加治丘陵(入間市)――、心地良い里山、ユニークな童話の世界、紅葉並木を駅から駅までハイキング

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冬が近づく11月は日没時間が早まり、日中の太陽の光も弱く・短くなり、長時間行動となるような登山は難しい頃となってくる。そんな時期はアクセスが良く、かつ短時間で楽しめる近郊の山に行くのがおすすめ。今回紹介するのは、西武池袋線の駅から駅まで歩き、遅い紅葉も楽しめる加治丘陵だ。

 

11月も下旬となると――、山の紅葉は低山でも終了気味で、秋の山を堪能するには少し時期が遅い頃となる。日も短い時期なので遠出もなかなかできない。街でも木枯らしが冷たく、外出するにも足が重い時期だ。

そんなときは、街の近郊のハイキングで晩秋を楽しんでみてはいかがだろうか? 例えば、埼玉県飯能市の加治丘陵はこの時期、メタセコイア並木の紅葉などが楽しめるうえに、周囲の街や山々の展望、映画の撮影場所、ファミリーでも楽しめる公園など、バラエティに富んだハイキングが楽しめるフィールドである。

そんな楽しく・美しい里山の風景のレポートを、週刊ヤマケイから紹介する。

 

ユニークな公園のある里山、加治丘陵へ

2017年11月21日、埼玉県飯能市と入間市にまたがる加治丘陵に行ってきました。最高所で179mほどの里山ですが、飯能市側の山裾にある、トーベ・ヤンソンあけぼの子どもの森公園(以下、子どもの森公園)という楽しいスポットがあります。

フィンランドの作家トーベ・ヤンソンの「ムーミン」シリーズの世界をモチーフにした公園で、遊具はなく、ムーミン谷にも似た地形の園内にムーミン屋敷を思わせる「きのこの家」をはじめ「子ども劇場」「森の家」などの建物などが配されています。内部も凝っており、ムーミンやメルヘンの世界が好きな人には、ぜひ訪れてほしいところです。

1997年「あけぼの子どもの森公園」としてオープンする5年前、飯能市はトーベ・ヤンソンに公園の主旨を伝えました。それから7年にわたる手紙のやりとりなどを経て、遺族からヤンソンの名を冠することが了承され、2017年6月、現在の公園名になった経緯があります。2018年6月には園内にCafe PUISTO(カフェ プイスト)がオープンし、北欧風のオープンサンドやデザートを味わえるようになったのもうれしいニュースです。

また、飯能市では宮沢湖畔に、より広大なムーミンのテーマパーク「ムーミンバレーパーク」を工事中で、2019年3月の開園が予定されています。

ムーミン屋敷を思わせる「きのこの家」(写真=石丸哲也)

内部も凝っていて、おとなもこどもも楽しめる(写真=石丸哲也)


「あけぼの」の名前は、付近の入間川で150万年前のアケボノゾウの足跡化石が見つかったことによるようです。入間川に面した阿須運動公園の古代広場には恐竜や化石をモチーフにしたオブジェがあります。子どもの森公園には、メタセコイアが多く植えられ、11月下旬~12月上旬にかけてオレンジ色に紅葉するのも見どころとなります。

メタセコイアは新生代第三紀(6500万~200万年前)に栄えた落葉針葉樹で、化石で見つかったものを1941年、三木茂博士が命名したもので、絶滅した植物と考えられていました。ところが、1945年に中国四川省(現湖北省利川市)に現存しているのが発見され、培養して各地に広められ、アケボノスギの和名がつけられています。

当日は天候に恵まれ、青空を背景にしたメタセコイアの紅葉が見事でした。小著『駅から山登り 関東55コース』に収録したコースですが、阿須丘陵と子どもの森公園を結ぶ登山道が通行止めになっていました。子どもの森公園に寄る場合は仏子駅より元加治駅を起点として、武蔵野三十三観音の古刹・円照寺や入間川沿いの遊歩道、古代広場を経て向かうのがおすすめです。初版刊行の後、通行止めとなったので、別コースなどの記載はありませんが、第2刷で修正、紹介しています。

もうひとつ、見逃せないのが、子どもの森公園の西側に隣接する日豊鉱業の武蔵野鉱山。なんと、石炭の一種である亜炭などを採掘した坑道があり、非公開ですが、子どもの森公園の上のほうから生け垣越しにトロッコなどを見られます。坑道などは人気ロケ地でもあり、映画「フラガール」、TVドラマ「彼岸島」「GARO<牙狼>TVシリーズ」「重版出来!」「ドクターカー」などの撮影にも使われているそうです。

前置きが長くなってしまいましたが、子どもの森公園の見学後、日豊鉱業西側の山裾、「土砂崩壊防備保安林」の解説板があるところから山道に入ります。雑木林の小尾根をひと登りで遊歩道に出ると、すぐ右手が山仕事の広場。広々した草地で奥武蔵方面の眺めがよく、きれいなトイレもある休憩適地です。ここから指導標に従って、遊歩道を離れ、山道でショートカットすると入間市の桜山展望台に出ます。

上:桜山展望台からの眺め。富士山が丹沢と奥多摩の間に見える/子どもの森公園のメタセコイア並木/下右:仏子駅からも見えた入間グリーンロッジの特徴的な塔(写真=石丸哲也)


高さ20mの展望台上からは首都圏から丹沢、富士山、奥多摩、奥武蔵、筑波山などを見渡せ、足もとには狭山茶の茶畑が広がっています。付近は名前のとおり桜が植えられて、春も楽しみなところです。展望台は16時30分(4~9月は17時30分)~翌日9時まで閉鎖されますが、毎年、元旦には新年初日の出の集いが催され、未明に登ることができます。

帰りは丘陵の南側を縫い、出合ったバス道路を北上して仏子駅へ。途中、バス道路を離れ、八坂神社、入間グリーンロッジ脇を通るのがコースですが、グリーンロッジ解体工事のため、通行禁止になっているので、そのままバス道路を通ります。こちらは第2刷刊行後なので、誌面には反映されていません。

蛇足ですが、入間グリーンロッジはお城のような塔が目立つ入間市営の国民宿舎でしたが2002年に廃業。そのままになっていて、廃墟マニアに人気のスポットとなっていましたが、解体されることになりました※1。2017年の時点では予備工事中で、まだ解体は始まっておらず、塔も健在でした。さらに蛇足ですが、廃業前は「山と渓谷」新年号付録の「山の便利帳」の前身である「登山手帳」の宿泊施設一覧にも載っていました。

なお、子どもの森公園※2は月曜日は休園日となります。また、入間グリーンロッジは周囲から望見するだけで、内部に入ることはできません。ともにご注意ください。

※1 入間グリーンロッジは2018年11月現在、解体中。12月末に解体完了予定(入間市ホームページ

※2 トーベ・ヤンソンあけぼの子どもの森公園の営業日はホームページを確認のこと

 

プロフィール

石丸哲也

東京に生まれ育つ。オールラウンドな登山を経て、山岳ライター、登山・ツアーの講師などとして活動している。
山頂に立つことだけを目的とするのでなく、山を旅する感覚で、登るプロセスや自然にふれることを大切にして山を楽しむことを心がけている。
国内では北海道の利尻山から屋久島の宮之浦岳まで全国の山を登り、海外ではペルーアンデス、ヨーロッパアルプス、北米のヨセミテ、メキシコ、カムチャツカなどの山に足あとを残す。

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