充分だろうが、容量45Lにたっぷりと荷物や水を収めると、このハーネスの能力を超えてしまうに違いない。ヒップベルトも荷重を支える腰骨位置には配置されておらず、パッドも薄い。背中と肩を中心に荷重を支えていると、どうしても体への負担が大きくなり、背負い心地のよさが失われる。

デタッチャブルポケットを小型バックパックとして使う場合も、テント場から山頂往復程度の短時間であれば、レインウェアやファーストエイドセットは持っていくとしてもそれほど多くの行動食や飲み水は持たずに済むので、容量5Lでもいい。しかし、丸一日行動しようとすると、容量5Lでは入りきれないのである。つまり、短時間の山頂往復程度には適しているが、長時間の日帰り登山には容量が足りない。

繰り返すが、ZENNは容量45Lの最大モデルであっても、ハーネスは35Lや25Lと共通だ。だから、荷物の重さや量をある程度少なくしなければ、持てる機能をオーバーしてしまう。いくら猛暑で飲み水をたくさん持ち歩きたい状況だったとしても、初回のテストではZENN 45をちょっとがんばらせすぎたようだった。

【フィールドテスト②】装備を軽量化(約10kg)して真価を発揮

僕はその後、何度もZENN 45を使ってみた。これ以降の写真は最後のテストのときのものである。

パーゴワークス「ZENN 45」

初回のテストの反省点を踏まえ、荷物は極力減らし、テントは超軽量タイプに。食料は1泊分のみで、飲み水を入れても10kg少々に収まった。上の写真を見てもわかる通り、初回テストのときほどバックパックがパンパンにはなっておらず、いかにも荷物が軽そうだ。

実際、歩いていて体が軽い。初回テストのときはハーネスで肩が圧迫され、背中も少し硬い感じがしていたが、もはやそのような違和感はない。

パーゴワークス「ZENN 45」

今回はまったくストレスがなく、快適そのものだ。

先に述べたように、一般的な大型バックパックはヒップハーネスによって腰に荷重の大半をかける設計だ。だが、ZENNシリーズはヒップハーネスという名称ながらヒップというよりもウエストにハーネスを位置させ、荷物の重量バランスを高い場所に置き、肩と背中を中心に重さを分散するように設計されている。

パーゴワークス「ZENN 45」

上の写真は小型三脚であおり気味で撮影しているので少々わかりにくいかもしれないが、ヒップハーネスの位置がかなり高く、腰荷重にはなっていないことがわかる。この場合、荷物が軽いときは問題ではないが、荷物が重くなると上半身に負担がかかりやすくなってしまう。

パーゴワークス「ZENN 45」

僕の実感としてはZENNの耐荷重は最大11~12kgほど。共通のハーネスを使っているのだから、25L、35L、45L、どれも同じだ。容量25Lや35Lでテント泊をする人はほとんどいないだろうが、今回使った45Lはテント泊装備を入れることができ、自炊用の食材でも重くなる。それでも10~11kg前後に装備の重量を抑えるのが、ZENN 45を快適に使う条件となりそうだ。

デタッチャブルポケットの「サブザック」活用術と収納力

最終テストでもデタッチャブルポケットにデタッチャブルハーネスを取り付け、小型バックパックとして活用した。

パーゴワークス「ZENN 45」

改めて、ZENN 45の“トランスフォーム”の様子を見ていただきたい。

パーゴワークス「ZENN 45」

本体からデタッチャブルポケットを分離。

パーゴワークス「ZENN 45」

それからデタッチャブルハーネスを外し……。

パーゴワークス「ZENN 45」

デタッチャブルポケットにデタッチャブルハーネスを取り付ければ、小型バックパックの完成だ。

このときはさほど暑くもなく、飲み水は少なくて済み、持ち歩く装備は初回ほどの量はない。だから、容量5Lでもいくらか余裕があった。

パーゴワークス「ZENN 45」

とはいえ、もう少しだけ容量があるといいように思える。しかし、これ以上大きくすると、本体とデタッチャブルポケットの大きさのバランスが悪くなるのだろう。ZENN 45でいえば両者の容量差は35Lだが、本体の容量が20LのZENN25で考えれば、デタッチャブルポケットを仮に容量10Lへ拡大してしまうと、容量の差がたった10Lになってしまう。デタッチャブルポケットやデタッチャブルハーネスをシリーズ共通で使えるように設計している以上、大小のバックパックとして使い分けるならば、やはり5L程度が適当なのだろう。

このとき容量5Lでもレインウェアやファーストエイドセットを余裕で持ち運べたのは、飲み水をハーネス上のポケットに収められたからだ。両サイドに500mlずつ水をキープできるので、このポケットだけで容量1Lの価値がある。

パーゴワークス「ZENN 45」

僕は片方にペットボトル、もう片方にソフトフラスクを入れて使ってみたが、おすすめしたいのは両方ともソフトフラスクにすることだ。ペットボトルは収められるものの、あまり適していないと感じられる。

パーゴワークス「ZENN 45」

ZENNのショルダーのポケットは、まさに500mlペットボトルのサイズなのだが、ぐっと押し込んでストレッチ性の生地を伸ばさないとファスナーを閉め切れない。それが面倒だからとキャップ部分が外に出たままにしておくと、体を動かしているうちにペットボトルの重量による圧力でファスナーが次第に開いてきて、ペットボトルが落ちそうになる。ファスナーが少し緩めだからだろう。その点、ソフトフラスクは全体をポケット内に収めやすいだけではなく、飲み口が小さいこともあり、ファスナーを適当に閉めていても開きにくい。

もうひとつ、ペットボトルを推奨しない理由は、ハーネスのパッドが柔らかいため、ボトルの形状でパッドの裏側が丸みを帯び、体に当たるとゴロゴロしてフィット感が損なわれるからだ。

パーゴワークス「ZENN 45」

これはZENNシリーズに限らず、トレイルランニング用から派生したベスト型ハーネスにはよく見られる問題ではある。いずれにしてもソフトフラスクを使ったほうが快適に背負えるのは間違いない。

休憩マットにもなる内蔵パッド

最後に、三つ折りの状態でフレームを巻き込むように収納されていたパッドについても触れておこう。

パーゴワークス「ZENN 45」

このパッドは、広げると69×52cmというサイズ。厚みは6mmほどだ。慣れている人であれば半身用マットとしてテント泊のときに活用できる。

パーゴワークス「ZENN 45」

休憩中に腰かけるマットにも便利で、地面が濡れているときは特にありがたい。

注意したいのはフレームだ。背面から取り出すと、以下のような状態なのだが……。

パーゴワークス「ZENN 45」

どのようにバックパック内へ入っていたのか覚えていないと、どちらが上なのか下なのか、どちらが背中側でどちらが外側なのか、簡単にはわからなくなる。背中に合わせれば曲線の向きは判断できるだろうが、上下の判別はよほど知識がなければ難しい。自信がない人は、あらかじめどこかに上下、表裏の印をつけておいたほうが、安心してバックパック内からパッドごと引き抜ける。

まとめ:多機能でユニークなモジュール構造のバックパック

ZENNシリーズにはほかにもおもしろいギミックがあって書きたいことはいろいろあるものの、キリがない。これで終わりとするが、ZENN 45について大事な点をまとめれば、「本体、デタッチャブルポケット、デタッチャブルハーネスを組み合わせて使うモジュール構造の仕組み」、「容量45Lでも腰に荷重をかけるのではなく、肩と背中で背負う高重心設計」、「快適に使うためには、容量45Lでも荷物を入れ過ぎず、重量が軽くなるようにまとめる」という3点。いずれにしても“ひとつのバックパックを大小2つの大きさで使える”、“別売りのパーツに取り換えてトレイルランニングや雪山でも活用できる”など、これまでに見られないユニークなアイデアが光り、“使って楽しい”モデルであった。

パーゴワークス「ZENN 45」

重い荷物でもラクに背負いたいという人には、もっと適したモデルがある。だが、荷物をいくらか軽くすることで山での自由度や応用性を高めたいという人にはとても適しているのがZENNシリーズだ。これからどのような新しいパーツが発売され、モジュール構造のバックパックに組み合わせて機能を拡張できるのか、楽しみに待っていたい。

今回のPICK UP

パーゴワークス
ZENN 45

パーゴワークス「ZENN 45」
重量 本体960g、デタッチャブルポケット85g、ヒップハーネス130g
価格 38,500円(税込)
詳細を見る
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プロフィール

高橋 庄太郎(たかはし・しょうたろう)

宮城県仙台市出身。山岳・アウトドアライター。 山、海、川を旅し、山岳・アウトドア専門誌で執筆。特に好きなのは、ソロで行う長距離&長期間の山の縦走、海や川のカヤック・ツーリングなど。こだわりは「できるだけ日帰りではなく、一泊だけでもテントで眠る」。『テント泊登山の基本テクニック』(山と溪谷社)、『トレッキング実践学』(ADDIX)ほか著書多数。
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高橋庄太郎の山MONO語り

山岳・アウトドアライター、高橋庄太郎さんが、最新山道具を使ってレポートする連載。さまざまな角度からアウトドアグッズを確認し、その使用感と特徴を余すことなくレポート!

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