「この木なんの木?」尾瀬の景観を四季折々に彩る植物たちを、どんな季節にも楽しむには?

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本州最大規模の高層湿原、燧ヶ岳と至仏山など名峰――、尾瀬は登山者にとって魅力的な場所として親しまれている。そんな尾瀬歩きを、更に楽しみたいという方・・・、新潟県側の玄関口である奥只見郷は随一の鮮やかな紅葉が楽しめるのをご存じだろうか?

 

葉っぱ観察のススメ

たくさんの高山植物が生息する尾瀬では、花の季節に訪れる人が多く、湿原に広がる美しい風景を楽しんでいます。花を咲かせることは植物にとって人生(植物生?)の一大イベントです。

春から秋の短い時期に、競うようにして尾瀬の花ごよみは進んでいますが、今回注目するのは「葉っぱ」です。葉を展開させて懸命に栄養を蓄える植物たちの緑豊かな日常の姿とは、どんなものなのでしょうか。

尾瀬に訪れた人の多くは、花を見つけたときにその名前が気になると思いますが、葉を見ただけでもその植物が何かわかったら、尾瀬を歩くのがもっと楽しくなると思いませんか? 今回はそんな別の一面からの植物観察の楽しみ方をお話したいと思います。

左はオガラバナ(カエデの仲間)の葉、右はトチノキの美しい緑の葉


森を歩いているときは休憩がてら頭上を見上げてみてください。樹木が枝を広げ、空いっぱいに葉をちりばめているのを見ることができるでしょう。そして足元に目を向けても広がる緑があるでしょう。植物は1年の生活のほとんどを、葉を広げて光合成をして過ごしています。

ふだん何気なく見ている葉ですが、植物にとって葉を維持することは、実は大変パワーを使うものなのです。そのため、できるだけ葉の1枚1枚を無駄なく使い、太陽の光を全身で受け止めているのです。

近くにある葉をじっくり観察してみてください。足元に落ちている葉でもいいと思います。足元に落ちているのはすべて自然の落とし物です。普段見ることのできない高い木の葉も、実も、花も、じっくりと探してみれば足元に見つかるはずです。

見上げる葉、足元の緑、木道に落ちる葉など、さまざまな葉が存在します


すると植物の形は本当に個性にあふれているのがわかります。尾瀬には900種を超える植物が生息しているといわれますが、そのすべての種には、それぞれきちんと形の決まりがあります。

葉脈1本1本の流れ方や、葉のふちにあるギザギザ。細かな毛が密生するもの、大きな切れ込み、小さめの葉、大きな葉。1本の植物に付く無数の葉に、最低限の決められた形のルールが存在しています。

例えば、ブナの葉は葉の上に広がる葉脈がほとんど等間隔にくっきりと流れているのを見ることができます。葉脈は葉のふちまで続き、葉脈が到着したところで葉のふちがくぼんでいるのがブナの特徴です。

どうしてそんな形になっているのかは諸説ありますが、そんな様子に気がつくと、少しずつさまざまな植物の形の違いが目につくようになってきます。

さまざまな形をもった植物の葉。どれが何の葉か、わかるだろうか?


興味が沸いたらぜひ一度、植物図鑑を眺めてみて下さい。きっとみなさんが観察した植物が掲載されています。すぐにはこれと断定できないかもしれませんが、それもまた次回の観察の楽しみにつながるはずです。さらに植物図鑑もまた制作した著者の思いや個性にあふれ、一つの読み物としてもおすすめしたいものです。

 

環境によって変わる林の樹木

植物が生活している環境にも、ぜひ目を向けてみてください。植物はとても素直な存在で、自分に合った環境でのみ生活することができるため、環境によって生息する植物が違ってくるのです。

尾瀬には1,000m以下の標高の地帯から2,000mを超える地帯まで、標高だけをとってもさまざまな環境があります。それが多様な動植物たちが生きる大きな理由のひとつとなっているのです。尾瀬を歩くとさまざまな風景に出会えるのは、こうした環境によって生きている植物が違うからなのです。

具体的には、1,600m地帯にある尾瀬沼にはオオシラビソを中心とした常緑針葉樹林が広がり、1,400mの尾瀬ヶ原周辺にはブナを中心とした落葉広葉樹林が広がっています。そしてそれぞれの環境に住むメンバーは、ほとんど決まっているのです。

左は若葉をつけるオオシラビソの葉、尾瀬では尾瀬沼周辺に多い。
右はブナの葉、尾瀬ヶ原周辺に多い


そんな違いを知り・気が付くようになったら、改めて山を眺めてみてください。緑のかたまりのように見えていた森の木々の1本1本が、くっきりと浮かび上がって見えて来ると思います。一つの山を構成する木々の色や形の個性に気がつくようになってくるはずです。

遠くに見えるあの木はなんの木だろう? あそこで色づいている木はなんだろう? 学術的な知識はさておき、観察する楽しみが生まれたらしめたもの。尾瀬はもちろん、ほかの山々、さらに街を歩く時だって楽しくなるに違いありません。

 

葉っぱが主役の秋山、奥只見の紅葉は随一

尾瀬では、これから紅葉の景色が始まり、山好きさんにとってはたまらない季節だと思います。そして植物の葉が主役になる季節でもあります。10月になると尾瀬のいたるところで素晴らしい紅葉の景色を楽しむことができます。

その中でも今回とくに紹介したい「葉っぱ」は尾瀬国立公園から少しばかり外へ出た、奥只見ダム周辺です。総貯水容量は全国第2位の大きなダムの周囲に広がる色鮮やかな紅葉は一見の価値があります。ぜひ尾瀬に入山する前や下山した後に、遊覧船に乗ってダムを巡ってみてください。尾瀬でも類稀な紅葉を楽しめるでしょう。

奥只見ダムの紅葉。秋の紅葉の時期は、新潟側からのアクセス/入山はいかがだろうか?


尾瀬の福島県側の入山口の御池から、新潟県の魚沼方面へ抜ける国道352号線をダム沿いにドライブしてみるのもおすすめです。厳しい冬がやってくる地域だからこそ見ることのできる、短い秋の美しい風景が広がっていて、尾瀬でも屈指の紅葉を楽しめると思います。

そして色づく木々のひとつひとつにぜひ目を向けて、そこで生きている植物たちの生活に思いを寄せてみて頂けたらと思います。

 

プロフィール

奥只見郷ネイチャーガイド

新潟県魚沼市を拠点に、尾瀬国立公園を始め、魚沼市にある四季折々の自然の魅力、地域の歴史や文化を伝える活動を行っているガイド団体。

⇒魚沼市観光協会ホームページ

公益財団法人 尾瀬保護財団

群馬県前橋市に事務所を置く公益財団法人。環境保全や調査研究に取り組むとともに、尾瀬ボランティアなどと連携した入山者への啓発、利用者への自然解説など、尾瀬の保護と適正な利用を図るための活動を続けています。

⇒公益財団法人尾瀬保護財団

はるかなる尾瀬――、尾瀬の風景・春夏秋冬

本州最大の湿原が広がり、童謡にも歌われる尾瀬。そこにある自然は、どの季節でも魅力が詰まっている。そんな尾瀬の表情を、現地で環境保全や調査研究に取り組んでいる尾瀬保護財団が発信する

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