トガクシショウマを見て考えたこと―― 珍しい植物を守るため自生地を詳しく書かない、自生地に踏み込まない

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珍しい植物を見たら、写真を撮ってSNSやブログにアップしたい気持ちは理解できるが、その前に少しだけ考えてほしい。写真を撮る前、そして撮ってからの行動は慎重に行う必要がある。登山、そして植物愛好家の“たしなみ”として知ってほしいこと――。

 

トガクシショウマ(別名トガクシソウ)はメギ科の高山植物で、長野県・戸隠山で見つかったために戸隠の名前が付いている。本州の東北~中部地方に分布。花の直径は2~3cm、草丈は30cm程度。花びらのように見えるのは萼片で、花弁はその内側にある。個体数が少なく、ほとんど見ることはない絶滅危惧植物だ。

トガクシショウマの花。ほとんど見ることはない絶滅危惧植物だ


昔からトガクシショウマの自生地は一部の花好きには知られていたが、トガクシショウマは長年変わりなく守られてきた。近年、インターネットにトガクシショウマの画像が出ることが増えてきた。しかし、トガクシショウマの自生地は、インターネットやSNSなどでは詳しく書かれていないことが多い。

これはマナーとして広がりを見せており、よいことだと思う。トガクシショウマの自生地が広まることによって多くの人が押し寄せ、自生地が荒らされたり、盗掘をされたりすることを恐れているのだ。絶滅危惧植物の自生地情報はインターネットなどに詳しく書かない、そっとして欲しい、これをマナーとして知っていて欲しい。
 
絶滅危惧植物の保護の方法はもうひとつある。八ヶ岳のホテイラン自生地では、ここに珍しい花があると明記し、わかりやすく発表している。自生地にはロープが張ってあり、踏み込みはほとんどできない。多くのホテイランは、毎年調査がなされており、生育状況などが記録されている。これにより、踏み込みや、盗掘がほとんどなくなったようである。とてもよい方法だが、現地の方々の協力や行政の力が必要になり、難しい部分もある。

トガクシショウマの若い株は小さく目立たない

花びらのように見えるのは萼片で、花弁はその内側となる


先日、トガクシショウマを探して山を歩き、ようやく見つけることができた。やっと出会うことができたトガクシショウマ。花そのものはとても美しく、すばらしい高山植物だった。しかし、ここには残念な点もあった。

トガクシショウマの自生地では、撮影のためだと思われる、斜面に踏み込んだ足跡があった。よく見ると何株も、トガクシショウマが踏み倒されて折れていた。

踏まれ、倒され折れていたトガクシショウマ。こんな姿は見たくない・・・


トガクシショウマを撮影しようとした人間が、今咲いている花ばかりに目をやって、自生地に入り込み踏み付けたようだ。さらに多雪地の滑りやすい土質の斜面を無理して登ったために、足を滑らせて斜面の表層の土をはぎ取り、数株を根絶やしにしているようにも見える。こんなことでは、手前のトガクシソウはどんどん減ってしまうだろう。実際、私の知人は、トガクシショウマは減っていると知らせてくれた。もうすでに荒らされ始めているようだった。

マナーとして以下のふたつはどうだろうか。

  • 1.絶滅危惧植物は、インターネットに、詳しい位置情報は書かない。

  • 2.踏む可能性がある場合、自生地には絶対に踏み込まない。


植物を愛し、撮影する人が、植物を絶滅に追いやる。バカバカしく、よくない行為だ。撮影するときは、常に足元に気を付ける。そして、自生地には踏み込まない。足元にはまだ咲いていない、トガクシショウマの芽があるかもしれないと想像する必要もある。私もいつも気を付けている。皆さんも一緒に気を付けて欲しい。植物の保護には多くの方々の協力が必要だ。

なかなか出会うことがないトガクシショウマ。できるだけうまく撮影したいのは人情だ。私は望遠レンズを持っていき、離れた場所から撮影した。花は微風に吹かれて、ずっとゆらゆら揺れている。こんな時は揺れるタイミングに合わせ、たくさんシャッターを切るしかない。たくさん撮ったトガクシショウマの写真を、今パソコンの画面で見ている。この美しい花が、来年も、また来年も、そしてずっと咲き続けることを強く願う。

 

プロフィール

髙橋 修

自然・植物写真家。子どものころに『アーサーランサム全集(ツバメ号とアマゾン号など)』(岩波書店)を読んで自然観察に興味を持つ。中学入学のお祝いにニコンの双眼鏡を買ってもらい、野鳥観察にのめりこむ。大学卒業後は山岳専門旅行会社、海専門旅行会社を経て、フリーカメラマンとして活動。山岳写真から、植物写真に目覚め、植物写真家の木原浩氏に師事。植物だけでなく、世界史・文化・お土産・おいしいものまで幅広い知識を持つ。

⇒髙橋修さんのブログ『サラノキの森』

髙橋 修の「山に生きる花・植物たち」

山には美しい花が咲き、珍しい植物がたくさん生息しています。植物写真家の髙橋修さんが、気になった山の植物たちを、楽しいエピソードと共に紹介していきます。

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