絶滅危惧種のコウシンソウを求めて――、父との思い出の残る栃木県足尾・庚申山荘

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イラストレーターで山岳ガイドの橋尾歌子さんが、各地の避難小屋を巡り、山小屋の様子をイラストで紹介。第2回は、栃木県・足尾にある庚申山荘。父との思い出をたどって向かった山荘は、広く大きい、清潔で魅力的な避難小屋だった。

 

すごく前、友人に誘われて庚申山から皇海山を歩いた。そのとき通過したのが、庚申山荘(栃木県)。建物裏にクリンソウがたくさん咲いていた。父がこの花のことを好きで、のちに父に山荘のことを話したことを思い出した。

そんな思い出のある山荘に再び行きたいと調べると、山荘そばの「お山巡りコース」には、絶滅危惧種の庚申草(コウシンソウ)が自生しているという。短い間しか咲かない幻の花だそうだ。クリンソウと合わせて幻の花を見に行こう! と同じ山岳会の〝そのぴん〟を誘った。

庚申山は、昔から信仰の山として親しまれてきた。1950年に日光国立公園が拡張され、庚申山周辺が国立公園に編入された。それを見越して、1948年10月に登山の足がかりにするための庚申山荘が建てられた。1952年に増築されたが、老朽化により1986年3月に現在の小屋に建て替えられている。

旧山荘は現在の小屋のすぐ西側にあり、新山荘ができあがってから寝具や畳などを手作業で移し、取り壊された。また、かつて山荘の東側に庚申山猿田彦神社の本殿と参籠所があったが、小屋ができる前の46年に焼失して、現在は山荘内に奥の院として祀られている。

広い庚申山荘。庚申山の南側岩壁を背に立っている


庚申川脇の林道から一の鳥居をくぐり、沢沿いの登山道に入る。登山道には丁石(ちょういし)が置かれ、鏡岩、夫婦蛙岩、仁王門といった巨岩が点在する。ハルゼミが鳴く登山道を、のんびり歩きながら猿田彦神社跡を過ぎると、岩場をバックにした庚申山荘に着いた。山荘裏は記憶どおりクリンソウの花畑。花の中で一匹の子鹿がひなたぼっこをしている。

小屋裏にいた子鹿。ラブリー❤


広い小屋の2階の広間に荷物を広げた後、1階のホールに移動。そのぴんが作ってくれたシーフードカレーを食べ、同じテーブルにいた夫婦に「旅は道連れ」とサラダをもらった。彼らは前夜もここに泊まり、この日は皇海山を往復してきたそうだが、前夜の小屋は1階も2階も満員だったとか・・・。

翌朝、お山巡りコースに向かう。岩場に入り、ふたりとも庚申草を探しながら下を向いて歩いた。う~ん。なかなか見つからんなぁ。あきらめかけてふと上を見ると、あるわあるわ、岩の上部にびっしりと薄紫の花が!

岩の上のほうに特別天然記念物のコウシンソウがびっしり!


庚申山の山頂は展望がなく、そこからすぐの展望台に行くと、昼ごはんを食べている人たちがいた。私たちもそこで一休み。楽しかったねぇ。庚申草とクリンソウを見に、また来たいな。

お山巡りコースのメガネ岩にて


隣にいた3人組と話すと、桐生市から来た山仲間だとか。中学時代、学校登山でこの山に来て、山荘に100人くらいで泊まったそうだ。この日はメンバーの一人の快気祝いで、久しぶりに一緒に山に来たそうだ。


庚申山荘DATA

所在地: 足尾山塊・庚申山(1892m)の南側(1510m)。国民宿舎かじか荘のある銀山平から、2時間30分

収容人数: 65人

管理: 通常は無人。かじか荘の管理人が不定期に在住し、管理・整備を行なう。宿泊費2050円、休憩料300円

水場: 小屋内にあり

トイレ: 小屋外にあり

山行日: 2014年6月15~16日

問合せ先: 日光市役所足尾観光部足尾観光課☎0288-93-3116、国民宿舎かじか荘☎0288-93-3420

 

この文章とイラストは橋尾歌子さんの著書『それいけ避難小屋』から紹介しています。実際の書籍では、山行中の様子についても、さらに詳しく・楽しくイラストを掲載して紹介しています。

著者独自のカラーイラストで描かれた間取り図や山行ルポは、写真や図面と違い、小屋の雰囲気まで伝わってきます。東北から四国にかけて実際に訪れた、全51軒の個性あふれる避難小屋を、イラストと共にぜひ楽しんでください。

 

祝 『それいけ避難小屋』 出版記念企画! 橋尾歌子画伯 トークショー開催

『それいけ避難小屋』の発売を記念して、2018年10月11日(木)に東京都千代田区のici club 神田 6F EARTH PLAZAでトークショー開催決定!

本イベントは、著者の橋尾さんと、親交のある石井スポーツ登山学校の天野校長との対談形式で、お酒を飲みつつ、ゆる~く、楽しく避難小屋の魅力を語り合う。1ドリンク付きだが、こだわりのある人は、避難小屋と同様に持参も可とのこと!

トークショウは現在、大人気で満員御礼状態。それでも、ぜひ参加したい! という方は、のキャンセル待ちにトライしてみよう!

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プロフィール

橋尾歌子

イラストレーター、登山ガイド。多摩美術大学大学院修了。(有)アルパインガイド長谷川事務所勤務、(社)日本アルパイン・ガイド協会勤務を経てフリーに。2004年、パチュンハム(6529m)・ギャンゾンカン(6123m)連続初登頂。(公社)日本山岳ガイド協会認定登山ガイドステージⅢ。UIMLA国際登山リーダー。バーバリアンクラブ所属。

こんな山小屋で一息ついてみたい。“避難小屋”への誘い

悪天候などの非常時に避難・休憩・宿泊するための山小屋が避難小屋(無人小屋)。日本各地の山に、300軒近くあるといわれている避難小屋の中から、個性的な小屋をピックアップして登山ガイドでイラストレーターの橋尾歌子さんが実踏調査。書籍『それいけ避難小屋』『帰ってきた避難小屋』から、カラーイラストとルポで避難小屋の魅力を紹介する。

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