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仕方がないと言っていられない! 伊吹山の現在の姿から考える、シカの食害と鹿柵・駆除

髙橋 修の「山に生きる花・植物たち」
たしなみ 2018年09月27日

イブキジャコウソウ、イブキトラノオなど「イブキ」を冠した植物がいくつもあるほど、植物の宝庫として知られている伊吹山。その伊吹山の植物たちが現在、危機的状況に見舞われているという。その理由は――

 

花の名山として知られている伊吹山が、今、大変な危機に襲われている。

伊吹山は、毎年夏から初秋にかけて、山頂付近がシモツケのピンク色、サラシナショウマの白色、コイブキアザミの紅紫色など様々な色に染まるはずである。しかし最近の伊吹山では、全くそれらのすばらしい光景が見られなくなってしまい、ただ緑色のササや低木、ザラザラした葉っぱの植物だけの緑と茶色と白い石の世界になってしまった。

このような事態に陥ってしまったのには、もちろん訳がある。その理由はただひとつ、野生のニホンジカによる食害である。ニホンジカによる食害は、無慈悲で凄まじく、圧倒的である。数年前までの伊吹山の写真と、現在の写真を比べると、いかに変化しているかがわかるだろう。

5年前、2013年8月2日の伊吹山はたくさんの花に彩られていた

鹿害にあってしまったかつての花畑は無残な姿になっていた


ニホンジカの食害は激しい。以前たくさん生えていた、コイブキアザミのような全草棘だらけの植物も食べてしまい、場所によっては壊滅的被害を与えている。毒草で有名なトリカブトの一種で、伊吹山の固有種であるイブキトリカブトも食べられている。ただし、やはり毒があるためか、全部をいきなり食べるわけではなく、少しずつ食べられてしまったイブキトリカブトの異様な姿が残されていた。

シカに食われかけているイブキトリカブト。毒があっても食べられるありさまだ


伊吹山は全山が特殊な地質である石灰岩の山である。石灰岩の露岩地は、雨が降らないと乾燥しやすく、岩がちで、大きな木が生えにくく、草原になりやすい。さらに、琵琶湖の湖畔にあるため、日本海側気候の影響を受けやすく、冬には猛烈な偏西風が吹き、また豪雪地帯でもある。

これらの自然条件によって、伊吹山の標高はあまり高くはないが、山頂付近は高山帯のようになり、多くの草地を好む植物が生える。また、伊吹山でしか見られない固有種も多く生えており、世界でも貴重な自然が残る貴重な場所なのである。

伊吹山のように、貴重な植物が食べれらているニホンジカの食害による被害は、実は伊吹山だけのことではない。今、日本の多くの山でニホンジカの食害による被害が進行している。丹沢山や尾瀬、霧ヶ峰、北岳などの山々が食害による被害を受けている。

ニホンシカの食害に対し、有効に打てる手は少ない。伊吹山では、山頂付近の草原を鹿柵で覆って、シカの進入を防ぎ、少しずつではあるが、伊吹山の植生は戻り始めている。信州の霧ヶ峰では、同じ方法で柵の中だけではあるがニッコウキスゲの花畑が復活した。しかし、一度失った自然を復活させるのは容易ではない。

鹿柵の手前は花が咲くが、向こうはコイブキアザミも食べられ、木は白骨化してしまった

鹿柵の向こうには草がほとんどなくなってしまった


伊吹山の鹿柵内の状況は以前よりましにはなったものの、まだまだ以前の状態にはほど遠い。ゆっくりでもいいが、とにかく昔のようなの状態になることを心から望む。植物の多様性の維持を考えると、ニホンジカを駆除する必要があると思う。

鹿柵は有効な手段だ。個人的には自分が柵に閉じ込められているような嫌な気分ではあるが、これは仕方がない。猟銃で駆除する方法はあるが難しいようである。一部では、外国から移入したオオカミを山に放つことも考えられているが、ほかの生き物を襲う可能性もあり、問題もある。まだまだ話し合いと検討が必要ではあろう。私見ではあるが不妊手術を施したオオカミの群れを山に放って、一代限りの実験してみるというのはどうだろうか。

鹿柵に守られた、伊吹山の登山口の様子


なぜこれほどまでにニホンジカが増えたのであろうか。理由のひとつは、かつて日本の山に生息していたニホンオオカミを日本人が絶滅させ、ニホンジカの天敵がいなくなったために増えたことがあげられる。日本人の狩猟者が減って、さらに天敵が減った。

ほかにもニホンジカの餌がなく、住むことができないスギやヒノキの植林が増えたために、 自然林や草原に進出せざるをえなくなったことも理由のひとつ。豪雪地帯や高山帯にニホンジカが増えたのは、地球温暖化により雪が減って、雪が苦手なニホンジカが高山帯に侵入できるようになったこともあるようだ。

ニホンジカが増えた理由を考えると、多くは人が原因となっている。困ったものである。一番悪いのは“ニホンジン”ということなのだろうか・・・。

 

日本の山 高山植物 自然観察
教えてくれた人

髙橋 修

自然・植物写真家。子どものころに『アーサーランサム全集(ツバメ号とアマゾン号など)』(岩波書店)を読んで自然観察に興味を持つ。中学入学のお祝いにニコンの双眼鏡を買ってもらい、野鳥観察にのめりこむ。大学卒業後は山岳専門旅行会社、海専門旅行会社を経て、フリーカメラマンとして活動。山岳写真から、植物写真に目覚め、植物写真家の木原浩氏に師事。植物だけでなく、世界史・文化・お土産・おいしいものまで幅広い知識を持つ。

⇒髙橋修さんのブログ『サラノキの森』

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